2月11日は“小さな巨人”2017年に68歳で亡くなったチャボ・ゲレロさんの命日。日本マット界でも大活躍したが、2人のレジェンドに大きな影響を与えている。

　1978年10月の大阪大会での藤波辰巳（現・辰爾）戦。金曜8時のゴールデンタイム生放送のメインイベントでゴングが鳴った。

　WWWFジュニアヘビー王者として凱旋帰国した藤波の前に立ちふさがったのがチャボさん。チャボさんが1本目を先取。2本目に藤波は「ドラゴン・ロケット」を繰り出したものの頭からパイプ椅子に激突し大出血。顔面を朱に染めた藤波のダブルアームスープレックスで2本目を奪われた。

　あまりの出血に「チャボのドクターストップ勝ち？」とも思われたが、額から流れ落ちる鮮血にもひるまない藤波のコブラツイストに無念のギブアップ負け。チャボさんのベルト奪取はかなわなかったが、大きな反響を呼んだ。ちなみに藤波はこれが縁で夫人と出会っている。

　また1982年11月の東京大会でNWAインターナショナルジュニアヘビー級王座を争った大仁田厚に敗れたが、試合後トロフィーで襲撃し大流血に追い込んでいる。

　後々、チャボさんが来日した際に「大仁田厚に何であんな事をしたのか」と聞いたことがある。「初来日は全日マットだったけど俺には、新日マットが合っていたんだ。藤波や、木村（健悟）との試合、凄かっただろ。やっている俺もゾクゾクしたよ。その感覚がずっとあって、それで全日にまた上がったら、テンポが違うというか流れが合わず、全日の独特の間がどうにもかみ合わなかった。団体でファイトスタイルが違うのは仕方ないんだが、何だか腹が立ってつい、やっちまった」と大げさに肩をすくめた。

　藤波は「忘れられないライバルであり試合のひとつ」と、大仁田も「俺のレスラー人生を変えた一人」とチャボさんを偲んでいる。

　2007年に無我ワールドの試合に来日した時には「あれ？　ジプシー・ジョーも来日しているのか」と思ってしまった。遠目から見ると、雰囲気が非常によく似ていた。若い頃のチャボさんはティト・サンタナと間違われることもあったようだ。

　チャボさんは「フンッ！」と鼻を鳴らした後で「たまに言われる。だけど、俺の方がサンタナよりいい男だし、俺の方がジプシー・ジョーよりケンカも強いぜ！」と意気軒高だった。

　とにかく負けん気が強く、いつ何時でも臨戦態勢の人だった。週末の繁華街の雑踏の中、ちょっとでも肩が触れたりすると「何だ！　やるのか！？」とばかり、英語かスペイン語かわからなかったがこぶしを握って、相手に突っかかろうとしたのだ。

　一見して、いかにもタチの悪い、しかもグループなのにかまわずに挑発している。一緒にいた西村修が慌てて間に入った。相手に謝り、チャボさんを「まあまあ」という風にいさめていたのだが、お店に落ち着くまで、何度も繰り返しヒヤヒヤしたことを覚えている。

「荒くれ者」という言葉がピッタリで「カネック＝（スラングで）ならず者」は、エル・カネックではなく、チャボさんである。「ワハハ、そうだな。うん。カネック・ゲレロに改名するか」と豪快に笑い、杯を重ねていた。

　一方で、家族をとても大事にする人で「基本は家族」と力説。「子どもが何人で孫が何人」と自慢げだった。何人もの名レスラーを輩出している名門レスリングファミリーの一員としてのプライドもあったようだ。

　日本土産に目薬を大量購入し「このスーッとするのがいいんだよ」とキッパリ。清涼感のあるものが特に好評で「ファミリーにプレゼントする。みんなの喜ぶ顔が見られる」ととびきりの笑顔だった。瞬間湯沸かし器だったが、優しい人でもあった。

　藤波にしろ大仁田にしろ、チャボさんが分岐点にいたことは確か。大仁田にいたっては「デスマッチに目覚めるキッカケとなった」という意見も根強い。

「最近のレスラーは、みんなおとなしいよ。レスラーなんだから『もっと闘志を持てよ』と俺は言いたいね。『いつでも闘えるんだぜ』って、ところを見せろよって。おとなしくするのは引退してからだ」と、ファイティングポーズを取るチャボさんだった。

　天国で大好きなお酒を飲んでいるチャボさんの「みんな！　ファイティングスピリットを忘れるなよ！」というゲキが聞こえてくる。