いじめ問題、加害者に必要なのは「別室指導」? 何よりも大切な初期対応の在り方とは

学校内でのいじめ問題が後を絶たない中で、いじめ加害者への対応について、元教師の訴えが反響を呼んでいる。「いじめは全職員で指導する。加害者はまず別室に入れる」。別室指導や出席停止の措置に踏み込んだ内容だ。先生個人が抱え込むことで状況が悪化する問題点、学校全体で取り組むべき対応の在り方、保護者との向き合い方。そして、効果的な解決策とは。学校現場のリアルを知るのぶさん(@talk_Nobu)に聞いた。

いじめ問題にどう対応するべきか。課題点は多い(写真はイメージ)【写真:写真AC】
いじめ問題にどう対応するべきか。課題点は多い(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「最初があやふやだと、こじれてしまいます」初動の重要性 元公立中学校教師の提言

 学校内でのいじめ問題が後を絶たない中で、いじめ加害者への対応について、元教師の訴えが反響を呼んでいる。「いじめは全職員で指導する。加害者はまず別室に入れる」。別室指導や出席停止の措置に踏み込んだ内容だ。先生個人が抱え込むことで状況が悪化する問題点、学校全体で取り組むべき対応の在り方、保護者との向き合い方。そして、効果的な解決策とは。学校現場のリアルを知るのぶさん(@talk_Nobu)に聞いた。(取材・文=吉原知也)

 のぶさんは元公立中学校教師で、10年教べんを取った経験から学校の“モヤモヤ”をSNS発信、フォロワー4万人を抱えている。現在は民間のIT企業に勤め、主に教育委員会などを相手に教育現場をよりよくするための活動を行っている。

「過去に生徒がいじめで自殺した学校に勤めた。その学校は、いじめ被害者を守る覚悟が違う。いじめは全職員で指導する。加害者はまず別室に入れる。聞き取りと指導の後は、反省するまで別室で勉強。繰り返す場合は出席停止もした。公立も校長の判断で可能な処分。後悔しても命は戻らない。最初が肝心」。反響を集めているのぶさんのツイッターだ。生徒の自殺があったのは、のぶさんが勤務する前の出来事だったというが、その学校では反省を基に、教訓を生かした取り組みを徹底していたという。

 加害者に対する別室指導はなぜ、必要なのか。のぶさんは3つの大きな理由を挙げる。

「まず、加害生徒に『こんなことをしたら大変なことになるんだ』と自覚させる必要があります。教室で先生から注意されても、またすぐ仲間がいるいじめ集団に戻って『あっ、怒られた』ぐらいで終わってしまいます。別室で仲間から離して反省させることが大事です。次に、子どもには1人になって考える時間が必要です。別室で自分を見つめ直してもらいます。そして、先生と子どもが1対1でコミュニケーションをとる時間を確保するための理由もあります。1人の人間として、大人と関わって接する時間を増やすことが重要になってきます。教室内の同じ年齢の子どもが集まる集団から、異質な空間に行くことによるメリットは多いです。また、文科省は別室指導について、被害生徒が安心して教育を受けられるための措置として、必要に応じて検討するといった方針を示しています」

 別室指導を徹底するといった対応は、米国の生徒指導法として知られ、一律で厳格な対処をする「ゼロトレランス(寛容度ゼロ指導)」の考え方の1つとされている。一方で、「懲罰的な対応でいいのか」といった議論があることは確かだろう。

 のぶさんは「正直なところ、いじめを繰り返して大人に反発する子どもは、罰を与えてもそう大きくは変わらないと思っています」と本音を明かす。むしろ大事なのは、「加害者をそのクラスから引き離すこと」。いじめは集団で行われることが多く、加害者が注意などの指導だけで戻ってくると、いじめ集団には「このぐらいならやっていいんだ」と勘違いさせ、いじめに関与していない他の生徒たちには「先生に言っても問題が流されてしまうんだ」と思わせてしまう。そうなると、「一気にクラスは崩壊」。こういった懸念があるという。

 そのうえで、「ダメなものはダメという姿勢を示すこと。それによって、真面目に過ごしている子たちに安心感を与えられる。子どもたちは『ああいうことをやってはダメなんだな』と理解します。別室指導にはこのような効果があると思います」と強調する。

「他の子だってやってるじゃないですか!」 加害生徒の親への説得・理解が1つの課題

 いじめ問題は学校全体で足並みをそろえて、保護者を交えて、予防・対応に取り組むことが重要。のぶさんが繰り返して訴えることだ。ここで、“一番やってはいけない”例として挙げるのが、担任個人での判断・対応だ。いじめは、最初はクラスの調子のいい子が、もじもじしている子を、あだ名を付けて“いじる”ことから始まるケースもあるという。そこで、出てくるのは、担任の先生の感覚・捉え方の問題だ。「『まあ、こんな“いじり”は、テレビでも見るようなよくあるシーンでしょう』と放っておく。それが悪化して、その子は1年間ずっと苦しめられる可能性があります。そこは担任任せではダメです。それに、事態が重大化しているのに、担任1人で対応を抱え込んでしまう。これは文部科学省もいじめ悪化の要因になることを指摘しています。情報共有を速やかに徹底し、校長ら管理職に加えて、生徒指導担当や学年主任、スクールカウンセラーを入れて組織的に対応する必要があります」と指摘する。

 保護者の関わりも、いじめ解決には欠かせない要素だ。のぶさんの勤務先だった中学校では、保護者を積極的に学校に呼び、対面でしっかり話し合っていたという。「例えば、SNSに悪口を書きこんだ子がいた場合、親御さんに学校に必ず来てもらいます。電話ではなく、学年主任や生徒指導担当も交えての対面の面談です。そこで、『この子をよくするために、こうしましょう』といった話をします。もちろん、親御さんだって、言われっぱなしだと腹が立つこともあるでしょう。親御さんが言いたいことも話していただきます。学校で別室指導を受けて、保護者を呼ばれて、家でも保護者から注意を受ければ、たいていの子どもはいじめや悪さをやめていくものです」と話す。

 しかし、現実問題として、別室指導・出席停止の対応は、加害生徒の親への説得・理解が難しいという。「なんでうちの子が?」「他の子だってやってるじゃないですか!」。親は納得いかず、担任との関係はこじれ、学校との話し合いは進まず、手遅れになってしまう。のぶさんは、学校のいじめ対応をマニュアル化し、別室登校や出席停止の基準を定めること、入学当初の早期に保護者に対して、事前に周知することを提唱している。問題が起きた時は、都度しっかり保護者と話して、段階を踏んで対応をしていく。「最初があやふやだと、こじれてしまいます。だからこそ、初期の対応が大事なんです」と話す。

「これまでいじめが起きた場合の、最後の手段ばかり説明していますが、いじめを起こさない取り組みも大事です」と、のぶさん。道徳や学活の授業で指導するほかにも、定期的な生徒アンケートや面談を通して、生徒側からの気付きや情報を吸い上げる。ここで何か分かれば即対応する。子どもたちとのコミュニケーションを増やす。以前勤務の学校では、今は大人になった、いじめ問題が起きていた当時の同級生を呼んで講演会を行うなど、いじめの芽を摘むことに心を砕いたという。

 教育現場と社会へのメッセージとして、のぶさんは「罰だけでいじめはなくなりません。いじめを許さない雰囲気と、いじめを作らない雰囲気、両方の空気作り。その両輪をしっかり回すことが必要です。そして、何より問題が起きた時は、最初の対応が大事です」と話している。

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