なぜダウン奪われた武田光司は還ってこれたのか 背負った“RIZIN代表”「死ぬ気で耐えた」

格闘技イベント「湘南美容クリニック presents RIZIN.40」(2022年12月31日、さいたまスーパーアリーナ、ABEMA PPVで全試合を完全生中継)が行われた。米団体「Bellator」との対抗戦。先鋒の元DEEPライト級王者・武田光司(BRAVE)は元Eagle FCライト級王者のガジ・ラバダノフ(ロシア)に0-3の判定負けを喫した。15分間の激闘、“代表”という時間を振り返った。

絶体絶命のダウンから蘇ってきた武田光司(左)【写真:山口比佐夫】
絶体絶命のダウンから蘇ってきた武田光司(左)【写真:山口比佐夫】

リング上で涙「どんなに盛り上げても勝つことが正義」

 格闘技イベント「湘南美容クリニック presents RIZIN.40」(2022年12月31日、さいたまスーパーアリーナ、ABEMA PPVで全試合を完全生中継)が行われた。米団体「Bellator」との対抗戦。先鋒の元DEEPライト級王者・武田光司(BRAVE)は元Eagle FCライト級王者のガジ・ラバダノフ(ロシア)に0-3の判定負けを喫した。15分間の激闘、“代表”という時間を振り返った。

 1Rでいきなりの右ストレートを被弾。石のような拳と言われるラバダノフの一撃を被弾し、フラフラに。見ている者のほとんどがこのまま終わってしまうかのように思った。

 この試合1番のピンチ。フラッシュダウンにも思えたが違った。組みつき持ち直したかのように見えたが、時間差で脳が揺れる。立っていることはできず、そのまま後ろに倒れてしまった。それでも動き続け、レスリングで鍛えぬいた腰の力で立ち上がり、相手の脇を差し制する。何とかこのラウンドは持ちこたえた。

 なぜ帰ってこれたのか。武田は「セコンドの声とファンのみんなの声が聞こえました。それでパッと目覚めて帰ってこれました。死ぬ気で耐えました」と振り返っている。

 2R以降は積極的に打撃を見せる。良いポジションで組みつくたびに会場からは拍手と歓声。いつもなら“ジャーマン”を期待する声も多い。この日の声援は全く違う。気持ちを切らすことなく戦っている黒い背中を押そうとしていた。結果はほんの少し及ばず敗戦。

 ラバダノフとの抱擁シーンも大きな感動を呼んだが、リングの上から観客席へ目をうつすと武田の目からは涙が。顔をくしゃくしゃにして男泣きしていた。「みんなにごめんと伝えなきゃなと思って。やっぱり勝つことが大事だった。どんなに盛り上げても勝つことが正義。そう思ったら自然に出てきましたね」と当時の心境を告白した。

試合後会見で心境を明かした武田光司【写真:ENCOUNT編集部】
試合後会見で心境を明かした武田光司【写真:ENCOUNT編集部】

海外のトップ団体で活躍している選手は“五輪選手”

 2022年を振り返ると外国人選手と4戦。4月にはスパイク・カーライル(米国)と対戦し、フロントチョークを極められ敗戦。その後は7月にジョニー・ケース(米国)と対戦し判定勝ち、10月にはザック・ゼイン(米国)と戦い1R・一本勝ち。対世界で2勝した。

 そんな世界の強豪たちを武田は“五輪”と表現。試合をして得たものを会見で明かした。

「僕の価値観なんですけれど、UFC、、Bellator、ONEなどさまざまな海外のトップ団体が世界にはある。その舞台で修羅場を乗り越えて活躍している選手たちは五輪選手だと思っているんですよ。僕は五輪選手は努力してもなれない部分があると思うので神に選ばれた選手だと思う。僕もかつては五輪選手を目指していた人間です。競技は違えど五輪レベルの選手たちと試合をすることができてうれしいと思いました。あとは乗り越えなきゃいけないと思いましたね」

試合後はノーサイド、ガジ・ラバダノフと肩を組む武田光司(左)【写真:ENCOUNT編集部】
試合後はノーサイド、ガジ・ラバダノフと肩を組む武田光司(左)【写真:ENCOUNT編集部】

武田光司にとっての“代表”

 大みそかの試合ではあと一歩だった。世界と渡り合えていた。PRIDEからの流れを組む、日本最大の格闘技イベントRIZINの代表とはどんなものだったのか。昨年11月11日の発表から50日。代表だった期間を振り返る。

「選んでもらえて光栄に思っています。毎日が長いようであっという間でした。月曜日と火曜日はBRAVEジムで練習をして、水木金曜日は出稽古に行かせてもらっていました。本当にプライベートを断ち切っていました。家は埼玉県なんですけれど、パンクラスイズム横浜に行かせてもらい、松嶋こよみ(Road To UFCにも出場)とガチスパーをしていたんです。前乗りしてホテルに前泊したりする生活をずっとやっていました。木曜、金曜はロータス世田谷(青木真也も練習している)に行かせてもらって。自分のためにお金を使って少しでも(試合で)楽になれる練習をメインでやろうとやってきました。

 試合のために時間を使っていました。明日もまた“ガチスパー”かって本当に長く感じるんですよ。でも気持ちを作って行く。毎日、毎週が試合をしている気分でした」

 今後について問われると「疲れてしまったという自分もいる。肉体的にも精神的にもガタがきている部分もあります」と遠くを見つめる。

「一時期うつのような状態になったり、パニック障害気味になったりということがありました。プレッシャーから生まれてきている部分なので、だからこそ1回休もうかなという感じですね。休養したい。神様もダメと言わないと思います」

 2022年は2勝2敗。ファンも一緒に一喜一憂した。常にベストを尽くした武田のファイトをファンは決して忘れることはない。武田はまさに“代表”だった。

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