湯川れい子が次世代に伝えたい音楽の力「武力では絶対に平和は作れません」

音楽評論家で作詞家の湯川れい子の誕生日をお祝いしようと豪華アーティストとフルオーケストラによるコンサート「湯川れい子 87th花のBirthday」が今年1月に都内で開催された。長きにわたり作詞を手掛けてきた名曲の数々が次々と披露され、詰めかけた観客もそれぞれの時代に心をタイムスリップさせながら思い出の曲に酔いしれた。今回は主役である湯川と出演者の中から稲垣潤一、中川翔子に話を聞いた。

87歳を迎えた湯川れい子「先生と呼ばないで」
87歳を迎えた湯川れい子「先生と呼ばないで」

長年の功績をアーティストや関係者が祝福

 音楽評論家で作詞家の湯川れい子の誕生日をお祝いしようと豪華アーティストとフルオーケストラによるコンサート「湯川れい子 87th花のBirthday」が今年1月に都内で開催された。長きにわたり作詞を手掛けてきた名曲の数々が次々と披露され、詰めかけた観客もそれぞれの時代に心をタイムスリップさせながら思い出の曲に酔いしれた。今回は主役である湯川と出演者の中から稲垣潤一、中川翔子に話を聞いた。(取材・文=福嶋剛)

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――湯川さんへの感謝や音楽愛にあふれた素敵なコンサートでした。

湯川「ありがとうございます。みなさんがお力を合わせてステージを作ってくださるというご提案をいただいて本当にびっくりしましたし、ありがたいことだと思いました」

――徳光和夫さんとDJ OSSHYさんの司会進行でゴスペラッツのみなさんや稲垣潤一さん、中西圭三さん、中川翔子さん、クミコさん、エミー・ジャクソンさんといった豪華アーティストの方々が次々とステージに登場して湯川さんの代表曲を披露されました。

湯川「私にとっては、まるまるプレゼントをいただいたようなものです。出演者のみなさんもオーケストラのみなさんも、スタッフのみなさんも本当に大変な思いをして集まってくださったんだろうなって思いますし、そんなみなさんのお気持ちに感謝しかありません」

――湯川さんが作詞された楽曲がその後の運命を変えた歌手のみなさんも大勢いらっしゃいます。今回の出演者も湯川さんから大きな影響を受けた方ばかりです。

湯川「確かにデビュー曲がヒットしたかどうかで人生が変わるかもしれません。でも同じ業界にいてよく分かることですが、今も歌い続けているアーティストのみなさんは、それぞれ大変な思いをしながら努力し続けてきたからこそここに立っている人たちです。そんなみなさんとのご縁もいまだに続いていて、こうやってプレゼントをいただけるなんて本当に冥利につきます」

――大変失礼ですが87歳の湯川さんが今も変わらず何時間もステージに立ち続けている元気な姿を見て出演者のみなさんも励みになったのではないでしょうか。

湯川「たしかに考えてみたら大変な年ですものね(笑)。自分ではあまり意識してないですが、私の母の時代だったら、87歳でハイヒールを履いてステージに登場するなんて考えられませんよね」

――これまで数多くの作詞をされて、さまざまなテーマの歌詞を作ってこられた湯川さんですが、作詞家として大切にしてきたこととは。

湯川「作詞をする上でもっとも大切にしてきたことは『色と匂いと情景』ですね。特に具体的に大切にしている言葉はありませんが、想像力と思いやりかも知れません。職業作家ですから私のメッセージを込めるのではなく歌い手の魅力をどう表現したら一番出せるのか。そんなふうにいつも注文をいただいては歌詞を書いてきたのでオートクチュールみたいなものだと思っています」

――音楽の最前線を60年以上にわたりずっと見てこられた湯川さんが思う音楽が果たせる役割とは何だと思いますか?

湯川「私は日本音楽療法学会の理事もしていますが、子守歌から葬送曲まで音楽そのものが人間に与えてくれる力は、肉体的にも精神的にもとても大きなものです。私たちは、普段音楽からさまざまな力や喜びを与えてもらっていて、私自身が元気でいられるのも音楽からたくさんの力をもらっているからだと思います」

――次の世代に伝えていきたいことは?

湯川「たくさんあります。もうすでに地球は後戻りできないくらい疲労していますから。武力では絶対に平和は作れません。今すぐにでもすべての武器を楽器に変えてほしいです。もっとも身近な楽器は体を使うことです。歌であり口笛であり、手を合わせてリズムを刻むこと。みんなで一緒に心臓と同じリズムを刻めば必ず平和になります」

――湯川さんはSNSでたびたび平和や分断についての危惧を訴えていて、炎上することもありますが、ご自身の主張は最後まで貫き通していらっしゃいます。

湯川「私は絶対に諦めたくないのです。時には腹が立つことだってありますが、結局、怒りとは不安が招くものであって、意見や主張が違ったとしてもお互いに不安であることに変わりはあり得ません。ですから心無い言葉のミサイルを撃ち込んでしまうとそこにはお互いに憎しみしか残りません。長い間見てきた私が言えることは誰かのせいにしてしまう人はいくら才能があっても物事を解決できませんし、幸せにはなれません。相手も同じ人間だということを忘れないでほしいとお伝えしたいです」

