GLAY・TAKURO「戦争はなくすべき、でも絶対なくならない」若者に伝えたい私たちができること

ミュージシャンのTAKURO(GLAY)が自身3作目となるソロアルバム「The Sound Of Life」を完成させた。グラミー受賞者の海外ミュージシャンと二人三脚で作り上げた作品から見えてきたのは、ギタリストやロックといった枠を超えたこれまで見たことのないTAKUROの姿だった。ENCOUNTでは50代に突入し円熟期に入ったTAKUROの今を2回にわたって紹介する。

TAKURO(GLAY)【写真:荒川祐史】
TAKURO(GLAY)【写真:荒川祐史】

ジョン・レノンが教えてくれた「歌はルポルタージュ」

 ミュージシャンのTAKURO(GLAY)が自身3作目となるソロアルバム「The Sound Of Life」を完成させた。グラミー受賞者の海外ミュージシャンと二人三脚で作り上げた作品から見えてきたのは、ギタリストやロックといった枠を超えたこれまで見たことのないTAKUROの姿だった。ENCOUNTでは50代に突入し円熟期に入ったTAKUROの今を2回にわたって紹介する。(取材・文=福嶋剛)

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 TAKUROに取材した日は12月8日、ジョン・レノンが凶弾に倒れたあの日から42年目を迎えた。

「僕がジョン・レノンのファンになるのは中学に入ってからなんだけど、やっぱりあの日のことはよく覚えています。『なんかものすごく偉い人が亡くなったんだな』って当時のニュースや大人の反応を見ながら小学生なりに感じていました。まさかその後の僕の人生を狂わせる人になるとはそのときはまったく思ってなかったですが。僕はビートルズのメンバーの中ではジョンの影響が大きいですね」

――今回のソロアルバムを聴いたとき、ロックとは対極の美しい音楽の数々に驚いたと同時に「TAKUROさんは今こういうモードなんだ」と素直に受け入れることができました。

「おっ! 伝わりましたか? 先入観なく伝わったのであれば僕としては大成功です」

――実は多少の先入観はありました。前作のGLAYのシングル「Only One,Only You」がウクライナ情勢に対してのTAKUROさんの苦しい胸の内が曲に詰め込まれたとTERUさんからお聞きしていたので。

「なるほど。今回のアルバムのきっかけは、『自分自身を癒す』ことからスタートしたんです」

――自分を癒すとは?

「今はロサンゼルスに住んでいて、ロシアの軍事侵攻がはじまってからアメリカではこのニュース一色になりました。ここまで文明が進化したにも関わらず、それを止める術が、この世界になかったという事実にがく然として。それを毎日見ていたら、もし自分がウクライナやロシアの市民だったらどうしていただろう? もし愛する家族がいたら……と想像してしまい、目の前にある現実で自分の心が押しつぶされそうになってしまいました。そんな気持ちを癒してくれるものはやっぱり自分にとっては音楽でした」

――アルバムには「Pray for Ukraine」という曲が収録されていて、その曲に歌詞をつけたのが最後の曲「In the Twilight of Life」です。アメリカの歌手ドナ・デロリーさんによるはかなくも美しい歌声がとても印象的です。

「ウクライナ侵攻がいつか終わったとしても関わった人たちの痛みというのは、おそらく一生消えないものだと思います。でもそんな痛みを少しでも音楽で和らげることはできないか。コロナ禍や現代社会で心に痛みを抱えている人たちに寄り添った音楽を作りたい。そういう動機から今回の作品が生まれました」

――TAKUROさんは2003年、イラク戦争がはじまったときに「TAKURO-NO-WAR.jp」というサイトを立ち上げて自ら反戦を訴えました。20万人ライブなど日本の音楽史を次々と塗り替えてきたモンスターバンドのリーダーの行動は多くの若者たちに称賛された反面、無知だと罵られたり、偽善者呼ばわりをされたり、挙句の果てには悪質な脅迫行為を受けるまでにエスカレートして物議を呼びました。あれから約20年、TAKUROさんの今の思いについて聞かせてください。

「今でも戦争はなくすべきだとずっと思っています。でもそれと同じくらい絶対になくならないものだと思っています。人類の歴史上、戦争がなかった時代なんて一度もないですし、これまで素晴らしい頭脳を持った人たちが争いをなくそうと考えても、結局欲望や野望がそれを超えて、人はまた人の命や財産を奪ってしまう。でも、戦争はなくならないけれどできるだけ規模が小さくなるように手を尽くすべきだと考えています。そしてもし起きてしまったらそれをしっかり直視して次の世代に伝えていかなくてはいけないと思います」

――ジョン・レノンの話題も出てきましたが、あらためて音楽が果たせる役割ってなんだと思いますか?

