春に注意 天気の変化によって頭痛やだるさ、なぜ起こる? 「天気痛・気象病」医師が語る対処法
天気の変化によって頭痛やだるさ、めまいといった症状が出る「天気痛・気象病」が注目を集めている。低気圧が近付いてきたり、雨が降りそうになったり、そうした天候の移り変わりに気をもむ人も多いだろう。春の新生活が始まり、新たな環境に慣れずに心身を崩しやすく、注意したい時期でもある。長年、診察・治療にあたってきた専門家で、あんどう内科クリニック院長(岐阜市)の安藤大樹医師が寄稿し、発生のメカニズムや対処法を解説した。
心身を崩しやすい新生活の時期に要注意 診察・治療にあたる安藤大樹医師に聞いた
天気の変化によって頭痛やだるさ、めまいといった症状が出る「天気痛・気象病」が注目を集めている。低気圧が近付いてきたり、雨が降りそうになったり、そうした天候の移り変わりに気をもむ人も多いだろう。春の新生活が始まり、新たな環境に慣れずに心身を崩しやすく、注意したい時期でもある。長年、診察・治療にあたってきた専門家で、あんどう内科クリニック院長(岐阜市)の安藤大樹医師が寄稿し、発生のメカニズムや対処法を解説した。
そもそも、天気痛・気象病とは、気象・天候の変化によって症状が出現する、あるいは悪化する疾患の総称のことをいいます。これは、世界保健機関(WHO)が作成している病気の分類として国際的に利用されているICD-10(国際疾病分類)には定義されておらず、いわゆる正式な病名ではありません。ただ、その歴史は意外に古く、日本でも1940年代前半には、すでに「気象病」という呼称で報告されています。もっとも、「天気が悪くなると古傷が痛む」なんてことは恐らく有史以前からあったはずですし、雨乞いで国をまとめていた卑弥呼や、雨の中の奇襲戦で桶狭間の戦いに勝利した織田信長なども、実は今で言う天気痛だったなんて説もあります。古くて新しい病気なのです。また、ロート製薬株式会社とウェザーニュースが2020年に共同で行った調査では、全体の約6割、特に女性の約8割が天気痛の自覚があると報告しています。花粉症と並ぶ国民病と言えるかもしれません。
長い間その発生メカニズムに関しては不明な点が多かったのですが、最近になりその原因が明らかになってきています。その正体はズバリ“耳”、正確に言うと耳の中の“内耳”という器官です。耳は大きく分けて“外耳”“中耳”“内耳”の3つに分けられ、一番奥にあるのが“内耳”です。内耳は伝わってきた音を神経の信号に変える“蝸牛”とバランスをつかさどる“前庭”や“半規管”からなり、これらの中はリンパ液という液体が入っています。
天気痛で特に大切な部分は“前庭”と、そこから脳につながる“前庭神経”です。少し難しい話になりますが、気圧の変化が起こると前述したリンパ液が揺れて、前庭神経が興奮します。そうすると、すぐそばの三叉神経が興奮して神経伝達物質を放出、それに反応して脳の血管が拡張して炎症物質が放出され、頭痛が引き起こされます。
また、天気によって引き起こされる頭痛以外の症状(だるさ、肩こり、腰痛など)も、内耳が原因であることが分かってきました。前庭神経は前庭や半規管から送られてきたバランスの情報を脳に送るのですが、気圧の変化に伴う情報は実際のバランス情報と“ズレ”がありますので、脳が混乱してしまいます。この混乱で自律神経が乱れ、興奮した交感神経が全身の血管を収縮させて、血液の流れが悪くなります。その結果、全身のいろいろな場所に痛みやコリが出たり、もともと痛い場所がさらに痛くなったり、だるさやめまいなどが起きたりするのです。
つまり、天気痛・気象病は、「気圧の変化そのものによって起こる症状(頭痛・めまい)」と、それを補正しようとした結果として起こる、「自律神経の乱れによって起こる症状(だるさ、肩こり、動悸、食欲低下、便秘・下痢、生理の乱れ、腰痛、手足の冷え、むくみなど)」に分けて対処する必要があります。
