「知ってほしい5つの行動」鉄道会社が“こころのバリアフリー”目指して制作した1枚のポスター

「私のことを知ってください」――。兵庫県を走る山陽電車が掲載する知的障がいのある乗客への理解を求める啓発ポスターが開始から2年目を迎え、「分かりやすい」、「良い取り組み」と現在でもSNSを中心に話題となっている。全国で後を絶たない電車内でのトラブルも理解さえあれば防げたものも少なくはないだろう。そんな理解を深める情報提供に一役買った今回のポスター。そのきっかけや取り組みについて山陽電気鉄道株式会社、鉄道営業部営業課の担当者・浦崎洋幸氏に話を聞いた。

SNSでも話題の山陽電車が制作した啓発ポスター【写真:山陽電気鉄道株式会社提供】
SNSでも話題の山陽電車が制作した啓発ポスター【写真:山陽電気鉄道株式会社提供】

「私のことを知ってください」山陽電車の掲げた1枚のポスターが話題

「私のことを知ってください」――。兵庫県を走る山陽電車が掲載する知的障がいのある乗客への理解を求める啓発ポスターが開始から2年目を迎え、「分かりやすい」、「良い取り組み」と現在でもSNSを中心に話題となっている。全国で後を絶たない電車内でのトラブルも理解さえあれば防げたものも少なくはないだろう。そんな理解を深める情報提供に一役買った今回のポスター。そのきっかけや取り組みについて山陽電気鉄道株式会社、鉄道営業部営業課の担当者・浦崎洋幸氏に話を聞いた。

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 きっかけは数年前に発生した車内トラブルだった。乗客の女性に知的障がいのある男性の体があたってしまい、女性の家族が後日、駅係員に申し出た。

「女性のご家族から『娘が男性に奇声を出され体が当たり怖い思いをした。迷惑行為である』とのお申し出があり、その数日後、今度は男性のご家族から、『息子は知的障がいがあるが、迷惑行為などはしない』とのお申し出を受けました」

 お互いの考え方による隔たりや障がいがある方に対してどのように向き合えばいいか、あらためて考える機会となった。

「鉄道従事員として『こころのバリアフリー』を理解し、具体的な行動を起こして鉄道利用のお客さまだけでなく、地域の皆さまにも障がいからくるさまざまな行動に対してご理解をいただけるよう、啓発活動をすべきであると考えました」

 2018年、同駅に勤務していた係員2人が中心となり『ハートフル活動』を立ち上げ、全社的な取り組みがスタートした。まずは係員に対し、「知的・精神障がい者と思われる方の対応で困ったことはないか」という現状を把握するためのアンケート調査を実施。次に知的障がい者の支援団体「明石地区手をつなぐ育成会」の協力のもと、各職場の代表者が「知的障害疑似体験会」に参加し、言葉の理解度や手の感覚、視覚・物の捉え方について学んだ。

「この体験で学んだこととポスターの各場面における対応例を盛り込んだ教習用のDVDを社内で自主制作し、少人数制個別対面教育で現場すべての係員に教習を行いました。その結果、係員の理解度が向上したことはもとより、教習以前には「対応する」とした係員が38%にとどまっていたのが、「行動しようと思う」が95%へと上昇し、多くの係員の「前向きに行動しよう」という意識付けにつながりました。

 教習用DVDには、係員による対応例として具体的な5つの場面の模擬実演が盛り込まれた。「大声」、「うろうろ」、「いつもの場所」、「ぶつぶつ」、「あつめる」。これが啓発ポスターに書かれている“知ってほしい5つの行動”につながっている。

 そしてもう1つ重要なのは子どもから大人まで誰もが親しみやすい優しいタッチで描かれたイラストだ。プロのイラストレーターが描いたのかと思いきや、プロジェクトを立ち上げた係員の1人、車掌の樫原雛乃さんが担当したという。

「樫原は学生の頃にイラストなどを授業で学んでいて、現在は趣味として続けているそうです。製作にあたり大切にしたことは、鉄道従事員として『こころのバリアフリー』を理解し、鉄道利用のお客さま、地域の皆さまにも、障がいからくるいろいろな行動に対してご理解をいただきたい、そういう思いで作りました」

 ポスターを見た利用者からは「原因、理由がちゃんと明記されているのがいい」、「ポスターで行動の理由を知ることが出来ました」、「デザインが素敵」、「知ることが安心につながります」、「このポスターはずっと掲示して欲しい」といった声がSNSを中心に上がっている。

 浦崎氏は「ポスターを見ていただき、知的障がいからくるいろいろな行動について、ご理解いただければ幸いです。知的障がいがある方は、抽象的な表現を理解することが難しいため、どうしていいのか分からずに不安になります。もしも見守りの範中を超えるような場合は、直ちに係員までお知らせください」と呼びかけた。

 駅に掲げられたポスター1枚に込められた職員たちの真剣なメッセージ。安全・安心は係員はもとより、周囲の理解も大切であることが感じられる。

※浦崎洋幸氏の「崎」の正式表記はたつさき

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