映画『ひみつのなっちゃん。』（監督・脚本、田中和次朗、公開中）の中年ドラァグクイーン役で映画初主演を果たした滝藤賢一（46）。仲代達矢主宰の無名塾で演技を学び、今や、映画、ドラマ、舞台に欠かせない俳優に上り詰めた。20年のキャリアの中で出会った名優について語った。（取材・文＝平辻哲也）

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　新聞記者を演じた映画『クライマーズ・ハイ』を始め、NHK『外事警察』、TBS『半沢直樹』など数々の作品で印象を残してきた滝藤。「本当に幸せな俳優人生だと思いますね。恵まれている。ラッキーだった。これは、僕の力というより、周りの人たちに助けられて、ここまで来られたと思っています。まだまだ、その先に行きたいと思っています」。

　昨今、映画、ドラマなど製作現場は時間や予算が厳しさを増している。それでも、ベストを尽くすのが滝藤流だ。

「生涯修行です。役者には正解がない。ずっと勉強し続けないといけないし、満足することはきっと死ぬまでないかなと思います。この間（NHKBSプレミアム『グレースの履歴』3月19日放送スタート、全8回）も、尾野真千子さんとご一緒させていただきましたが、ものすごい勉強になりました。彼女の芝居を見ると、自分はまだまだ。楽なところにいたんだなと気付かされました」。

『グレースの履歴』は突然の事故で妻を亡くした男がカーナビの履歴を頼りに各所を訪ねて旅をする物語だ。尾野の演技を受けて、滝藤もフルスイングでぶつかった、という。

「尾野さんは、何回やっても新鮮な感情が起きるんですよ。でも、尾野さんは直前まで普通に喋っているんです。それで撮影が始まると、感情が溢れ出てくる。よく俳優はスイッチが切れちゃったとか、一回で電池切れるとか言うんですけど、彼女の演技を見たら、それは言い訳。彼女は毎回、初めて聞いたかのようなリアクションを取って、ポロポロ泣くんです。なんで、そんなことができるのかと聞いたら、『だって、あんな言葉を言われたら、うれしいやん』って。本当にずば抜けているなと思いました」。

「俳優は最初のテイクの演技が一番いいものを見せる」とも言われるが、その点はどうか。

「そういうときもあるぐらいの気持ちで良いんじゃないですかね。『極主夫道』（伝説の極道、虎二郎役）の撮影で脱ぐシーンがあり、何年もかけて、身体を鍛えていたんです。当日も、直前にパンプアップして、いざ撮影になったら、建物自体の照明が消えてしまって。でも、撮影にはいろんな状況がありますから、仕方ないです」。

　3人のドラァグクイーンの旅を描いた本作では、主演として現場を引っ張った。その手本にしたのは、かつて目の当たりにした浅野忠信（49）の主演としての振る舞いだったという。「バトルシップ」や「マイティ・ソー」シリーズなどハリウッドでも活躍する浅野とは、映画「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」（10年）、NHKドラマ「ロング・グッドバイ」（14年）で共演している。

「僕は浅野忠信さんが好きすぎて、『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』のときは、緊張してセリフが飛んじゃったんです。『ロング・グッドバイ』は、そのリベンジだと思って、余計なことを考えずに集中してたんです。すると、浅野さんが隣にいらっしゃって、ずっとニコニコされているんですよね。浅野さんに聞きたいことがいっぱいあったから、ファッションや映画について聞くと、全部笑顔で答えてくれるんですよ。なんで、『いつもニコニコして、いてくれるんですか？』と聞いたら、『僕たちは俳優部という仲間。海外では助け合わないと戦えない。だから仲間を大切にしなければならない』って。すげえ、かっこいいと思いましたね」。滝藤は、浅野の言葉を胸に、本作で共演者と接し、作品を作り上げた。

□滝藤賢一（たきとう・けんいち）1976年11月2日、愛知県出身。高校卒業後にオーディションに合格し、映画『バレット・バレエ』に出演した後、仲代達也主宰の無名塾に参加。数多くの舞台で活動する一方、映画『クライマーズ・ハイ』やドラマ『半沢直樹』などに出演し人気を集める。近作に『探偵が早すぎる』『家電侍』など。NHKプレミアムドラマ『グレースの履歴』（3月19日22時～全8回）が控えている。