今も変わらぬ美声を聴かせてくれた稲垣潤一【写真:(C)12DO】
今も変わらぬ美声を聴かせてくれた稲垣潤一【写真:(C)12DO】

稲垣潤一「僕にとって宝物みたいな曲」

 最後に湯川と縁の深い稲垣潤一と中川翔子の2人がコメントを寄せてくれた。稲垣は82年のデビューシングル「雨のリグレット」とB面の「日暮山」、96年リリースの「雨の朝と風の夜に」の3曲を歌った。真っ赤なドレスでステージに登場した中川翔子は、事務所の大先輩であるアン・ルイスの代表曲をはじめ、湯川が日本語の歌詞をつけたディズニーソングを中西圭三とのデュエットで、そして湯川が作詞を担当し中川が歌った上野動物園のパンダへのメモリアルソング「ありがとうシャンシャン」を歌った。

稲垣潤一
 湯川れい子さんと言えば僕たちの世代はラジオのDJで、その声や雰囲気は今もまったく変わらない。デビューが決まって81年に上京して、誰に歌詞を書いてもらおうかとなって、やっぱりデビュー曲は名曲を残したいので湯川さんにお願いすることになりました。

 日本を代表する作詞家の大先生とはいえ『雨のリグレット』と『日暮山』は全然世界観が違うのでどうやって歌詞を書いたのか尋ねたら、音と一緒にテーマに合ったビジュアルを見ながら書いたそうなんです。『日暮山』ならその写真を見ながら作詞するということなんです。また稲垣潤一というキャラクターを意識しながら書いてくださって、そこはすごく一貫性がありますね。

 もしかしたら湯川さんて普通の人が持っていない特殊な能力や感覚があるんじゃないかってたまに思うこともあるんです。最初にお会いしたとき僕にプレゼントを持ってきてくださったんだけど、それがなぜか大きなチャウチャウのぬいぐるみだったんですよ(笑)。不思議でしょ?

 そんなこともありましたけれど、僕にとっては大切な恩人の一人です。湯川さんの曲でデビューできたこと。それからも、たくさんの素晴らしい歌詞を提供していただき、そのすべてが僕にとって宝物みたいなかけがえのない曲。これからも大事に歌っていきたいと思います。

今回のイベントでもっとも活躍した中川翔子【写真:(C)12DO】
今回のイベントでもっとも活躍した中川翔子【写真:(C)12DO】

中川翔子「宝石のように輝き続ける人」

 コンサートのトップバッターというご指名をいただいて、もうプレッシャーと混乱で……。ライブとは違い、オーケストラをバックに歌わせていただいたので緊張しましたが、その分、私の経験値がアップしました(笑)。私は湯川さんが作詞された歌謡曲もアニメソングも大好きで中でも小泉今日子さんの『風のマジカル』や『きまぐれオレンジ★ロード』の『夏のミラージュ』が特にお気に入りです。湯川さんには母娘ともども本当にお世話になっていて、あんなにすごいお方なのに、いつも優しく接してしてくださるんです。

 今年、歌手デビュー20周年を迎えて、湯川さんは「まだまだしょこたんが歌手だと知らない人たちに歌を届けてあげようね」って言ってくださって。今まで私は年齢を“レベル”だと思ってきたんですが、宝石の“カラット”でもあるんだなって思うようになりました。どんなに辛いことがあっても、いつも朗らかで笑顔を絶やさない、宝石のようにますます輝かれている87カラットの湯川さんは、本当に私にとって大切な人です

□湯川れい子 東京都目黒生まれ。昭和35年、ジャズ専門誌『スウィング・ジャーナル』への投稿が認められ、ジャズ評論家としてデビュー。その後、16年間に渡って続いた『全米TOP40』(旧ラジオ関東・現ラジオ日本)を始めとするラジオのDJ、また、早くからエルヴィス・プレスリーやビートルズを日本に広めるなど、独自の視点によるポップスの評論・解説を手がけ、世に国内外の音楽シーンを紹介し続け、今に至る。作詞家としては、代表的なヒット曲に『涙の太陽』、『ランナウェイ』、『ハリケーン』、『センチメンタル・ジャーニー』、『ロング・バージョン』、『六本木心中』、『あゝ無情』、『恋におちて』などがあり、「FNS歌謡祭音楽大賞最優秀作詞賞」、「JASRAC賞」、「オリコン トップディスク賞作詞賞」など、各レコード会社のプラチナ・ディスク、ゴールド・ディスクを数多く受賞。またディズニー映画『美女と野獣』『アラジン』『ポカホンタス』『ターザン』などの日本語詞も手がけている。近年は、平和、健康、教育、音楽療法などボランティア活動に関するイベントや公演も多い。

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