個人競技の相撲からチームでのeスポーツへ BeenoStorm・Razzy「みんなと一緒に勝つのはうれしい」

プロeスポーツチーム・BeenoStormのPUBG MOBILE部門に所属するRazzyは、元力士という異色のキャリアを持つ。怪我による挫折を経てたどり着いたeスポーツ選手としての日々、力士としての経験がどのように現在につながっているのかなど、他に類を見ないキャリアで育まれた内面に迫った。

元力士のeスポーツ選手・Razzy【写真:ENCOUNT編集部】
元力士のeスポーツ選手・Razzy【写真:ENCOUNT編集部】

縦社会の相撲部屋からeスポーツの世界へ

 プロeスポーツチーム・BeenoStormのPUBG MOBILE部門に所属するRazzyは、元力士という異色のキャリアを持つ。怪我による挫折を経てたどり着いたeスポーツ選手としての日々、力士としての経験がどのように現在につながっているのかなど、他に類を見ないキャリアで育まれた内面に迫った。(取材・文=片村光博)

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 相撲の世界では強烈な縦社会に身を置いていたRazzy。怪我によって15歳にして力士としてキャリアが終わり、eスポーツの世界に飛び込んだ中で、風土の違いを強く感じているという。

「相撲では、ガチガチの縦社会の中にいました。eスポーツのプロにそういう面はなくて、のびのびとやれています。なので僕は、プロになって責任が生まれたというよりも、解放されたような側面の方が大きいですね。

(eスポーツは)相撲の世界と違って縦社会ではない分、気持ちが楽というのはあります。『PUBG MOBILE』のプロリーグであるPMJL(PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE)で初めて“ドン勝”(1位)を獲ったときの喜びは、やっぱり忘れられないですね。チームのみんなと一緒に勝つのはやっぱりうれしい。相撲では勝つと『強かったな』と褒められ……いや、勝っても怒られるんですけど(笑)。全国大会で優勝したときだけ褒められましたが、ゲームでは『俺ら強いじゃん』とすぐ喜びを共有できる仲間がいたことが忘れられないですし、うれしかったですね」

 個人競技の相撲と違い、PUBG MOBILEでは4人で一つのチームを組んで戦う。チーム競技に憧れを持っていたRazzyにとって、仲間と協力してつかむ勝利は格別のものとなった。プロとしての強みも、チームメイトとの連携にあると明かす。

「僕が得意なのは、VC(ボイスチャット)でのコミュニケーションです。戦況を自分だけが理解して喋らないのではなく、言葉にして味方に伝え続けること。状況に応じたコミュニケーションが得意という自負があります。FPSゲームのPUBG MOBILEは撃ち合いの強さが大事ではあるんですが、それだけじゃ絶対勝てない。その理由が、コミュニケーションだと思っています。しっかり話して、4人で同じ方向に向かった方が絶対に強い。それができることは、僕の強みですね。

 僕はもともと、喋ることが好きなんですよ。それが生きているのかなと。少し前までは僕がチーム最年長だったので、チームメイトは弟のように感じていました。試合外でも『大丈夫』と声をかけたり、『今のはしょうがないから、次は落とさないように行こう』と話すことは極力、やっていました」

 相撲部屋時代は兄弟子から穿った見方をされ、無言の圧力や実際の言葉に心を痛めることもあった。その痛みを他人に向けるのではなく、反面教師とすることで円滑なコミュニケーションを実現している。

「僕はそういう人になりたくなかった、というのが一番です。なぜ、自分がされて嫌なことを下の世代にやってしまうのか、理解できないんです。僕は相撲部屋にいたとき、『異常だな』と思っていました。自分が嫌だと思ったことは下(の世代)にしない。その精神は当たり前だと思っていたので、(相撲部屋での経験は)意外でもあったんです」

Razzyは世界への挑戦に意欲を見せる【写真:ENCOUNT編集部】
Razzyは世界への挑戦に意欲を見せる【写真:ENCOUNT編集部】

eスポーツ選手として目指すは世界「今のメンバーで行けるところまで行きたい」

 相撲に打ち込んでいた時期には、力士になるというプレッシャーや、過酷な練習による疲労と反抗期が重なったこともあり、親との関係がギクシャクしたこともあった。しかし相撲から離れ、eスポーツの道に進んだ今、そこには変化が生まれているという。

「最初は『うさんくさいな』って言われましたね(笑)。でもPUBG MOBILEで日本一も獲っているREJECTのアカデミーに入りたいと話をしたら、当時19歳だったこともあり『まあ若いし、いいんじゃないか』と言ってくれました。それからPMJLに出ることになり、今は応援してくれていますね。LINEも結構、来ます。『こうだったね』とか『応援すごかったよ』とか、うれしいですよね。『自分の好きなようにやりなさい』と言ってもらっていますし、過去のことは気にせずやれています」

 メンタル的にも好転し、eスポーツ選手としての日々を謳歌するRazzy。その中でも大きな支えになっているのは、ファンと仲間の存在だ。

「プロ生活を続けていると、勝てば勝つほど応援されますよね。ファンの方に『チームが好き』『Razzyが好き』と言ってもらえることが、すごくうれしいんです。温かいコメントが多くて、活動の励みになりますね。あとは一緒に頑張れるメンバーがいることも大きい。それだけ大切な存在になっているんだと思います。

 チームメイトと熱量が同じじゃないと、一緒に戦うことはできないと思っています。ただ、熱量を上げることは難しくて、REJECT ACADEMYの前のチームでは、結果が出なくてすぐに解散してしまいました。その後、REJECT ACADEMYでは『全員の熱量が一緒だと、勝つためになんでもできるし、負けたらみんなで悔しがれるんだ』と感じたんです。みんなの熱量が一定のラインを超えているというのは、チーム競技だと大事だと思いますね」

 今の目標はその大切なチームメイトたちとともに、PUBG MOBILEの競技シーンで可能な限り“上”に行くことだ。

「まずはPMJLでの優勝が一番の目標なんですが、それは近い目標です。PUBG MOBILEがある限りは、その世界大会でいい結果を残せるように頑張りたいと思っています。今はそのために練習を頑張っているので、まずは近い目標であるPMJLでの1位を取りに行きたいですね。世界に挑戦するための切符を取らないといけないですし、今のメンバーで行けるところまで行きたいという気持ちが強い。僕はいいメンバーに恵まれているので、勝って笑って、『うちら、強いんだぞ』というのを見てもらえたらうれしいですよね」

 日々の活動ではチーム練習に加えて、YouTubeでの配信も熱心に行っている。年齢に対して大人びた印象を与えるRazzyだが、配信活動について尋ねると、無邪気な笑顔でアピールしてくれた。

「『ぜひ僕の配信に来てください』というのが一番ですね。損はさせません。僕の配信を見て1回笑ったら、また僕の配信を見に来るようになっちゃうと思います!」

□Razzy(ラジー)2001年7月8日、東京都出身。元力士。怪我での引退がきっかけで、15歳からゲームを始める。無名からのスタートだったが、圧倒的な積み重ねと努力で実力をつけ、現在チームで最も成長し続けている選手。BeenoStormの強力なアタッカーが安心して背中を預ける大黒柱。

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