Netflix韓国映画『キル・ボクスン』が1位 人気のワケはギャグ性高い強烈アクションと悩める母親像
配信中の韓国アクション映画『キル・ボクスン』が世界的なヒットを飛ばしている。今週発表のNetflix映画TOP10(非英語部門、3~9日集計)で1位を獲得しており先週の初登場1位に続き首位に立っている。同作は3月31日の配信スタート直後から人気を集め、今週は世界80か国でTOP10入り。南米、欧州、アジアなど幅広い地域で支持を集めている。14日のグローバルOTTランキングサイト・フリックスパトロールによると、日本でも4月2日に1位に上がった後、13日まで同部門のランキング1位を続けている。タイトルは主人公の名前で、「キル」には「kill」の意味が込められている。暗殺者と母親という二重性を描いた同作にはどのような魅力があるのだろうか――。
主演のチョン・ドヨンはカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞
配信中の韓国アクション映画『キル・ボクスン』が世界的なヒットを飛ばしている。今週発表のNetflix映画TOP10(非英語部門、3~9日集計)で1位を獲得しており先週の初登場1位に続き首位に立っている。同作は3月31日の配信スタート直後から人気を集め、今週は世界80か国でTOP10入り。南米、欧州、アジアなど幅広い地域で支持を集めている。14日のグローバルOTTランキングサイト・フリックスパトロールによると、日本でも4月2日に1位に上がった後、13日まで同部門のランキング1位を続けている。タイトルは主人公の名前で、「キル」には「kill」の意味が込められている。暗殺者と母親という二重性を描いた同作にはどのような魅力があるのだろうか――。
(※以下、ドラマの内容に関わる記述があります)
同作は第73回ベルリン国際映画祭のベルリナーレ・スペシャルに正式招待されたことで早くから注目を集めていた。キル・ボクスンは一流の殺人組織に属する伝説の殺し屋である一方、普段の生活では娘を持つシングルマザーという二重生活を送っている。ある日、ボクスンは政治家の息子を暗殺する仕事に向かったが、暗殺依頼の内容が納得できず作戦を中止。会社には「失敗」として報告した。凄腕ボクスンに「失敗」はあり得ず、組織から疑問の目を向けられるうちに、殺人組織の組合や内部分裂などが次々と起こり、窮地に追い込まれていく……。ボクスン役で主演した俳優チョン・ドヨンはソウル芸術専門大学放送演芸科卒業。『ハッピーエンド』(1999年)、『ユア・マイ・サンシャイン』(2005年)などの映画に出演し、2007年の第60回カンヌ国際映画祭では『シークレット・サンシャイン』で主演女優賞を受賞したほどの演技派として知られている。最近では予備校講師と恋に落ちる惣菜店主に扮したNetflixドラマ『イルタ・スキャンダル~恋は特訓コースで~』が日本でも1位となった。
そのチョン・ドヨンが過激なアクションシーンを披露している。斧から日本刀、銃、ガラスのコップ、鍋、ロープなどを武器にして敵と戦うボクスンを、50歳とは思えないダイナミックかつシャープな動きで演じており息をのむ迫力だ。それとは対照的に家庭では反抗気味の娘に悩む母親をナイーブに演じている。また、組織内にも格差が生じており、仕事の少ない同僚らから恨みを買うといった場面も登場する。『イカゲーム』で描かれた格差社会の現実が『キル・ボクスン』の中にもしっかり描かれているのだ。
こうした二重性は、富める者と貧しい者、表社会と裏社会、暗殺者と母親といったところだけではなく性的マイノリティーや親と子どもの関係などでも描かれる。興味深いのは、子育てに苦労する母親としてのボクスンが自身の心の中にあった壁を乗り越えていくところ。ラストではある仕掛けによって隠していた自分の正体が娘にバレてしまうのだが、実はこのハプニングで娘は成長し自身を受け入れていくようになる。そして最も痛快なのは、娘にも“暗殺者”としての素質があるかのような見せ方だ。こうして母親と娘の間にあった壁、2人の心の中にあったそれぞれの壁が消え絆が深まっていく。殺人より子育ての方が何倍も難しいと思っていたボクスンの悩みも収束していった。
時にストーリーの流れが滞るきらいがあり目をそむけたくなる残虐なシーンもあるが、これらはNetflix映画だからできたこと。包丁や鍋などを使った乱闘シーンは過剰でギャグ性が高いブラックコメディも取り入れるなど独自に工夫されており、映画『キル・ビル』や『インディ・ジョーンズ』、『シャーロック・ホームズ』シリーズへのオマージュもあるようだ。冒頭のヤクザ暗殺シーンでは日本語のせりふも楽しめる。製作費は約15億円。名優ソル・ギョングのほかキム・シア、イ・ソム、ク・ギョファンの演技も光る。ラストはいったん終わるかのように暗くなるが、最後にこの物語をまとめあげる重要な学校シーンが登場するのでお見逃しなく。ビョン・ソンヒョン監督。2時間17分。