「『子を育てろ、働け、起業しろ、リスキリングしろ』と、やることばかり」 育児両立で働く女性の実情とは

新たなスキルを身に付け、人生のステップアップにつなげる「リスキリング(学び直し)」が注目を集めている。働き方の多様化や厳しい就業状況もあって、必要性を感じている人も多いだろう。仕事と子育てに励みながら、自らの職業能力や知識のレベルを高めて新たな仕事に発展させようと、“両立”に奮闘する女性たちに聞くと、確かな経験値アップの一方で、やってみて大変だと実感した課題もあるという。働く女性の学び直しの実情に迫った。

リスキリングに取り組む浅野真澄さん(左)と宮下真紀子さん【写真:ENCOUNT編集部】
リスキリングに取り組む浅野真澄さん(左)と宮下真紀子さん【写真:ENCOUNT編集部】

人生を生き抜く“新たな武器”をどう身に付ける? 人生のステップアップにつなげる「リスキリング(学び直し)」

 新たなスキルを身に付け、人生のステップアップにつなげる「リスキリング(学び直し)」が注目を集めている。働き方の多様化や厳しい就業状況もあって、必要性を感じている人も多いだろう。仕事と子育てに励みながら、自らの職業能力や知識のレベルを高めて新たな仕事に発展させようと、“両立”に奮闘する女性たちに聞くと、確かな経験値アップの一方で、やってみて大変だと実感した課題もあるという。働く女性の学び直しの実情に迫った。(取材・文=吉原知也)

「時間との闘い。時間の使い方、ここにジレンマを感じます」。2人の子どもを育てながら、静岡・浜松で中小企業支援の仕事に就く、公益財団法人職員の宮下真紀子さんは、広報・PRの専門スキルを学ぶオンラインのビジネス塾に通って約半年の課題についてこう話す。

 48歳の宮下さんが学び直しに取り組む理由は切実だ。静岡県内の中小企業が抱えている課題を、地元大学の知見を使って解決する中小企業支援事業のコーディネーター職なのだが、5年の有期雇用が今年3月で終了する。そこで、現在の業務内容を生かして、自らが宣伝広報を担って情報発信できる“新たな武器”を身に付けようと考えたという。

 宮下さん自身、プロモーションの仕事の経験があり、現在も個人としてプレゼンテーションのやり方を教える講師の仕事をフリーランスで請け負っている。「自分の将来を見越して、中小企業を支援するためのプロジェクトや記者発表について広報職としてアウトソーシングの形で仕事を受けることができればいいなと思って、PRについてより深く学んでいるんです。それに、自分が今やっている仕事が通用するのか。プロとしてやっていけるのかを、PR塾で確かめたいという思いもあります。自分が世の中で戦っていくには武器がいっぱいあった方がいい、そんな風に考えています」と語る。

 学び直しを通して、得たものはたくさんある。「同じ思いを持っている女性が全国にはたくさんいるんだな、と。すごく勇気をもらえています」。ただ、働くお母さんとしては、フルタイムの仕事、家事に子育て…。時間の足りなさは常に悩みのタネになっているという。

「お母さんってすごく忙しいんです。上の子が中3で、下の子が小5です。小中で学校の時間軸が異なります。それに、下の子は少年団でバスケをやっていて、塾も含め毎日の送り迎えは夜6時から9時頃です。全国大会に出場するので、土日の試合応援やサポートが大変になってきます。その中にPR塾を入れていかないといけない。本当に時間との闘いなんです」

 オンラインの利点を活用し、仕事の出張の際に電車内で、子どもの病院の際は待合室で、1.5倍速~2倍速で講座を視聴。家事の合間も含めて、隙間時間で工夫に工夫を重ねている。

 大きな後押しになっているのが、職場の理解だ。「オンライン受講は自己負担でやっています。職場の皆さんには『自分の学んでいることは財団で役に立つので、やらせてください』と伝えていて、ありがたいことに理解をしてくださっています。勤務時間をずらすなど調整して、オンライン講座を受けています。やっぱり職場の理解が一番大きいです」と実感を込める。

 今後、宮下さんが思い描くのは、地方企業における女性の労働待遇の向上だ。この課題に着目する背景には、自身の過去の経験がある。東京でプロモーションの仕事を経験し、30歳を過ぎて結婚を機に、故郷の浜松に戻ってきた。そこで直面した壁があった。

