「もう一度聴きたい」ファンが心を動かした 25年ぶりに再集結したバンド「FOUR TRIPS」

1997年、桜井幸子主演のドラマ『友達の恋人』(TBS系)の主題歌『WONDER』でメジャーデビューしたFOUR TRIPSが25年を経て、オリジナルメンバーで再集結。新曲2曲を含む全5曲入りのミニアルバムを発表し、表題曲の「幸せなメロディ」が今、音楽好きのリスナーの心を着実につかんでいる。彼らが再集結した理由とは? ギター、ボーカルのフロントマン、成瀬英樹とキーボードの白川ai和美に話を聞いた。

「FOUR TRIPS」(左から)池田憲彦(ベース)、成瀬英樹(ギター、ボーカル)、初田努(ドラム)、白川ai和美(キーボード)【写真:(C)FOUR TRIPS】
「FOUR TRIPS」(左から)池田憲彦(ベース)、成瀬英樹(ギター、ボーカル)、初田努(ドラム)、白川ai和美(キーボード)【写真:(C)FOUR TRIPS】

2丁目劇場「WA CHA CHA LIVE」で芸人たちと腕を磨いた4人

 1997年、桜井幸子主演のドラマ『友達の恋人』(TBS系)の主題歌『WONDER』でメジャーデビューしたFOUR TRIPSが25年を経て、オリジナルメンバーで再集結。新曲2曲を含む全5曲入りのミニアルバムを発表し、表題曲の「幸せなメロディ」が今、音楽好きのリスナーの心を着実につかんでいる。彼らが再集結した理由とは? ギター、ボーカルのフロントマン、成瀬英樹とキーボードの白川ai和美に話を聞いた。(取材・文=福嶋剛)

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 10代から地元の神戸を中心に音楽活動をしていた成瀬が、たまたま見た青春映画『ザ・コミットメンツ』(91年)に触発されてメンバーを集めた。アイルランドの労働者階級の若者がソウルバンドを結成し一旗あげようと立ち上がるその姿に自らの未来を重ねたという。

 メンバーは、『君はメロディー』(AKB48)や『君は僕だ』(前田敦子)、『全部 夢のまま』(乃木坂46)などの作曲を手掛けた成瀬を中心に、初田努(ドラム)、ai(キーボード)、池田憲彦(ベース)の4人。

成瀬「結成してすぐ、吉本興業の目に留まり、お笑いと音楽のコラボライブ『WA CHA CHA LIVE』(心斎橋筋2丁目劇場)に出演させていただくことになりました。当時の劇場支配人の『このままプロで行けるんちゃう?!』という言葉が自信になりました。そう簡単ではなかったけど(笑)」

『WA CHA CHA LIVE』はバンド2組とお笑い6組が出演する“新しいエンタメ”を志向していた。バンドの演奏が終わるとMCの千原兄弟や雨上がり決死隊らとクロストークをするのが楽しかったと成瀬は言う。ほかにもナインティナインや中川家、陣内智則や、FUJIWARAといった後のスターが多数出演していた。

成瀬「営業で学園祭に行かせてもらったり、関西ローカルですがテレビも多数出演させていただいたり。本当にいい経験でした」

ai「でも生存競争はすごく厳しかったんです。アンケートの人気投票で翌月の出演回数が決まるシステムで。お笑いの皆さんの熾烈(しれつ)な戦いを横目で見ながら、私たちバンドも同じく必死でしたね。結局、2丁目劇場には2年半出演しました」

 時を同じくして、彼らの前に現れたのは、プロデューサーとしても広く知られるミュージシャン・伊藤銀次だった。

成瀬「94年でした。たまたま銀次さんの手元に僕たちのデモテープが渡り、直々にプロデュースしたいというお話をいただいてびっくりしました。僕にとって憧れの方でしたから。銀次さんの登場がFOUR TRIPSの運命を変えました。曲作りやアレンジ、演奏、ステージマナーなど、すべてにおいて鍛えていただきました」

震災~メジャーデビュー しかし…

 そんな順風満帆に見えた活動の中、95年1月。阪神淡路大震災が彼らの住む街を襲う。

成瀬「aiちゃんの家が全壊し、しばらく音楽活動どころではなくなってしまいました。吉本興業や銀次さんとの関係もいったんリセットしなくてはいけなくなったんです。音楽だ、バンドだ、などという状況ではなかったですから」

ai「家に住めなくなったうちの家族がテントで寝泊まりしていた公園に、メンバーが食料など物資を持って来てくれて、みんなで一緒にテントに泊まったなんてこともありました。星が綺麗な夜でした。この時期のことは今でも忘れられません。震災ですべてを失った私たちはゼロからスタートするしかなく、メンバーの結束はより強く固まりました。この仲間と音楽ができる状況にあるだけで、少なくとも幸せじゃないか、と思えたんです」

 その年の夏に活動を再開すると大手レコード会社の目に留まり、あれよあれよという間にメジャーデビューが決定。翌96年の秋に上京した。デビュー曲はドラマタイアップ、MVの撮影はロサンゼルス。急激な環境の変化にメンバーは戸惑い、レコーディングも思うようにいかず、デビュー曲はチャート42位と大苦戦。デビューライブの観客は10人程度だった。

