鬼才パク・チャヌク監督の新作『別れる決心』公開 愛とミステリーが融合

22年開催の第75回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した韓国映画『別れる決心』が先週、日本で公開された。2004年に『オールド・ボーイ』でカンヌ国際映画祭グランプリに輝いた鬼才パク・チャヌク監督の待望の新作。同映画祭芸術貢献賞を受賞した『お嬢さん』(16年)以来、約6年ぶりの作品となった。

『別れる決心』【写真:(C)CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED】
『別れる決心』【写真:(C)CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED】

22年開催の第75回カンヌ国際映画祭監督賞受賞作

 22年開催の第75回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した韓国映画『別れる決心』が先週、日本で公開された。2004年に『オールド・ボーイ』でカンヌ国際映画祭グランプリに輝いた鬼才パク・チャヌク監督の待望の新作。同映画祭芸術貢献賞を受賞した『お嬢さん』(16年)以来、約6年ぶりの作品となった。

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 ミステリーとロマンスが複雑に溶け合った美しくも悲しい物語。刑事チャン・ヘジュン(パク・ヘイル)は捜査のためならどんな労も惜しまず、史上最年少で警部になった厳格な男。離れた街で働く妻とは週末だけ会う日々を送っている。ある日、岩山の頂から男キ・ドスが転落し、死亡する事件が発生した。ドスは出入国・外国人庁の元職員で、若い妻ソン・ソレ(タン・ウェイ)がいた。中国出身で韓国語が苦手なソレは夫が死んだというのに驚く様子もなく、ヘジュンは不審に思うが、介護人をしている彼女にはアリバイがあった。ヘジュンはソレの監視を開始。取調室で事件について語り合い、時に笑みを交わす中で、捜査だけでは片付けられない感情を抱くようになり、ソレもまた、そんなヘジュンの想いに気づき始める……。

 昨年12月、パク監督は5年10か月ぶりに来日し同作のイベントに出席。「ミステリーとロマンスを融合させるスタイルに惹かれる理由は?」と問われると、「“愛”というのはとても大きな“ミステリー”で、この2つはとてもよく似合う。ミステリーにロマンスを融合させるというのは理にかなっていると思います」と説明した。これまでパク監督が作品中に描いてきた暴力的なシーンやエロティックなシーンを割愛している点については「自分の中ではより直接的に愛のストーリーだということを見せたくてこの映画を作りました。だから、これまでとは新たな愛のストーリーを映画にしたわけではなく、今まで入れてきた要素を入れなかったのです」と“省略”の美を語った。この言葉通り、強烈な展開や描写は控えめとなっており、夫婦の性愛シーンもどこか機械的でユーモラスだ。だが、実はそれが次の展開へと観る者の心を波のように静かに侵食していくブラックな雰囲気を醸し出している。

 キ・ドスは不法移民から賄賂をもらっていたと告発する書面に抗議するために自殺したことが発覚。それを裏付ける遺書も発見され、事件はドスの自殺として処理されるが、携帯電話のトリックが発覚しソレの犯行が濃厚となっていく。真相は葬られ、ふたりは別れた。月日がたち当地の警察署で勤務を始めたヘジュンは、妻と出かけた市場でソレに再会。ソレには株式アナリストをしている新しい夫イム・ホシンがいたが、その翌日、海の見える豪邸のプールでイム・ホシンが死体となって発見された。第一発見者は妻のソレ。ヘジュンとソレは最初の殺人事件で出会い、やがて別れた。そしてふたつめの殺人事件で再会する。それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”の始まりだった。

 ミステリー映画の側面があるだけに、犯行とそのトリックの謎解きが観客をとりこにするが、トリックの裏で揺れ動く刑事ヘジュンとソレの心理がひたすら興味深い。ジリジリと焦がすような痛みが後に続き、予想もつかないラストシーンに息を飲む。この映画の最大のクライマックスがエンディングのワンシーンに凝縮されていたことを知ると鳥肌が立つ。そのシーンはあまりに移ろいやすいため見逃してしまう観客は多いことだろう。ラストはぜひ全神経を画面に集中してある〈形〉を探してほしい。「あっ!」と驚くような〈形〉の登場に誰もが興奮するはずだ。

 2月17日からTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー。配給:ハピネットファントム・スタジオ。

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