「広報・広告の仕事で培った経験を生かそうと、地元に戻って仕事を探したのですが、『宮下さんのスキルは要らないよ』と言われて、何件も断られてしまったんです。働くところがなく、派遣登録しました。意欲のあるお母さんでスキルがあるのに、働く場所がない。パートさんの枠でしか働けない。私自身そういう経験をずっとしてきました」と振り返る。

 大好きな故郷の活性化の使命感と共に、こう考えているという。

「地元に帰って、浜松の魅力・すごさに改めて気付いたんです。浜松をPRしたい、町をよくしていきたい。そう強く思うようになりました。何とか女性が地方で活躍できるような場所を作って、環境をよくしていければ。それが私の役目なのではないか。そう信じています」

 女性が取り組むリスキリングの今後の課題についても言及。よりよい社会の実現に向けて、宮下さんは「世の中は、女の人に対して『子を育てろ、働け、起業しろ、リスキリングしろ』と、やることばかりを言います。それでいて、環境が整っておらず、そのわりには企業があまり協力してくれない現状があります。特に地方は厳しいと思っています。私は、女の人が輝けば街は絶対に潤う、と思っています。地方からそこを変えていきたいです」と力を込めた。

学び直しを続けられるコツは「自分への圧力」

 学び直しでさらに自分を磨き、パワフルな人生設計を描いている女性がもう1人いる。浅野真澄さんだ。ビル・マンション管理会社の会社員でありながら、目指すのは仕事・育児・学び直し・ボランティアの“四足のわらじ”になりそうだ。

 49歳の浅野さんは、大学3年と、大学受験中の高校3年の2人の子を持つシングルマザー。今回、女性向けのオンラインのビジネス塾と、自治体の女性起業塾の2つを受講。さらに、まちづくり事業に参画した経験があり、現在も、神奈川県茅ケ崎市で飲食店コミュニティーのサポートに力を注いでいる。

 きっかけは、現在の職場でのある変化だった。「残念ながら給料が下がることになることを伝えられました。子ども2人が私立大生となれば、大変になります。副業はOKとのことで、自分がこれまでいろいろやってきた中で何ができるのかを考えるようになりました」。もともと客室乗務員(CA)の仕事をしていて、ソムリエや家具販売に従事したことも。ショッピングモールの窓口部門のリーダーを務めたこともある。まちづくり事業では海外視察の経験も豊富だ。

 今回、CA時代の同期の紹介で、今春からホテル・エアポートビジネスの専門学校の講師を務めることが決まった。副業が確立できることになり、「私はもともと起業をやりたいと思っていて、本業に副業、まちづくりボランティア、そして、将来は全部ひっくるめた起業といったことも見据えています」と力強い。

 実は、6年前にもエバンジェリスト(伝道者)の経済講座を受けたこともある。言わば“学びのプロ”である浅野さんは、仕事と家事・育児、学び直しをどうやりくりしているのか。「学ぶことが大好き」ということが原動力になっているという。

「私は、子どもと一緒に英語の勉強をして、英検やTOEICを受けちゃうお母さんなんです(笑)。家事の合間にも、ポケットに2台のオンライン機器を入れています。お風呂以外はイヤホンを付けている状態です。それに、何もしないのがイヤな性格なんです。今ここで5分の待ち時間ができたら、英語の暗記アプリを開きます。持て余す時間ができたら、お金の学びに関する動画配信を見ています。勉強なら何でもやっちゃうんです」。

 学び直しを続けられるコツ、悩んでいる女性たちへのメッセージを聞いてみた。ポイントになるのは「自分への圧力」とのことだ。

「ある程度の覚悟を持つことが大事なのかなと思います。例えば、民間業者による社会人塾だと、20数万円の費用がかかります。勤め先が出してくれる場合もありますが、ほとんどの場合は自分の持ち出しになります。『その分を取り返したい』と思いますよね? 私自身もそうです。学んでいることを、しっかり生かさないと。そう考えるようになると思います。よく塾の方からも言われるのですが、せっかくお金を払って通っているのだから、使い倒すこと。しっかり取り返す、そんな気持ちを持って、学んでいきたいですね」と話している。

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