成瀬「力が足りなかったんです。出来に納得していない楽曲が、全国に流されていることが恥ずかしかったことしか覚えていません。僕たちの力ではどうしようもありませんでした」

ai「レコード会社のスタッフや事務所もみんな一生懸命にやってくださっていたからこそ、結果が出ないことに焦ってしまって、メンバー間もギクシャクしていきました」

成瀬「翌年、事務所との契約が切れる際に、ベースの池田が脱退。今思えば、この時点で僕たちは終わっていたんです」

 2001年頃から、成瀬は作曲家を志し、aiをパートナーにデモ制作を始める。

成瀬「僕の作曲家ペンネームyou-meは娘の名前からつけました。13年の『タイムマシンなんていらない』(前田敦子)までの作品のトラックはほとんどaiちゃんが作っていました。彼女抜きでそれらのヒットはなかった。本当に感謝しています」

 その後、aiは音楽活動から完全に身を引き、東京・国立市の地域食材を活用した「中道カフェ」をオープン。10年目を迎える名店である。成瀬は単身で楽曲制作を続け、16年にはAKB48『君はメロディー』でミリオンセラーを獲得。初田はフリーのエンジニアとして地元神戸の若いミュージシャンたちに経験を伝え、池田は大阪のファンクバンドのザ・たこさんのベーシストとして精力的にステージに上がっている。

25年ぶりに再集結して完成させたミニアルバム「幸せなメロディ」【写真:(C)FOUR TRIPS】
25年ぶりに再集結して完成させたミニアルバム「幸せなメロディ」【写真:(C)FOUR TRIPS】

ファンのため、子どもたちのためにすべてを出し尽くした新曲

 デビューから25年目を迎えた2022年にオリジナルメンバーで再結集した。きっかけは、「どうしてももう一度、FOUR TRIPSを聴きたい!」というファンからの熱意だったと成瀬は言う。一方、aiもかつてのファンからの来訪を受けていた。

ai「周年の度に再結成の話を断っていました。お店がありますし、音楽家としてのキャリアも封印していましたから。そんなある日、アマチュア時代からのFOUR TRIPSのファンの方がお店に来て、当時を楽しい思い出として話してくれました。心が動きました。彼女の笑顔を見ているとあの頃、必死で駆け抜けた20代を自分自身、ちゃんと認めてあげたいって初めて思ったんです」

 メンバーには年頃の娘がいる。ファンのため、そして子どもたちのために未来を照らす作品を作りたい。4人の思いが1つになった。

ai「やるからには格好悪いのはイヤ。絶対妥協はしたくなかった」

 成瀬とaiが新曲を2曲書き下ろした。10年ぶりの共作。作業はスムーズに行ったのか。

成瀬「難航したというより、アイデアがあふれ出て、まとめるのが大変、という感じですね。楽しかったですよ。正直、aiちゃんのような才能のある人が音楽をやっていないのはもったいねえな、とは思いましたけどね」

ai「今回よく成瀬と冗談で『遺作作るぞ』って(笑)。私はそのくらいの覚悟がありました」

 そこで完成したのが、かわいくて優しいメッセージソング『幸せなメロディ』と、渋谷系へのオマージュと成瀬が呼ぶ、軽快な『千夜一夜組曲』だ。

 25年ぶりに顔を合わせてのレコーディングにも、ブランクなどまるで感じなかったそうだが、予定していたエンジニアと完成形をめぐって意見が分かれた。

成瀬「なかなかエンジニアにイメージが伝わらず途方に暮れていたら、ドラムの初田が『俺にミックスをやらせてくれないか?』と言ってきたんです。25年前の作品に納得できずにずっと『どうすれば理想の音が出せるか』を追い求めてきた、と初田は打ち明けてくれました。素晴らしいミックスをしてくれた初田が今回のMVPです」

ai「ベースの池ちゃんが、ザ・たこさんの活動で自信をつけていたのがうれしくて。ムードメーカー的存在の彼が、今回の私たちの“ハート&ソウル”でした。私たちはやっぱり4人そろってこそなんです」

成瀬「そうそう。最初はセルフカバーで話が進んでいたのに、『新曲を書きおろせばいいじゃないですか』って言ってくれたのは池田だから。うれしかったですね」

ai「全員が納得いく曲がようやく完成したんです。それぞれの人生をしっかり歩んできた4人だからこそ、自分たちの子ども世代にも聴いてほしいと思える新曲ができた。こんなに自慢できるものはほかにありません。今はもう完全にやり切ったという気持ちで『燃えつき症候群』です(笑)」

 1月に公開された『幸せなメロディ』のリリックビデオのイラストはaiが担当。じわじわと評価を集めている。そうなると、実際にライブで聴きたいところだが、「ライブはやらない」と2人は口をそろえる。

ai「私はこのアルバムにすべてを出し切りました。これ以上は考えられないんです。世代や国を超えたたくさんの人に、大切に作ったこの歌を聴いてほしい、歌ってほしい。今はその思いだけです」

成瀬「今回ソングライターのクレジットをバンド名義にしたのは、『幸せなメロディ』が後世に残ることによって、誰が歌っても“作詞作曲 FOUR TRIPS”の名前が残るから。この歌を世界の人たちに歌ってもらえるよう、目指すは令和の『上を向いて歩こう』です。そういう意味ではFOUR TRIPSの旅は、今始まったばかりなんですよ」

□FOUR TRIPS(フォー・トリップス) 成瀬英樹(ボーカル、ギター)、初田努(ドラムス)、ai(キーボード、コーラス)、池田憲彦(ベース)からなる神戸出身の4人組バンド。1992年結成。97年、TBSテレビ系ドラマ『友達の恋人』の主題歌『WONDER』でメジャーデビュー。アルバム1枚、シングルを5枚発表し解散。2023年1月、デビュー25周年を記念したCD『幸せなメロディ』をリリース。

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