どんな予防策や対処法が効果的になるのか、皆さん気になっていると思います。ひとことで天気痛・気象病といっても、皆さんが同じタイミングで体調を崩されるわけではありません。天気が悪くなる直前に体調を崩す方、低気圧が発生した段階で体調を崩される方、1日の中の寒暖差だけでも体調を崩してしまう方などさまざまです。予防策を考える時、まずはご自分が体調を崩すパターンを知っておく必要があります。日本頭痛学会のウェブサイトにある「頭痛ダイアリー」を使うと、ご自分がどんなタイミングで頭痛が出てくるか分かってきますし、最近は、気象と症状の関係を通知してくれるさまざまなアプリがありますで、利用してみるのもいいでしょう。
低気圧が近付いてくる、雨が降りそうなど、強い症状が起こる直前の場合に効果的なのは、前述の「気圧の変化そのものによって起こる症状」への対策です。気圧の変化を感じる内耳の血流をよくすることが大切で、そのためには、「耳の周りの血流をよくすること」が必要です。というのも、耳の周りの血行が悪くなると、内耳がむくんで過敏になり、天気痛を起こしやすくなるからです。内耳の血行をよくするには、耳の後ろにあるツボ(完骨)のあたりに、ホットタオルやカイロなどを当てたり、寒い季節にはニット帽やマフラーなどで、日頃からなるべく耳を冷やさないようにしたりするといった防寒対策も有効です。
効果的なのは「くるくる耳マッサージ」 生活習慣を整えることもポイント
さらに効果的なのは「くるくる耳マッサージ」です。これは、天気痛・気象病の第一人者である、愛知医科大客員教授の佐藤純先生が考案された、内耳の血流をアップさせる運動です。耳をつまんで、軽く引っ張ったり、回したりするなどの動作なので簡単にできます。
症状が強い場合は、病院で処方を受けることを検討してみてください。そもそも正式な病名ではありませんので、現時点で天気痛・気象病そのものに適応がある薬はありませんが、内耳のバランスを整える作用のあるめまいの薬は、理論的には効果が期待できます。また、天気痛・気象病の原因の1つは、気圧の変化によって体内の水分バランスが乱れることによって起こされると考えられています。この状態を東洋医学的に「水毒」といいますが、この「水毒」を改善する効果のある漢方薬も、処方される場合があります。
最後に、春の新生活が始まるうえで、伝えたいアドバイスがあります。まずは、ご自身が天気痛・気象病になりやすいかどうかを知る必要があります。「チェックリスト」として、15項目があります。例えば、「天気の変化に敏感で、雨が降ることや気圧が変わるのがなんとなく分かる」(内耳敏感タイプ)、「気分の浮き沈みが、天気によって左右されることがある」(天気影響タイプ)、「偏頭痛持ちである」(原因ありタイプ)などです。1つでも当てはまる方は、“なりやすい方”ですので、積極的に対策をたてていきましょう。
自分が天気痛・気象病になりやすいと分かったら、もう1つの症状の柱である「自律神経のバランスを整えること」を意識しましょう。以下にポイントを挙げますが、個人的には「太陽が昇っている時はアクティブに、太陽が沈んだ後はリラックスして過ごす」ことが大切だと思っています。
・毎日同じ時間に起きて、太陽の光を浴びる
・毎日しっかり朝食を食べる
・日中にウオーキングなどの有酸素運動をする
・ヨーグルトや納豆などの発酵食品で、腸内環境を整える
・ぬるめのお風呂にゆっくり入る
・就寝時間を一定にし、質のよい睡眠を心がける
さらにこだわりたい方は、体の代謝を促し脳や神経を正常に保つビタミンB、イライラやストレスを軽減する亜鉛とマグネシウム、天気痛が出やすくなる貧血を改善させるための鉄分やビタミンCを積極的にとったり、ちょっと熱めの足湯に漬かって質のよい汗をかく練習をしたりしましょう。
□安藤大樹(あんどう・だいき)医療法人社団藤和会 あんどう内科クリニック院長。藤田保健衛生大(現・藤田医科大)卒業後、同大病院研修を経て、同大病院総合診療内科所属。2011~15年にかけて同院最優秀指導医賞受賞。岐阜市民病院総合内科を経て現職。岐阜大総合病態内科学非常勤講師、藤田医科大救急総合内科客員講師、岐阜市民病院研修管理委員会外部委員。「医療よろず相談所」をクリニックのコンセプトに掲げ、医療に関わるあらゆる問題に向き合う生粋のプライマリケア医。「プライマリケアは日本の医療を救う」と信じ、若手医師の教育も積極的に行っている。
医療法人社団藤和会 あんどう内科クリニック http://andoc-clinic.com/