鉄道「値上げの年」に異例の値下げ 京急電鉄が挑む“沿線活性化”「定住人口が増えれば」

アフター・コロナに生き残りを図る鉄道各社は、「運賃値上げの春」を余儀なくされている。大手各社が運賃改定による値上げを公表している中、近距離を値上げしつつも、遠距離の運賃を今秋より引き下げる選択をしたのが東京・神奈川を走る京急電鉄である。異例の選択に潜む狙いとは?

JRとの競合、沿線の過疎化が課題の京急電鉄。看板列車の快特も本数を減らしている【写真:ENCOUNT編集部】
JRとの競合、沿線の過疎化が課題の京急電鉄。看板列車の快特も本数を減らしている【写真:ENCOUNT編集部】

品川~三崎口間の現行950円が740円に

 アフター・コロナに生き残りを図る鉄道各社は、「運賃値上げの春」を余儀なくされている。大手各社が運賃改定による値上げを公表している中、近距離を値上げしつつも、遠距離の運賃を今秋より引き下げる選択をしたのが東京・神奈川を走る京急電鉄である。異例の選択に潜む狙いとは?(取材・文=大宮高史)

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 今春より、JR・私鉄ともに運賃値上げを実施する事業者が相次ぐ。関東では3月にJR東日本・東京メトロ・東急・西武・東武・小田急・相鉄が各区間10円程度の値上げを実施し、関西のJR西日本・阪急・阪神・近鉄・京阪も4月1日に一斉に10~20円程度、初乗り運賃などを値上げする。春以降も2023年秋には京王と南海が、24年度にはJR東海が普通運賃の値上げ予定があることを公表しており、地方鉄道と合わせて値上げが全国的な動きとなっている。

 そんな中、京急も2023年10月実施予定の運賃改定の内容を公表した(1月13日)。近距離運賃は他社と足並みをそろえつつ、遠距離で思い切った値下げを行う。

 改定後運賃は初乗り運賃が140円(IC136円)が150円(IC同額)になり、近距離ではおおむね10%程度値上げされるが、乗車距離41キロ以上では値下げとなる。

 値下げ額は遠方になるほど大きくなる。京急最長距離の品川~三崎口間は現行950円(IC943円)がともに740円にまで安くなる予定だ。通勤定期券についても同様に近距離を値上げ、41キロ以上の遠距離を値下げとする。

 この運賃改定の意図を、京急は「新しい需要の創出と沿線活性化」と説明する。「横須賀・三浦方面に多くのお客様に足を運んでいただくことで同エリアの観光が活発になり、また定住人口が少しでも増えればと考えます」と広報部は取材に対して答えた。

 品川から羽田空港・横浜・横須賀・逗子・久里浜へ展開する京急の路線網で、稼ぎ頭となるのが東京・横浜の人口密集地帯と羽田空港へのアクセス輸送。反面、山がちな三浦半島エリアは過疎化が進行中で、すでに末端区間の京急久里浜~三崎口間の平日日中の運転間隔を一昨年より20分間隔に削減している。最南端の三浦市は神奈川県内で数少ない「消滅可能性都市」に挙げられた。

沿線観光のために手を打つ京急

 京急も沿線観光のために手を打っている。品川から三崎口の往復乗車券と三崎地区のバスフリー乗車券・加盟店の割引券がセットになった「みさきまぐろきっぷ」を通年で発売して集客を図れば、2021年に閉館した「京急油壷マリンパーク」の跡地を「京急油壷温泉パークキャンプ」に整備して日帰り観光スポットを創出してきた。

 横須賀の近代化遺産、葉山や三崎のマリンスポットにマグロに代表されるグルメと、過疎化に悩みながらも三浦半島は都心からも日帰りで十分楽しめるお出かけスポット。京急としても活用しない方策はない。

 値下げになる41キロ以上の乗車距離は、品川駅から計算すると金沢文庫駅(横浜市)の一つ先、追浜駅(横須賀市)から先となる。追浜から先の横須賀・葉山・久里浜方面へ乗車する場合、現行運賃よりも安くなる。横須賀観光の中心の横須賀中央駅・久里浜エリアの京急久里浜駅・三崎観光の拠点駅の三崎口駅、いずれも品川からの運賃が安くなるというわけだ。横浜駅起点では三浦海岸駅と三崎口駅の2駅への運賃が値下がりする。

 また、JRと京急が並行する品川~横浜間は現行運賃でもJR利用の方が安い。ゆえに横浜以南の京急各駅から東京に向かう場合、品川まで京急を利用せずに横浜でJRに乗り換える方が安いケースがあったが、今秋の改定後は京急利用の方が安くなる例が増える。品川~京急久里浜間は京急のみだと800円(IC796円)で横浜乗り換えの730円(IC723円)より高かったが、改定後は710円(IC同額)で横浜乗り換えより安くなる。

 運賃値上げとともにダイヤの「減量」も鉄道各社で相次いでいて、京急も三浦半島エリアの減便に続いて、日中最速の快特の半数を特急に変更し、所要時間が伸びた。これらの現状の打開策として値下げを打ち出した。

 この運賃改定での増収率を京急は10.1%と見込んでいる。値下げで都心から三浦半島への観光客を呼び込んで値下げによる純収入源を相殺、近距離運賃の増収額と合わせて収益の回復、ひいては三浦半島への人流の呼び込みにつなげたい戦略だ。

次のページへ (2/2) 【画像】2023年10月予定の改定前後の運賃比較
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