メンバーの病気、活動休止…なぜこんなに次々と Mr.ふぉるてが壁を乗り越えて見えた先
平均年齢22歳の4人組ロックバンド、Mr.ふぉるてが、新作『A disease called love』を引っ提げ、4月から自身最大規模の全国ツアーをスタートさせる。温かい歌詞とボーカル・稲生司の繊細な歌声がZ世代の心をつかみ、インディーズ時代から注目されてきた若手バンド。だが、コロナ禍でのメジャーデビューや病気療養に伴うメンバーの活動休止など、困難が相次いだ。それらを乗り越えて迎えた6年目。4人がバンドの今を語った。
相次ぐ困難を乗り越えて6年目を迎える
平均年齢22歳の4人組ロックバンド、Mr.ふぉるてが、新作『A disease called love』を引っ提げ、4月から自身最大規模の全国ツアーをスタートさせる。温かい歌詞とボーカル・稲生司の繊細な歌声がZ世代の心をつかみ、インディーズ時代から注目されてきた若手バンド。だが、コロナ禍でのメジャーデビューや病気療養に伴うメンバーの活動休止など、困難が相次いだ。それらを乗り越えて迎えた6年目。4人がバンドの今を語った。(取材・文=福嶋剛)
バンド結成は2017年。ギターの阿坂亮平が別々の高校に通っていたメンバーに声をかけ、4人が集まった。バンド名の“ふぉるて”は、『みんなで強くなりたい』という思いを込めて音楽用語のフォルテッシモから引用した。
阿坂「他校の軽音部同士でよく合同ライブをしていたとき、対バン相手だった(稲生)司くんの歌声に引かれて声をかけました。それで一緒にカラオケに行ったら、2人ともSEKAI NO OWARIが大好きで『眠り姫』や『SOS』を歌って意気投合しました。ほかの学校に通っていたベースの(福岡)樹くんとドラムの(吉河)はのんちゃんを誘って、『バンドをやろう』と言ってスタートしました」
ギターの阿坂はONE OK ROCKでギターに目覚め、ベースの福岡はBUMP OF CHICKENやサカナクションに刺激を受けてベースを始め、ボーカルの稲生はSEKAI NO OWARIに大きな影響を受けた。そこにドラムの吉河を加えた4人の彩りあるサウンドと稲生のどこか不器用でまっすぐな歌詞が若い世代の共感を生んだ。
稲生「子どもの頃から人とコミュニケーションを取るのが苦手で小中高と不登校の時期がありました。音楽を始めたのは、家で落ち込んでいたときにラジオから流れてきたSEKAI NO OWARIの曲に救われたのがきっかけです。本格的に曲を作り始めたのはバンドを結成してからです。最初はボキャブラリーの数も少なくてストレートな恋愛ソングばかりでしたが、映画鑑賞が趣味だったので、日本語字幕の特徴的な言葉をメモして徐々に表現の数を増やしていきました」
翌18年にYouTubeで発表した『口癖』が話題となり、結成1年のインディーズバンドがテレビ東京系『ゴッドタン』、『モヤモヤさまぁ~ず2』のエンディングテーマを獲得。一躍、注目のバンドになった。
稲生「僕の歌詞やメロディーは色に例えるとモノクロなんです。それを(阿坂)亮平くんがアレンジという色を加えてくれて、(福岡)樹くんと(吉河)はのんちゃんの演奏で濃い鮮やかな色に仕上げてくれる。Mr.ふぉるての音楽はそんな感じだと思います」
21年にメジャーデビューが決まり、新たなスタートを切ったが、コロナ禍で思うようなライブ活動ができず、もやもやした毎日が続いていた。22年夏、稲生がぜんそくで歌えなくなった。
稲生「去年の7月に喉をやられてしまい、その延長でひどいぜんそくになって3週間以上咳が止まりませんでした。お医者さんからは『この先歌う仕事はちょっと厳しいかもしれません』と言われました。音楽ができなくなってしまうという底なしの絶望感で、再び孤独が襲ってきました。それで、メンバーやスタッフには一切連絡を返せない状態が長く続いてしまいました」
音信不通の稲生に皆が不安を募らせた。助けたくても、何もしてあげられない歯がゆさでメンバーも落ち込んだという。
福岡「司くんと連絡が取れなかったので不安でしたけど、今まで一緒にやってきた司くんが急にバンドを離れることはないだろうって信じていたので、待つだけだと思っていました」
阿坂「僕たちは毎回何かしら壁があるバンドというか、同期のバンドからは『お前たちはとんとん拍子で進んでいていいな』って言われることもあるんですけど、こんなに次々と壁を乗り越えなくちゃいけないバンドって、他にいるのかなって思いました」
満月でもない欠けた月に嫉妬して『無重力』が完成した
稲生は約1か月後に奇跡的に回復し、バンドに復帰後、すぐに新曲を書き下ろした。
