森山直太朗が語る「拍手にならなかった」ライブ 「聴衆と僕じゃない関係を結ぶことができた」

シンガー・ソングライターの森山直太朗が3月1日にシングル『さもありなん』を配信リリースした。昨年10月にメジャーデビュー20年を迎えた森山は現在、自身最大規模の全国ツアー「素晴らしい世界」を展開中。昨年6月に東京・吉祥寺にあるライブハウスで幕を開けた全100本のツアーは、弾き語りやブルーグラス編成などを経て、フルバンドを引き連れた後半戦が始まったばかりだ。アーティストとしての“成人”を迎えてもなお、挑戦をし続ける森山に、「新曲」、「ライブ」、「20周年」という3つのテーマでインタビュー。第2回目は弾き語り、フルバンドなど形を変えながら各地を巡る「ライブ」への思いを聞く。

デビュー20年を迎えた森山直太朗【写真:ENCOUNT編集部】
デビュー20年を迎えた森山直太朗【写真:ENCOUNT編集部】

森山の歌声に聴き手の思い出が重なるライブ 「いつも緊張する」と本音も

 シンガー・ソングライターの森山直太朗が3月1日にシングル『さもありなん』を配信リリースした。昨年10月にメジャーデビュー20年を迎えた森山は現在、自身最大規模の全国ツアー「素晴らしい世界」を展開中。昨年6月に東京・吉祥寺にあるライブハウスで幕を開けた全100本のツアーは、弾き語りやブルーグラス編成などを経て、フルバンドを引き連れた後半戦が始まったばかりだ。アーティストとしての“成人”を迎えてもなお、挑戦をし続ける森山に、「新曲」、「ライブ」、「20周年」という3つのテーマでインタビュー。第2回目は弾き語り、フルバンドなど形を変えながら各地を巡る「ライブ」への思いを聞く。(取材・文=西村綾乃)

――デビュー20年を記念したツアーが、昨年6月にスタートしました。公演は弾き語り、ブルーグラス、フルバンドの3つのステージを、時期を変えて展開されていますね。

「20年の足跡を感じていただきたいと思い企画しました。メジャーデビューをする前、ストリートライブを行っていた吉祥寺にあるライブハウスで始まり、ブルーグラスバンドの中篇を経て、現在は後編のフルバンドで、また前編追加の追加という形で7公演のみは弾き語りで全国を巡っているところです」

――東京・目黒で1月末に行われた前編・弾き語りコンサートを拝聴しました。グランドピアノと、6本のアコースティックギターを駆使し、たったひとりで表現を続けていました。

「弾き語りをやった方がいいだろうなという思いがあったんです。弾き語りって難しいし、忙しいし、つぶしがきかない。練習もたくさんしなきゃいけない。弾き語りでツアーをするのは初めてだけど、ごまかしがきかないことを、やろうって」

――そのような心境になるまでには、どのようなことがあったのでしょうか。

「デビュー前からの付き合いになるスタッフがいるんです。フリスビーをして遊んで、鍋を食って、部屋の片隅のソファで曲をポロンって弾いて歌っていた時期から一緒で、誰に聴かせるわけでもないこのときの表現が一番心地いい。もっというとよく眠れると言われて。『おいおい』と思う反面、誰に聞かせるわけでもない状態の音楽にこそ、表現の本質があるということを感じていました。音楽を始めたころは路上や、小さなライブハウスで歌っていた自分が、デビュー翌年に急に曲が認知されて、いきなり何万人とかの前で歌うようなことになった。舞台に上がって照明を浴びて、お客さんを目の前にすると、素直に曲を表現するというより、『この人たちに届けるぞ』と力が入っていた。なぜならそこは勝負をする場だったから。でも本当の表現はそうじゃない。誰かに伝えるでもなく、ただ歌いたい。そこに源流があるんだということを昨年から始まった弾き語りのステージで再確認しました」

――目黒での公演は、楽器も何も持たない森山さんが真っすぐと客席を見つめて歌う『しまった生まれてきちまった』で始まりました。指を鳴らし、足では床も鳴らし、歌の間には口笛を奏でられていて、豊かな表現に圧倒されました。ホールでのステージでしたが、となりで歌ってもらっているような心地よさがありました。ギターを持ち歌った2曲目の『レスター』では、曲を終えた後の“間”が印象的でした。

「お客さんの存在も、自分が呼吸していることさえも忘れられる。その境がなくなった瞬間にこそ、自分が音楽をしている意義があると思っています。僕は周囲に壁を作ってしまいがちな人間だけど、音楽をしてるときは夢中になっているから、その境がなくなるんです。ライブで曲を終えるときって、ポロロンと締めるじゃないですか。そうすると、お客さんは『終わったんだ』と思って、『拍手』をしますよね。でもそうすると、『お客さん』と『演者』という関係になってしまう。あの日は、より日常に近い状態で曲を演奏し切ろうと思って、Gで終わるんじゃなくて、Dで終わったままにしておいたんです。『えっ。終わったの?』ってお客さんの頭にクエスチョンが生まれたから、拍手にはならなかったんですよね、やっぱり。でもそれが何かとっても心地よくて。それがあったから、個人と関係を結べた気がしたんです。聴衆と僕じゃない関係を結ぶことができた。あの日のハイライトでした」

――『さくら』などの代表曲を歌う際は、聴き手それぞれが自分の思いを重ねて聴いている様子を感じました。全国100本ツアーは、折り返しを過ぎ、後半戦に突入しましたね。新潟・佐渡島や、鹿児島・奄美大島など初めての訪問地もありました。各地を巡られる中で楽しみにしておられることはありますか。

「僕は古家具が好きなので、そういうお店を巡ったりするのが楽しみです。あとは走るのが好きなので、ライブの前には必ず走っていますね。初めての土地でも、川沿いを走ると迷うことはないので、川が流れている場所を探して。あとは、まだ人に語れるほどの経験値はないんですけども、各地にある横丁みたいなところに足を運んだり。何かそういう人とか水とか空気に触れることっていうのはいいなと思います」

 堂々としたパフォーマンスで聴き手を魅了し続ける森山だが、ライブでは「いつも緊張する」と吐露。その理由について「自分に期待しているし、伝えたい自我があるから」と明かした。ライブ中には緊張している自分を最後までふかんして見ている自分の存在があるのだという。3回にわたったインタビューの締めくくりは、デビュー20周年を迎えた心境について聞いていく。

□森山直太朗(もりやま・なおたろう)1976年4月23日、東京都生まれ、フォークシンガー。2002年10月にミニアルバム『乾いた唄は魚の餌にちょうどいい』でメジャーデビューした。その後、コンスタントなリリースとライブ活動を行い、昨年10月に20周年を迎えた。シンガー・ソングライターとしてももちろん、20年にはNHK連続テレビ小説『エール』に出演するなど、幅広く活躍している。

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