愛車は90年前の英国車 76歳の“引き際”「転売なんて絶対にしてほしくない」
30年前に突如ハマった珍しい英国車。福平良全(よしまさ)さんは76歳ながら、東京から山梨まで、戦前に製造された旧車で充実ドライブだ。「古いものを大事する」という精神を伝え続けている。
「ウチのカミさんからは『誰かにあげちゃいなさいよ』って…」 それでも大事な大事な“MG 3兄弟”
30年前に突如ハマった珍しい英国車。福平良全(よしまさ)さんは76歳ながら、東京から山梨まで、戦前に製造された旧車で充実ドライブだ。「古いものを大事する」という精神を伝え続けている。
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1932年式の「MG J2」。クラシカルなデザインと鮮烈な赤色ボディー。英国の農家が持っていた1台を買い付け、10年程前に手に入れた。
山梨県笛吹市で行われたヒストリックカーのイベントに、東京から自走で参加。高速道路は80キロの安全運転で駆け付けた。2シーターのオープンカー。快晴に恵まれた会場で、多くの来場客の注目を集めた。「この車で、雨の日は走らないよ」と笑う。
英国でレストアをしてくれたはずだが、「なかなかひどい目に遭って(笑)。いざ手元に来たら、完璧な状態ではないことが分かって。オイルポンプも回ったり回らなかったり。ここまで走れるようになるまで、ずいぶん苦労したんだよ」
エンジンこそ専門業者に任せたが、5、6年かけて自ら整備を手がけた。
「エンジン以外は、あとは誰がやっても同じだろうって思って。クルマを自分でいじるのも楽しみの1つだからね」
タイヤの造りを理解するにも、何も分からない状況。いろいろな業者に聞いて回って、苦労を重ねて、仕組みや構造を学んでいった。「ちなみに、このクルマのタイヤは自転車みたいに空気ポンプでエアを入れるんだよ」と教えてくれた。
それに、90年前の車両とは思えないほど、ピッカピカだ。「旧車は汚れたまま乗っている人もいるんだけど、自分は『磨いてあげないと』と思っていて。そう思って磨いていたら、きれいになっちゃったんだ」。おちゃめに語るが、手塩にかけて、丹念に整備しているのだろう。
現在は息子に譲っているが、空調関係の会社を経営。30年前の社長時代に、MG車と出会った。しかも、偶然で、何の前触れもなかった。
「社員旅行でロサンゼルスに行った時に、ツアーガイドから『車を売りたい人がいる』と言われて、見に行ったんだ。それが、52年式のMG TD。初めて見て、『こんなクルマがあるのか』と思ったよ。『なんだこれは』って。そもそもMGというメーカーがあること自体知らなかった。当時150万円で買ってね。そこからハマっちゃった」。
それに、32年式で「レーシングカー」のMG J4を加えた、MG 3台が自慢の愛車だ。普段使いで乗っているのは、レクサス、ホンダの軽自動車という。
なぜそこまでMGが好きなのか。「うーん…ロールス・ロイスやアストンマーティンと比べると、そこまでレベルが高くないというか、正直低いと思うんだよね。でも、気に入っているんだ」。不思議な魅力にとりつかれているようだ。
そして、こう付け加える。
「クルマは縁だからさ。何万台という車両があって、その中の1台が自分のところに来る。そこには縁があるんだな、と思って大事にしているんだよ」
さらに、愛情たっぷりのエピソードを教えてくれた。MGでドライブに出かける時のルーティンだ。
「車庫から出す時は『今日も頑張ってね』と声をかけて、ポンポンとボディーを軽くたたいてやるんだ。無事に帰ってきて、車庫に入れた時には『今日もよく頑張ってくれたね』とねぎらう。そうすると、次も元気にしっかり走ってくれる。愛情というか、愛着というか、そうやって乗っているんですよ」。優しい語り口調で教えてくれた。
旧車イベントに参加することをモットーにしている。「人との触れ合いが楽しくて、いろいろな人たちと交流できるからね」。もう1つ。「古いものを大切にするということ。それを伝えたいという思いがあるんだ。小さな子どもたちがこうしてMGを目の前で見ることで、少しでも感じてもらえれば」
大事な大事な愛車。今後について、こんなことを考えているという。
「ウチのカミさんからは『誰かにあげちゃいなさいよ』と言われているのだけど、もしそうなった場合、お金の問題じゃないと思っていて。もし譲り渡すことになった場合、安くてもいいから大事にしてくれる人がいれば、その人に、と考えているんだ。転売なんて絶対にしてほしくないよ」
愛情と使命感を持って、これからもMGを守り続けていく。