「さっさと辞める、次を探す」 社会人の五月病、医師の“処方箋”「ひどくなる前に」対処

入社早々でも働く気力が起きない、長期休暇から出社したくない――。ゴールデンウイーク(GW)明けに、憂うつな気分に陥る「五月病」に悩む人は少なくないだろう。就職・転職・新年度での環境の変化。新社会人だけでなく、これまで頑張ってきたビジネスパーソンであっても、ストレス社会の中では油断できない。時期的にうつ病などを取り上げるメディア報道が多くなることもあり、情報に何度も触れることで、健康だったのに心が落ち込んでしまうリスクも生じてくる。よりよい連休中の過ごし方、より効果的な向き合い方とは。外科医・免疫学者・漢方医として活躍し、五月病の相談・診察にも取り組む新見正則医師に聞いた。

社会人で五月病に悩む人は少なくない(写真はイメージ)【写真:写真AC】
社会人で五月病に悩む人は少なくない(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「自分を見つめるリテラシー」の重要性…新見正則医師が解説

 入社早々でも働く気力が起きない、長期休暇から出社したくない――。ゴールデンウイーク(GW)明けに、憂うつな気分に陥る「五月病」に悩む人は少なくないだろう。就職・転職・新年度での環境の変化。新社会人だけでなく、これまで頑張ってきたビジネスパーソンであっても、ストレス社会の中では油断できない。時期的にうつ病などを取り上げるメディア報道が多くなることもあり、情報に何度も触れることで、健康だったのに心が落ち込んでしまうリスクも生じてくる。よりよい連休中の過ごし方、より効果的な向き合い方とは。外科医・免疫学者・漢方医として活躍し、五月病の相談・診察にも取り組む新見正則医師に聞いた。

 五月病の症状はさまざまで、気分の落ち込み、体の不調・だるさ、実際にうつ病になっている状態、それらすべての総称として「五月病」と言います。長引くと悪化する可能性もあるので、おかしいなと感じたら、早めに心療内科やメンタルクリニックに相談することが重要です。

 慣れない環境や新しい人間関係の中で、気分が落ち込むことはあるでしょう。その一方で、少し厳しい言い方かもしれませんが、社会は不平等で不公平です。自分と合わない上司や同僚もいるでしょう。その中で働かなければなりません。「社会は甘くない。耐えて頑張ることも必要」ということを改めて認識したいですね。ただ、ひどくなる前に対応することが何より重要です。耐えて悪化しては元も子もありません。

 1つアドバイスを送ります。「自分の精神が追い詰められる状況なら、さっさと辞める、次を探す」ということです。まずは、自分が置かれている状況を冷静に分析することです。働き過ぎであるのならば、会社の仕組みや体制に問題があるので、会社に解消を相談するか、転職も選択肢です。問題のある上司がいるのならば、会社に相談して人事面で手を打つことができるでしょう。いざ働いてみて、業種や業務内容がマッチしないのならば、違う分野に転職するのも一手です。人に使われるのが嫌だと感じるのならば、思い切って起業してみたらどうでしょうか。自分がオーナーになって、自分の裁量で働くことができます。経営がうまくいくのか不安や心配が出てくるとは思いますが、独立の際に乗り越えるべき課題の1つとして捉えましょう。

 大切にしたいのは、「自分が何をしたいのか」ということです。自分のやりたいことをやる、自分で選択する。せっかくの人生、自分のしたいことに思いっきり挑戦したいですよね。

 本当につらいのならば、自分の状態がひどくなってしまう前に、その環境から離れることが有効策です。会社や組織は、入ってみないと分からない部分があるでしょう。そこに無理やり合わせようと苦労して、心身が疲れてしまいます。新しい職場を探したり、学び直し(リスキリング)に取り組んで自己研鑽(けんさん)にはげんだり、選択肢はたくさんあります。ただ、日本はまだまだ雇用の流動化が進んでおらず、再就職がしにくい状況、言わば「働き方の昭和モデル」が続いている実情もあります。変化を避けたい会社と労働者の心理。そして、「せっかくいい会社に入ったのだからずっといなさい」「一度入った会社は残り続けないとダメ」といった空気感の押し付け。日本の問題点でもあり、こういった社会の雰囲気が、五月病というものを深刻化させている側面があるかもしれません。

 ところで、私のクリニックでは自費診療ですが、五月病に悩む方の外来相談を受けています。全国・海外の方々と、対面や電話で、1時間ほどお話をします。それこそビジネスパーソンの方には、「さっさと辞めてはどうか」「それならば起業しなさい」と伝えます。そうすると、皆さんは「そこまではいかないので、今の職場のストレスでも頑張れます。だったら、今の環境の方がいい気がします」となります。うつうつと1人で抱え込んでしまわないで、誰かとしっかり話すことは効果的だと考えています。

イグノーベル医学賞受賞の経験を持つ新見正則医師【写真:本人提供】
イグノーベル医学賞受賞の経験を持つ新見正則医師【写真:本人提供】

SNSをシャットアウト、メディアにどっぷり…「どっちがハッピーになるか」

 現代の人間関係はどこか希薄で、自分のことを打ち明けて話せる人がどんどん少なくなっています。私の人生訓ですが、「表面的な友人は多くていいけど、本当の友人は少なくていい」と思っています。自分のことをすべて話せる、腹を割って話せる友人は、1人でもいいですし、ほんの数人いるだけで大丈夫です。心の安定につながります。

 五月病やうつに関するニュース記事、映像は世の中にあふれています。どう向き合うべきか。これに関しては、人それぞれです。メディアを遮断することで元気になる人がいれば、読み込んで元気になる人もいます。大事なのは、自分がどのタイプなのか、自分自身を把握しておくことです。「自分を見つめるリテラシー」を高めたいですね。メディアの発信を参考にして、情報の取捨選択は自分で決めることが大事です。メディアやSNS情報の中には、うそや忖度(そんたく)が紛れているものです。しっかり勉強することも大切です。

 例えば、この連休中に、メディア断食をやるのはどうでしょうか? 丸1日、SNSを開かず、ネットニュースを見ず、メディアに触れず、シャットアウトする。逆に、1日どっぷりメディア情報に漬かる日を作ってもいいかもしれません。両方やってみて、どっちがハッピーになるか。仕事のこと、置かれている立場・環境のこと、将来のことを考える時間を含めて、自分自身を見つめ直すGWとして過ごしてみるのもいいかもしれません。

□新見正則(にいみ・まさのり)1959年、京都府生まれ。85年、慶応大医学部卒業。98年、移植免疫学で英オックスフォード大医学博士取得(Doctor of Philosophy)。2002年から帝京大医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。13年、イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。現在、新見正則医院院長。自由診療のクリニックで世界初の抗がんエビデンスを得た生薬フアイアを用いて、がん、難病・難症の治療を行っている。最新著作は『フローチャートコロナ後遺症漢方薬』。

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