「それこそジョン・レノンやボブ・ディランなど大先輩たちから『歌はルポルタージュ的な側面がある』ということを教わりました。『こんなことが歴史の中であったんだ』ってことを歌にして残してくれている。僕が好きなU2もそう。ただのパーティーソングだけじゃないんです。GLAYもそれは大切にしているところです。でも僕の作る曲って希望に満ちてない暗い曲ばかりなんだけどね(笑)。

 その一方で優しい音楽であろうが、激しいロックンロールであろうが、ひとときの平穏や安らぎを誰かに与えられたら、それで音楽としての役割は終わりだと思う面もあります。もちろん音楽に限らず、アートや芝居、小説なんかもそう。でもそれが必要だから何千年も残っているんでしょうね」

――自然の音、鳥や動物の鳴き声なんかもそうかもしれませんね。

「そう。風や波の音かもしれないですし。僕自身、史上最高のラブソングって母親が子どもを寝かしつける子守歌だと思っているんです。人間が人間として生きていくために生まれたときにわずかの間に与えてもらった抱きしめられる喜びとか絶対的な安らぎ。赤ん坊には戻れないから、生きていく上でそんな渇きを潤すのが音楽なのかもしれませんね」

自分で自分の限界を決めないで生きた方が楽だと思う【写真:荒川祐史】
自分で自分の限界を決めないで生きた方が楽だと思う【写真:荒川祐史】

自分で自分の限界を決めない生き方

――戦争に対する思いを真剣に「TAKURO-NO-WAR.jp」に投稿してくれた10代の若者は、現在30代、40代を迎えています。そして今ふたたびウクライナの問題を見て何かを感じる若者もいっぱいいると思います。そんな人たちにTAKUROさんが今伝えられることは?

「おこがましいんだけど、僕が言えるとするならば、あなたが小さい頃に嫌いだった何かがあって、その後、成長してそれが好きになったという経験が1回でもあったら、これからも目の前にあるすべてのものを否定しないで生きていった方がいいよと伝えたいです。

 今、自分の目の前の何かが許せないとしても、……それが若さなんだけどね(笑)。でもいつか許せるかもしれない。いつか受け入れられるかもしれないし、いつか嫌いな友達が親友になるかもしれない。苦手だった食べ物が大人になって好きになるのと同じでね」

――目の前の人・もの・ことを否定しない生き方。

「そう。GLAYでも面白い話があってね。僕らはヴィジュアル系のバンドとしてスタートしたんだけどメジャーデビューしてちょっとおしゃれになったり、丸くなったり、尖ってる部分を隠したりとかね(笑)。そしたら一部のファンから途端に『GLAYなんてつまんねえ』とか『HOWEVERなんてぬるいバラード出してんじゃねえ!』って叩かれたんです。だけどあの頃から僕はこの先に起こることがなんとなく分かっていたんです。

 そして10年がたって、ファンからもらった手紙に『30をすぎてHOWEVERの良さがようやく分かりました』って(笑)。僕らが止まらずに今もGLAYを続けられている理由の1つがそこなんです。自分で自分のピークを決めない。自分で自分の枠とか限界を決めないで生きていった方が、今までよりもちょっとだけ楽なんじゃないのかなって、そう思います」

□TAKURO(タクロー)1988年にGLAYを結成したリーダー兼ギタリスト。「HOWEVER」「誘惑」「Winter,again」「SOUL LOVE」など数々のミリオンセラーをはじめ、GLAYのほとんどの楽曲を手がけるメインコンポーザー。最近ではソロプロジェクトとして、TAKURO名義でインストアルバムのリリースやライブツアーで全国を回るなど、自らのギタリストとしての表現の場を広げている。2022年12月14日3枚目となるソロアルバム「The Sound Of Life」をリリース。2023年2月15日GLAY通算61枚目のシングル「HC 2023 episode 1 – THE GHOST/限界突破-」をリリース。

次のページへ (2/3) 【動画】TAKUROがピアノで作曲した「Pray for Ukraine」
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