「BreakingDown」になぜ人は熱狂するのか 鬼才演出家・マッコイ斎藤が分析「テレビがつまらないんです」

ABEMAバラエティー番組『芦澤竜誠と行く ぶらり喧嘩旅』で格闘家の芦澤竜誠と絶妙な掛け合いを見せている演出家のマッコイ斎藤氏。テレビディレクターなどとしても活躍し、ヒット企画を連発しているマッコイ氏は異様な盛り上がり方を見せる格闘技界をどう見ているのか。話を聞いた。

「BreakingDown」は無視できない存在になった【写真:山口比佐夫】
「BreakingDown」は無視できない存在になった【写真:山口比佐夫】

格闘技界を超えて話題になっているコンテンツ「BreakingDown」

 ABEMAバラエティー番組『芦澤竜誠と行く ぶらり喧嘩旅』で格闘家の芦澤竜誠と絶妙な掛け合いを見せている演出家のマッコイ斎藤氏。テレビディレクターなどとしても活躍し、ヒット企画を連発しているマッコイ氏は異様な盛り上がり方を見せる格闘技界をどう見ているのか。話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

 2022年の格闘技界。那須川天心―武尊の“世紀の一戦”が行われた「THE MATCH 2022」や朝倉未来とフロイド・メイウェザーのエキシビションマッチが行われた「超RIZIN」と大きく盛り上がった。なかでもライト層の流入を後押ししたのは「BreakingDown」。1分間という短い時間の戦いだが、格闘技界を超えて、今や芸能界でも話題になっているコンテンツとなっている。

 昨今の格闘技界をマッコイ氏は「格闘バブルですよね。K-1、RISE、RIZIN、BreakingDownともう格闘技がここ数年でものすごいブーム。どこを見たらいいのか、どこが面白いのか定まっているのかな? って思います。やっぱり会場に行ったら団体ごとにお客さんも全然違います」と分析する。

 多くのテレビ番組の制作を手掛けてきたマッコイ氏。やはり気になるのは「BreakingDown」だ。

 マッコイ氏はこれまでフジテレビ系『とんねるずのみなさんのおかげでした』や日本テレビ系『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』など人気番組を手掛けてきた鬼才だ。

「あれだけ跳ねて何千万回再生とか行っちゃうんですよ。僕らから見ると『ガチンコファイトクラブ』なんです。それを昔のテレビはやれたんですよ。YouTubeって昔テレビでやってたことを真似とかではなく、要素としてすごいやっています。20年前くらいの企画が一周して若い子に刺さっているというのはテレビがつまらないんです」と嘆く。

「BreakingDown」で特に注目を集めているのは試合ではなく、オーディション映像や記者会見。最強自慢や珍しい経歴の参加者たちの“けんか”に視聴者はくぎ付けとなっている。

「UFCとか海外にしても、顔見せの記者会見とかで暴れるのが定番になってきていますよね。それこそ芦澤竜誠くんはすごい早かった。小澤海斗選手とバチバチやってて、それが面白くて、テレビで見れないヒリヒリ感が見られるからみんな食いついて見てたんでしょうね」

 また、「BreakingDown」について「あの喧嘩を40、50のおっさんたちまで見てますよね」と笑い、団体大会の未来をこう予測した。

「不良ってかっこつけですから、負けたくないんです。負けたくないから練習し始める。だからBreakingDownのレベルが上がってくる。1分で終わらないくらいのちゃんとした団体になる可能性もある」

 自身もエンタメとして楽しんでいるというが、参加者の行動に危惧していることもあった。

「参加者があおり合戦でけんかしなきゃいけないとなってしまう。パイプ椅子を投げたり、バズる病になっている人もいます……。本当に腹が立って言っているのとエンタメでやっているのって分かるじゃないですか。特に女性、朝倉未来さんに突っかかっていったりする。昔はキレる映像なんてなかなか見られなかったけど、今は『キレなきゃいけないルールでしょ』っていう思いでオーディションに来てる下手くそがいますよね」

 その上で「見ていてこっちが恥ずかしくなってしまう人もいるじゃないですか。それがあおり病。これだけあおりが蔓延してきているから、逆にあおるのがダサいみたいに今後なることもあるんじゃないかと思います」と難しい顔をした。

 最近では格闘技とかけ離れた参加者も出てきている。それには「YouTuberとかTikTokerとして出て、格闘家じゃない方で有名になろうとしている参加者はどうなのかなと思いますね」と苦言を呈した。

“鬼才”マッコイ斎藤氏が人気を分析した【写真:ENCOUNT編集部】
“鬼才”マッコイ斎藤氏が人気を分析した【写真:ENCOUNT編集部】

プロがしのぎを削って戦う方にヒリヒリ感がないのかもしれない

「BreakingDown」は視聴者のみならず格闘家の間でも無視できない存在にまで成長した。否定派の者もいるが、中には「学ぶ部分もある」と感心している者もいた。しかし、本音の部分では“本物”を見てほしいという気持ちがあるのが現状だ。なぜ、素人のけんかが見られるのか。こう分析する。

「結局、みんな花道を経験したいんですよ。入場ってかっこよく見えますよね。人生で自分にテーマ曲をつけて入場するのはやりたくてもできない。BreakingDownはけんかを売って1分間我慢すればって甘い考えで格闘技に入ってきている人もいる。今はけんかが見たいって世界観だからプロがしのぎを削って戦う方にヒリヒリ感がないっていうことなのかなと思います」

 格闘技好きのマッコイ氏の持論が加速。「プロ格闘家の本気のけんかってちょっとやばさがあるじゃん」と芦澤とYA-MANの乱闘を振り返る。

「もっとABEMAさんが作るべきですよ(笑)。例えばK-1とかRISEの若い選手たちをBreakingDownのように熱い感じでオーディションして『お前に格闘技できるのか』って。それで1個、1個リングに上げていった方がよっぽど裾野は広がります」と熱くなった。

 さらに「プロっていうのは本当に大変なんだぞっていうコンテンツを作るべきじゃないですか。武尊選手と未来選手がツイッターでやり取りすることもありました。確かにきれい事かもしれないですけれど、僕も小さい子供たちが夢を見て、格闘家になりたいって思うようなものにしたいという思いです。魔裟斗さんとか山本KID徳郁さんとか辰吉丈一郎さんを見て育ってきていますから、本当に夢をもらいましたよね」と目を輝かせた。

「BreakingDownの見せ方はトップ」とうなずく。だからこそプロの興行も何かを変えなければいけない。「見せ方を考えなきゃいけない。M-1でもプロがやるから面白い。『THE MATCH 2022』みたいな本物中の本物を探すにはABEMAさんがやるべき。ABEMAさんは格闘技強いんだから」と口を酸っぱくして言っていた。

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