葉加瀬太郎、敬愛する“先輩”坂本龍一さんへの思い ツアー初演の会場で無言で示したこと
バイオリニストの葉加瀬太郎が9日、東京・J:COMホール八王子で全国ツアー『葉加瀬太郎 コンサートツアー2023 NH&K TRIO スーパーチェンバーミュージック~Adagio~』をスタートした。代表曲『情熱大陸』『エトピリカ』など16曲を披露し、満員となった約2000人の観客を魅了した。
葉加瀬、西村由紀江、柏木広樹が奏でる「音楽の会話」
バイオリニストの葉加瀬太郎が9日、東京・J:COMホール八王子で全国ツアー『葉加瀬太郎 コンサートツアー2023 NH&K TRIO スーパーチェンバーミュージック~Adagio~』をスタートした。代表曲『情熱大陸』『エトピリカ』など16曲を披露し、満員となった約2000人の観客を魅了した。(取材・文=福嶋剛)
開演前の会場。坂本龍一さん(享年71)の楽曲ばかりがBGMになっていることに気付いた。ソロアルバム『音楽図鑑』の『SELF PORTRAIT』など坂本さんのソロ作品だ。また途中の休憩時間中も坂本さんがブラジルの著名なミュージシャンと結成したボサノバトリオ『モレレンバウム2/坂本龍一』のアルバム『Casa』からの選曲が流れていた。葉加瀬にとって坂本さんは東京芸術大の先輩でもあり、尊敬する音楽家。ラジオ番組での共演はあるが、ステージ上で一緒に演奏する夢はかなわなかった。だからこそ、流したBGM。一方で、公演中は坂本さんに触れず、坂本さんの曲を奏でることもなかった。それが、葉加瀬の弔意とリスペクトの示し方だった。
今回のツアーは、10代の頃から気心が知れた、ピアニストの西村由紀江(=N)、バイオリンの葉加瀬(=H)、チェリストの柏木広樹(=K)がNH&Kトリオを結成し、3月22日に発売したニューアルバム『Adagio』の曲を中心に演奏した。客電が落ち、3人がステージに登場すると、まるで小学生が声を合わせるように「NH&Kトリオです!」と笑顔であいさつ。息の合った第一声に会場から大きな拍手と笑いが起きた。
続けて葉加瀬が深々と頭を下げ、観客に感謝を伝えた。
「先月CDデビューしたばかりの新人バンドです(笑)。今回のテーマは室内楽(=チェンバーミュージック)です。その中でもピアノトリオはクラシックでは王道中の王道でそれぞれの役割がとっても大切なんです。演奏人数が減るとやらなくてはいけないことが増えるんですが、その分、今回はたくさん弾きます。そして、この3人で音楽の会話をしていきたいと思います。そんな記念すべき3人の全国ツアーの初日にこんなにたくさんのお客様に集まっていただき本当にありがとうございます」
葉加瀬はこれまでフルオーケストラやバンドなど、さまざまな形式のライブを披露しているが、今回も冒頭のMCでコンセプトを示し、観客をひき込んだ。
公演は2部構成で、1部は大スクリーンに映し出される世界の映像をバックに、旅の気分を味わえる雰囲気を演出した。第2部でも大スクリーンを駆使し、バイオリン、ビオラ、コントラバスを加えた7人編成で代表曲の『Another sky』『リベルタンゴ』など披露。時にそれぞれがアイコンタクトをし、特別な音色を響かせた。
本編が終了すると、小学生から高齢者まで世代を超えて集まった観客から、「アンコール」の大きな手拍子が鳴った。
葉加瀬が再び登場すると7人で『情熱大陸』を演奏。観客は一斉に立ち上がり、今回の人気グッズ「ハカセンスライト(扇子形のペンライト)」を手に持ち、コロナ禍でしばらく自粛していた応援が復活した。大きくペンライトを振って楽しむ子どもたち。カラフルに照らされた客席からはたくさんの笑顔がこぼれ、葉加瀬も優しい顔で弦を弾いた。
「世界、そして日本でも毎日、毎日悲しいニュースがたくさんありますけど、少しでも心が安らかになるような、そんな日が1日も早く訪れるように最後に演奏させていただきます。また、お会いできる日を楽しみにしています」
少し感極まったような表情を見せた葉加瀬は、アルバム未収録の配信シングル『Adagio』を披露し、コンサートは終了。大きく手を挙げ、笑顔でステージを後にした。直後、大スクリーンには、コンサートに携わった全スタッフの名前が映し出された。ミュージシャン、スタッフ、観客全員で作り上げた思いが、そこに込められていた。
同ツアーは既に全公演がソールドアウト。この日は、秋のコンサートツアー『THE SHOW TIME』の開催が発表され、観客をまた喜ばせた。