映画館は感動する場所のはずが…180度価値観が変わった映画界でどう生きるのか
きっかけはミュージシャンの鈴木慶一さんのツイート
――一方、「ミニシアターを救え!」と動いている監督たちもいますね。
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「もちろん、それには賛同はしているのですが、まず、自分自身の精神が落ち込んでいることが一番不健全だと思いました。そんな時に、映画を作るというアイデアに乗っかったら、結構元気になったんですね。何よりも、映画を作ることで、自分が一番元気にさせられている。知恵を絞って、何よりもスピードが大切だ、と感じました。みんな、どこかでモヤモヤしている状態だと思います。なんとか自粛をすれば、このコロナ禍を乗り切れると信じている人たちがいて、そういう人たちを応援するような映画を作りたいと思いました」
――高校の同級生がオンライン飲み会をするというストーリー。その着想は?
「一番のきっかけはミュージシャンの鈴木慶一さんのTwitterを見たこと。慶一さんのツイートには毎回、励まされるところがあって、よく見ているんですが、昔の友達とオンライン飲み会をやって、すげえ楽しかったと書き込んでいたんです。『こんな時は、こんなことをするんだよ』と書いていて、パソコン画面と自分を撮っている笑顔の写真も載せていた。それがすごくよかった。それを見たときに、これはオンライン飲み会を題材にして1本作れるな、と思いました。リモート打ち合わせでそんなことを話しているうちに、これはかつて自分が撮った『きょうのできごと』(2003年)だなと思ったわけです」
――「きょうのできごと」は後に芥川賞作家となる柴崎友香さんのデビュー作が原作。妻夫木聡や田中麗奈が出演し、京都で暮らす若者の日常を描いた青春群像劇です。もともと「続編を撮りたい」と言っていましたね。
「ずっと前から、続編は撮りたいとは思っていて、柴崎さんには『きょうのできごと 十年後』という小説も書いてもらっていました。これを機に今のコロナ禍の中で観直してみると、こういう風景はあったな、と。この映画は2001年の“9・11”があったことがきっかけになっています。アメリカで大変なテロ事件が起こっているにも関わらず、日本で暮らす自分たちは同じ日常がある。最初は“9・11”が起こった日に飲み会をやっているという設定だったのですが、それではあまりに他人事すぎる、と感じ、クジラが海岸に漂着したというニュースをめぐって、何かを思う人、思わない人という形にしました。クジラというのは“9・11”のツインタワーの比喩だったんです」
――クジラというのは、原作には映画のオリジナル・アイデアでしたね。「きょうのできごと a day in the home」ではテーマが映画になっています。脚本作りはどのようにしたのでしょうか。
「具体的な脚本作りは直接会って話し合うということはなくて、完全にリモート。ただ、こういうことは慣れていますから。伊藤さんが書いた部分もあるし、僕が書いた部分もあって、最終的にはきれいにまとめてもらいました」
(中編に続く)
□行定勲(ゆきさだ・いさお)1968年生まれ、熊本県出身。2000年、「ひまわり」で長編監督デビュー。01年、「GO」で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ数々の賞に輝き、一躍脚光を浴びる。04年、「世界の中心で、愛をさけぶ」は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象に。舞台「趣味の部屋」などの演出も手掛け、16年、毎日芸術賞演劇部門寄託賞の第18回千田是也賞を受賞。今後は映画「劇場」「窮鼠はチーズの夢を見る」の公開を控える。