稲生「休んでいる間、医者とスーパーと自宅を往復する毎日が続いていたんですが、ある日スーパーの帰り道にカップルとすれ違って、その女性が男性に『見て! 今日は月がきれいだよ』って大きな声で空を指差したんです。思わず僕も空を見上げて月を見たら、ぜんぜん満月でもない欠けた月だったんです。でも、そんな完璧じゃない月でも『きれいだ』と思えるシチュエーションに出会って、生まれて初めて人以外のものに嫉妬してしまいました。それをメモして『無重力』という曲が完成しました」
現在も歌い方を少し変えるなど試行錯誤しながら活動を続ける中、抗えない現実を重力と表現し、活動休止中の状態とその重力さえ感じなくなる程の衝動が、そのままつづられている。
(♪満月でもない月 『綺麗』と誰かが言う 完璧じゃなくてもいいって 言われているみたいで お月さまが羨ましかった)
稲生「みなさんもいろいろと抱えている悩みや自分の辛いことを大切な人に打ち明けたとき、無重力状態というか軽くなるような瞬間があるんじゃないかなって思ったんです。その瞬間、話を聞いてくれた人から受け取った愛が花の香りのように漂う様子を僕自身の体験をもとに月と宇宙に例えて歌詞にしました」
(♪世界の重力が弱まって 花の香りのように愛が漂った 翼が折れた鳥のような僕だけ 両手を広げれば今夜 どこまでも飛べそうさ)
稲生が戻ってきたとき、メンバーの結束力がより強くなったという。そして、今年3月に『無重力』を収録した5曲入りの新作『A disease called love』を配信リリース。タイトルを直訳すると、「愛と言う名の病気」。さまざまな愛について歌ってきたバンドが、原点回帰となる恋愛の曲を今の視点から作り上げた。また、同作では阿坂がバンド名義では初めて作曲している。
阿坂「バンドの中で説得力がある曲を作るのが司くんの役割だとしたら、僕はファンのみんなが自由に楽しめるMr.ふぉるての新たな一面を見せる役割だと思っていて、今回、実験的にダンスミュージックっぽい曲『promenade』を作りました」
福岡「もともとサカナクションさんが大好きで、跳ねるベースラインに初挑戦したんですが、ライブでやったらきっと盛り上がる曲になると思います」
新作を引っ提げ、4月からバンド最大規模となる全国ツアーがスタートする。このタイミングで今度はドラムの吉河はのんが持病の療養のため、無期限活動休止を発表した。残された3人はサポートメンバーでツアーを行うが、吉河に対する思いは変わらない。
阿坂「やっぱり、はのんちゃんのビートがバンドのグルーヴ感を生んでいるので、これからもMr.ふぉるてのドラムは吉河はのんなんです」
福岡「僕も結成からずっとはのんちゃんとリズム隊としてやってきたので、彼女がいつでも戻って来られるように自分の技術を磨いておきたいと思います」
稲生「僕はいじめや不登校が原因で子どもの頃に友達を作れなかった分、Mr.ふぉるての活動を通してたくさんの人たちと出会うことができたんです。だから去年、病気になったときもバンドを辞めることは考えていませんでした。絶対に自分が手放したくないメンバーがいるバンドって、愛があっていいなって思います」
3人は吉河の分まで、全国のファンにMr.ふぉるての音楽を届けていく覚悟だ。
阿坂「今回のツアーは、バンドとして大きなターニングポイントになりそうな予感があります」
稲生「新しい曲もたくさん演奏してMr.ふぉるての今までの歴史を見せられるようなライブをやりたいと思います」
福岡「僕たちみんなラーメンが大好きなので、ツアー先のご当地ラーメンを制覇したいです(笑)」
□Mr.ふぉるて 2017年3月に結成した4人組バンド。メンバーは全員が東京出身で、稲生司(ボーカル・ギター)、阿坂亮平(ギター)、福岡樹(ベース)、吉河はのん(ドラム)による平均年齢22歳の4ピースロックバンド。18年、オリジナル1作目としてYouTubeにアップしたミュージックビデオ『口癖』が公開直後から10代を中心にSNSで爆発的にシェアされる。21年12月、ビクターエンタテインメントよりメジャーデビュー。22年、メジャー1stフルアルバム『Love This Moment』をリリースし、EX THEATER ROPPONGIでのワンマンライブ含め、ツアーは全公演ソールドアウト。12月、東京 LINE CUBE SHIBUYAで初のホール公演を開催。23年3月、EP『A disease called love』を配信リリース。4月には、バンドとして最大規模となる全国21か所におよぶツアーがスタート。
公式HP:https://mr-forte.com
YouTube:https://www.youtube.com/@Mr.forte
Twitter:https://twitter.com/fofofolte04