武尊「負けたまま終わるのが許せなかった」 独占インタビューで明かした、もう一度戦う理由

元K-1・3階級王者の武尊(31)がリングに帰ってくる。6月24日にフランス・パリでベイリー・サグデン(イギリス)との復帰戦が決まった。昨年6月19日の「THE MATCH 2022」での那須川天心戦以来、1年ぶりのリング凱旋へ、今何を思うのか。再び戦う理由とは――。ENCOUNTの独占インタビューに応じ、胸中を明かした。

復帰へ武尊がインタビューで明かした格闘技への思い【写真:石渡史暁】
復帰へ武尊がインタビューで明かした格闘技への思い【写真:石渡史暁】

武尊独占インタビュー【前編】

 元K-1・3階級王者の武尊(31)がリングに帰ってくる。6月24日にフランス・パリでベイリー・サグデン(イギリス)との復帰戦が決まった。昨年6月19日の「THE MATCH 2022」での那須川天心戦以来、1年ぶりのリング凱旋へ、今何を思うのか。再び戦う理由とは――。ENCOUNTの独占インタビューに応じ、胸中を明かした。(取材・文=角野敬介)

 ◇ ◇ ◇

――昨年の6月19日から約9か月が経過しました。リングから離れている間はどんなことを考える時間が1番長かったのでしょうか。

「1番は……やっぱり早く勝ちたいっていう思いです。試合の最終履歴が“負け”なんですよ。それがずっと悔しい。ただ怪我もあったんで、手術をしたりして、復帰するまでに時間がかかったんで。その時間はちょっと辛かったですけど、やっと復帰できるんで、今は早く勝ちたいっていう気持ちが大きいです」

――復帰戦は6月24日ですが、武尊選手の思いとしてはもっと早く復帰したかったということですね。

「そうです。試合が終わってからすぐに、早く次の試合で勝ちたいって気持ちでした。怪我もあったんで、治すところはしっかり治して、やっぱり復帰するなら万全でできるようにという思いはありました。ずっと戦い続けていたので、いい区切りではありました」

――古傷の右膝、右こぶしも手術をしたと聞いています。

「今も全く痛いところがないとは言えないですけど、以前と比べたら全然いいですね。膝も手術して強く蹴られるようになったし、そういう意味ではかなり良くなってきています」

――THE MATCH後の記者会見ではパニック障害とうつ病も公表されました。

「メンタルも今はいい精神状態です。うん、すごくいいですね」

――この休養期間は色々なことから解放されたのかなと思います。変化を感じたことはありましたか。

「(K-1と契約満了し)フリーになったことでいろんな試合の可能性も見えてくるし、モチベーションはちょっと変わったかもしれないです。今までは、ずっと“守る試合”しかなくて、追われる立場での試合ばかりだったんですけど、そこが変わりました。やっぱり守る試合って、モチベーションが上がりにくいんですよ。勝ってもあまり褒められない(笑)。やっぱりチャレンジャーの気持ちで試合に臨めると、精神状態も良くなるし、気持ちも高まります。なので今、こうして新しいチャレンジをやれているのはすごくいい状態ですね」

――新たな挑戦という感覚はいつ以来でしょうか。

「いつだろう……。最後はやっぱり60のトーナメント(※)。それ以来ですかね。あの時も優勝するだろうとは言われていたので、100%のチャレンジっていうわけではなかった。だから本当の意味でのチャレンジとなると、もっと遡ることになります」
(※2018年のK-1 WORLD GP 第4代スーパー・フェザー級王座決定トーナメント)

――これまでは常に追われる立場として、私生活も含めストイックな日々を送ってこられたかと思います。久々に解放されて、今までできなかったことができるようになった。例えば食生活の変化などはありましたか。

「食事は結構変わったというか、1回好きなものを好きなだけ食べようっていうのはしたんですけど、結局それも食べたら食べたで体調が悪くなるし……。やっぱり体に悪いなと思ってすぐやめました。それですぐに節制を始めましたね」

――ニューヨークでジャンクフードを食べた映像も拝見しました。8年ぶりだったそうですが、やっぱり体に合いませんでしたか。

「改めてそういう食事は自分に合ってないなっていうのは感じました。だから(休養中も)結局、変わってないんです。練習も毎日やるし、仕事もするし、体重も変わっていません。前の試合が終わって1か月くらいは海外に行ったりして、タイのジムに行って昔を思い出したりとか、そういう時間はありました。そういう意味ではリフレッシュはできました」

