旧車を冷遇する日本は「国として恥ずかしい」 希少車オーナーが訴える“車の価値”
幼少期の家族の思い出とともに、懐かしの名車の魅力はいつまでも――。1959年式の「日産 オースチン A50 ケンブリッジ」のオーナーは、「全日本ダットサン会」の顧問を務める岡 健さん(67)だ。オースチンは英国車だが、英国で作られた部品を日本で日産自動車が組み立てたライセンス生産の1台で、内外装だけでなく、工具やノベルティーなどほぼすべてオリジナルで残された「未再生原形車」の一級品。アツいこだわりに迫った。
1959年式で走行距離数10万キロ WOWOW『華麗なる一族』や映画『海賊とよばれた男』にも“出演”
幼少期の家族の思い出とともに、懐かしの名車の魅力はいつまでも――。1959年式の「日産 オースチン A50 ケンブリッジ」のオーナーは、「全日本ダットサン会」の顧問を務める岡 健さん(67)だ。オースチンは英国車だが、英国で作られた部品を日本で日産自動車が組み立てたライセンス生産の1台で、内外装だけでなく、工具やノベルティーなどほぼすべてオリジナルで残された「未再生原形車」の一級品。アツいこだわりに迫った。(取材・文=吉原知也)
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「私が小さい頃に、横浜の元町で獣医を開業していた伯父がオースチンA50に乗っていて、家族の思い出が頭の中にあるんですよ。当時、2歳ぐらいの私と伯父や家族、オースチンと写っている古い写真があります。箱根なんかにドライブに行って。もうこんな車は手に入らないよな。そう思いながらも念じ続けていたら、手に入っちゃったんですよ」
岡さんは目を細めながら、懐かしそうに語る。
東京のシングルナンバー。真っ黒の車体のカラーリングは塗り直していない。エンジンなど当時のままの内外装部品だけでも希少性が高いが、点検整備記録簿や取扱説明書、保証書なども全部そろっているというから驚きだ。自慢はそれだけでない。「真空管ラジオなんです。今時もうないですよ」。さらに、爽やかなグリーンの車体が描かれた貴重なノベルティーの扇子、日産のマークが入った工具のグリスガンも見せてくれた。
当時の雰囲気をそのまま残したレトロ感が芸能関係者の間で評判になり、WOWOW『連続ドラマW 華麗なる一族』や映画『海賊とよばれた男』に劇用車として“出演”している。
「前のオーナーさんがずっと世話になっていた整備工場から面倒を見切れませんと言われたそうで、ダットサン会に話が来て、縁あって私が譲り受けることになりました。11年ぐらい前になります。しっかりとよくできている車で、前のオーナーさんが本当に大切に整備されていた。それをつくづく感じます。旧車はフロアカーペットをめくるとサビていることが多いのですが、この個体はきれいだった。サイドシルも腐りなし。見た瞬間に『これは!』と直感したんです」
週に1回は必ずエンジンをかけて3、4キロを走るようにして、動ける状態を保っている。旧車イベントでは東京から山梨、新潟、長野に自走で駆け付ける。まさに現役バリバリ。「絶対に無理はせず速度は75キロ程度しか出しません。走っていて全く問題ないですよ」。製造から63年余りで、走行距離数は10万キロを超えたばかりだ。
旧車乗りとして思うことがあるという。欧米をはじめとした世界と比べると、日本は「旧車を大事にする」という面では、“冷たい”との指摘が上がる。岡さんは「車の増税がよく話題になりますが、例えばこの車で言うと、今までの63年間で車1台買えるぐらいの自動車税や重量税を払っているわけですよ。それなのにさらに税金をアップするのか? と言いたいです。欧米はヒストリックカーの減税・免税制度があります。逆行しているのは日本だけですよ。『取れるところから取るぞ』と言わんばかり。その姿勢は国として恥ずかしいことです」。強い思いをにじませる。
愛車は日本自動車史の“生き証人”でもあり、「街中を普通に走れて、ほぼオリジナルで、説明書などもそろっているものは、日本にこの1台だけでしょう」と岡さん。これからも大切に乗っていくといい、「日産はこの車で現代の車作りを学んだんですよ。こういう車の価値を引き継いでいってほしいです。言わば、歴史の証人ですから。そういった意味で、旧車を大事にしてほしいし、私たち自身も大事にしていきたいです」と話している。