旧車オーナー嘆き 日本の自動車税なぜここまで高い? 英国に学ぶ“車文化の成熟”

車好きの中には、自身の年齢より“高齢”の車に乗っている人も多い。神奈川県の荒井正人さん(70)の愛車は、1935年式のオースチンセブン・ケンブリッジスポーツだ。2022年で生産開始から100年がたつ英国車。母国から遠く離れた日本でどのように維持しているのだろうか?

1935年式オースチンセブン・ケンブリッジスポーツ【写真:ENCOUNT編集部】
1935年式オースチンセブン・ケンブリッジスポーツ【写真:ENCOUNT編集部】

1922年の生産開始から100年 超貴重車が日本に

 車好きの中には、自身の年齢より“高齢”の車に乗っている人も多い。神奈川県の荒井正人さん(70)の愛車は、1935年式のオースチンセブン・ケンブリッジスポーツだ。2022年で生産開始から100年がたつ英国車。母国から遠く離れた日本でどのように維持しているのだろうか?(取材・文=水沼一夫)

テスラを愛するまさかの理由…元日本代表アスリートの愛車遍歴(JAF Mate Onlineへ)

 オースチンセブンは1922年に発売され、39年まで作られた歴史ある車だ。「今どきの乗用車のベースとなった車なんですよ。国内に限らず、外国でもそう。例えばロータスの1号車がオースチンセブンだったり、BMWの前身がディクシーって言うんですけど、それの1号車がやっぱりオースチンセブン。メーカーのマークを変えて売ったりしていたんですよ」。誕生100周年を迎え、7月には英国で記念イベントも開かれた。

 荒井さんは5年ほどの前に約400万円で購入した。「都内の業者から手に入れました。イギリス、オランダ、イタリア、ニュージーランド……いろいろ探してたんですけど、なかなか好みのものがなくて、探している間に東京にあったんですよ」。車を買うために海外まで探すとは、ハードルが高そうだが、「北海道で買うのもイギリスで買うのも結局そんなに大差ないです。お金さえあれば、送ってくるし」。

 もともと旧車好きで、欲しと思っていた車だった。愛車遍歴は「ミニとミニクーパー、シトロエンの2CV、ポルシェの914、フォルクスワーゲンのオーバルという1956年の車。ポルシェケイマンも。あとジムニーも買ったし、いすゞの117クーペはまだ家にあります」と幅広い。

 90歳近い車だけに、不備は想定内だった。

「買ったとき何でもないって言ってたけど、何でもあったので修理しましたよ。乗るのが1としたら修理は5か10ぐらい。1年ぐらいかかりました」

 現在の日本にある台数は「50台か、もうちょっとあるかな。ただ、ちゃんと走る車がそのうち何台あるか」という博物館級の車だ。

 いったい、どのように修理したのだろうか。

 荒井さんは「エンジンがぶっ壊れても自分で直しましたよ。資格? ないです。自分でやる分には資格なんかいらない。部品を買って自分で修理します」と話した。

 部品の供給は英国からだ。

「イギリスの車はMGにしろオースチンにしろ、もう会社がないんだけど、こうやってマニュアルもあるし、部品を作って売っています。国産より安いし、だから維持しやすいですよ」

 修理も何かあればメールで質問できるという。

「イギリスにオースチンセブンクラブというのがあるんですよ。そこにメールを送ると、いっぱい答えが返ってくる。ボルトの締め付けトルクをどのくらいの力で締めていいものかとか、こうだよああだよと」

 部品も、そのオーナーズクラブが作っている。

「会社が清算しちゃってなくなっても、金型や図面をクラブが買い取って、建屋を立てて、そこでプレスして部品を作ったりしているんですよ。膨大な金がかかりますよね。でも、クラブ会員がいっぱいいて、そこからお金を集めてそういうふうにして部品を供給する。要するに長く持たせようと。そういう姿勢です」

とにかく歴史を感じさせる【写真:ENCOUNT編集部】
とにかく歴史を感じさせる【写真:ENCOUNT編集部】

日英の自動車文化、なぜここまで違う? 旧車に課税も

 乗り心地は、「それはよくないですよ」と苦笑い。「でも、運転していて楽しいですよ」と気に入っている。

「何でも古いものが好きでね。時計にしてもそう。なんか温かい。デジタルで作ったものじゃないから。車のデザインも、今パソコンでみんな描くでしょ。そうじゃなくて、人の手で描く。柔らかいというか、アナログ的だよね」

 普段は屋根付きのガレージで保管している。「冬は寒くてあんまり乗らないし、夏はクソ暑くて乗らないし、月に3回か4回ですね」。箱根や熱海まで走らせることもある。

「運転できなくなるまで、ずっと持っているつもりでいますよ。こういうのは残しとかなきゃいけないでしょ。後世にね。つぶしちゃったらもうないですからね。誰かに引き継ぎますよ」

 同時に願うのは、日本の自動車文化の成熟だ。新車への買い替えばかりが促進され、旧車乗りは肩身の狭い思いをしている。自動車税も重くなる。

「車が古くなって税金が高くなるでしょ。向こう(英国)は古い車は税金はもういらない。今までいっぱい払ってくれたからもういいですよと。それに例えば冬は乗らなかったら税金はその何か月分でというのもある。日本は1年乗らなくても自動車税、重量税を取るし、それは何か変だと思うよね」

 負担は増え続け、日本メーカーは部品もとたんに手に入らなくなる。しかもどんどん高額になる。愛好家が修理工場を作るといった雰囲気は醸成されていない。「建物だってそうじゃないですか。日本は30年から40年たってぶっ壊してまた作るでしょ」と続けた。

 トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバル……世界に誇る自動車大国だけに、もどかしさを隠せない。

「日本に国立の自動車博物館ってあります? 民間のものはありますよ。でも、イギリスだったら国立自動車博物館。イタリアやいろんな国でも作っている。日本はこれだけ車を輸出して稼いでいるのに、そのぐらいやったっていいんじゃないのって」

 荒井さんは熱く訴えた。

次のページへ (2/2) 【写真】オースチンセブンの貴重なマニュアル冊子やパーツ集
1 2
あなたの“気になる”を教えてください