――トレーニングもずっと続けていたんですね。

「早く復帰したいという気持ちもあったし、手術をして体力が落ちちゃうのもわかっていたんで、ちょっとでも落ちないように何かしら動くようにっていう気持ちはありました」

「過去は変えられない」と語る武尊が見据える先は…?【写真:石渡史暁】
「過去は変えられない」と語る武尊が見据える先は…?【写真:石渡史暁】

「THE MATCH」を振り返って「すごくいい勉強になった」

――改めて昨年の「THE MATCH」を振り返って、今湧いてくる感情はどんなものでしょうか。

「悔しさはあったんですけど、すごくいい勉強になったなと。色々気づけたこともあったんで、本当にやってよかったなと思います。負けてよかったことはないですけど、ああいう結果になって悔しい思いをしたことも、自分の人生にとってはすごく大事なことだったなっていうのは改めて感じています」

――もっとこうすれば……というような悔いは一切なかったですか。

「そういうのは思わないようにはしています。過去は変えられないですから。その時にできる100%は出せましたし、そこにおいてはもう満足してるんで。次はこうしようっていうのはありますけどね」

――あの試合を終えて、もう1度リングに上がろうと思った。その1番の理由を教えていただけますか。

「やっぱり僕自身がすごく負けず嫌いなんで、負けたまま終わるのが自分では許せなかった。それプラス、あの試合を応援してくれた人たちが、試合が終わってからもずっと『また試合が見たいです』って言ってくれて。SNSにもコメントがもう何千件と来て、それを全部見て、これだけずっと応援してもらった人たちに負けた姿見せて、そのまま辞めるのは違うかなっていうのはありました。ちゃんと勝つ姿を見せてから……見せてからっていうのもおかしいですけど、見せないといけないなというのは、大きな原動力になりました。自分がまだやりたいっていう気持ちと、みんながまだ求めてくれているっていうのが、合わさって、試合が終わって1週間後には、もう次の試合のことを考えていました」

――次戦はフランスでの試合が発表されました。この休養中に海外で試合をしたいという思いが強くなっていったのでしょうか。

「元々、ずっとやりたかったんです。K-1の時からやりたかったんですけど、契約もあったので国内でしか試合をするチャンスがなかったんです。格闘技をやっている以上は、世界に名前を売りたいし、世界で認められるファイターになりたいっていうのはずっとありました。それにK-1チャンピオンが世界一というのを証明したという思いもあって、海外で活躍すればK-1の名前も世界的に上がる。昔のK-1みたいに強い選手が日本に来たいって思うようになってほしい。自分が海外で強烈な結果を残すことで、また状況が変わっていくんじゃないかと。格闘技界の盛り上がりが落ちてほしくないんで、そのためにできることが何か考えた時に、僕の現役最後の仕事はそこかなって思っています」

――今回は試合実現に武尊選手自身も尽力したと聞いています。フランスには他の日本人選手も連れていきたいのではないですか。

「日本には世界レベルの強い選手がいっぱいいます。僕の試合がメインだったとしても、アンダーカードで名前を売れる選手もいると思うし、それがきっかけで、次の世代がもっと盛り上がる可能性もあるなと思っています。もし叶うならK-1だけじゃなくて、いろんな団体の選手と一緒に行きたいなって思っていて、RISEのチャンピオン級の選手だったりとか、あとは吉成名高くんだったりとか、そういった選手と一緒に戦いたいなとはすごく思っています」

――昨年はワールドカップ(W杯)が、今年はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が盛り上がりました。格闘技界でも日本対世界という構図で盛り上げたいという思いを感じます。

「格闘技をやっている人はみんな世界一を目指してやっていると思います。それも名目上の世界一じゃなくて、事実上の世界一というものを証明したいっていう気持ちがあるんです。今格闘技界って世界中にいろんな団体があってどこの団体が世界一なのか、ちょっとわかりにくい状況なんです。そんな格闘技界を統一したいという思いは前からあって、昨年の天心選手との試合もそうですけど、そういうビックマッチがあってこそひとつになるきっかけが作れるなと思うんで、そういう試合を今後、僕がまたできたらいいなって思っています」

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