想定外の一発合格から14年…元タカラジェンヌも不思議な感覚だった「阪急電車に挨拶」

元宝塚歌劇団トップ娘役の綺咲愛里(きさき・あいり)が、東京建物 Brillia HALLで 18日まで上演されたミュージカル「東京ラブストーリー」に出演した。同作は柴門ふみ氏の漫画が原作で、1991年に連続ドラマで大ヒット。初めてのミュージカル化で、綺咲は研修医・長崎尚子を演じた。23日からは大阪公演がスタート。現代劇という新境地に入った31歳の素顔に迫った。

ミュージカル「東京ラブストーリー」に出演中の綺咲愛里【写真:荒川祐史】
ミュージカル「東京ラブストーリー」に出演中の綺咲愛里【写真:荒川祐史】

綺咲愛里 ミュージカル「東京ラブストーリー」に出演中

 元宝塚歌劇団トップ娘役の綺咲愛里(きさき・あいり)が、東京建物 Brillia HALLで 18日まで上演されたミュージカル「東京ラブストーリー」に出演した。同作は柴門ふみ氏の漫画が原作で、1991年に連続ドラマで大ヒット。初めてのミュージカル化で、綺咲は研修医・長崎尚子を演じた。23日からは大阪公演がスタート。現代劇という新境地に入った31歳の素顔に迫った。(取材・文=ENCOUNT編集部ディレクター・柳田通斉)

――3週間に及んだ東京公演。出演してみての感想は。

「まずは、これだけの大ヒット作に関わらせていただき、ありがたく思います。ただ、舞台はドラマとは別物としてとらえていまして、設定、ストーリー展開の違いもあります。また、全くカラーが違う2チーム(空キャスト、海キャスト)のキャストで上演します。同じ台本でも違う仕上がりになっています」

――演じる前に、1991年にフジテレビ系で放送された大ヒットドラマはご覧になりましたか。

「見ました。すぐにハマって、全話(11話)を一晩で見続けました。次の展開が気になり過ぎたので(笑)。そして、老若男女に支持され、高視聴率だったことに納得しました。もちろん、自分が演じる長崎尚子にも注目しましたが、ずっと赤名リカに感情移入して、応援していました」

――今作の長崎尚子は研修医の設定。同僚の三上健一との関係性に揺れ動き、三上と交際している関口さとみにも、影響を与えていきます。

「物語のスパイスになる役だと捉えています。少ない言葉の裏側で、気持ちがどういう風に三上くんに向いていくのか、お客様に想像していただけたらなと思っています」

――2チームによる公演ですが、綺咲さんはどちらにも出演していました。違いをどういう風に見せましたか。

「ヘアスタイルで言えば、若手の多い海キャストでは巻き髪にし、キャリア組の多い空キャストではストレートにしてシャープさを出しました。セリフも少し変えていて、いくつかありますが例えば、三上くんとの医局前の場面では、海では『あなたこそ何よ』と言い、空では『あなたに何が分かるのよ』になっています。こうした設定は、私にとっては初めての経験でした」

――宝塚時代から数々の名作に出演されていますが、現代劇の出演は数少ないですね。

「はい。今作もドラマとは違い、まさに今の設定ですし、自然体の演技を心掛けました。医者の役も白衣姿も初めてで、ファンの方々からも『似合う』とお褒めの言葉をいただき、うれしいです」

――宝塚卒業から2年が経ちましたが、宝塚音楽学校を受験された時は、宝塚歌劇団のことをほとんど知らなかったそうですね。

「そうなんです。私は隣の川西市出身で、高校1年生の時にピアノの先生から『近いし、宝塚音楽学校を受けてみたら』と勧められ、受験することにしました。声楽の経験もなく、踊りもカルチャースクールでバレエを習っていた程度。(受験対策の)スクールの存在も知らなかったですし、『受かるわけがない』と思いながら、願書を提出しました。実際、試験で踊った時も、周りの人の動きを見よう見まねでした」

――それでも、一発合格。入ってから大変だったのでは。

「『合格は何かの間違いか』と思いましたし、他の同期とは天と地ほど差があって大変でした。でも、立ち向かっていくしかないので、毎日、朝から晩まで歌い、踊りました。劣等感を感じる余裕もない日々でした。実家は電車に乗って40分の距離でしたが、敢えて寮に入って、宝塚の世界に居続けました。日曜日だけは帰りましたが、寮生は外泊禁止なので、必ず日帰りでした」

――宝塚音楽学校には、2020年に廃止されるまで、阪急電車を目にしたらあいさつをするなどの「不文律」があったとされています。

「確かにありました。電車に向かってあいさつするのは、上級生が乗っている可能性があるからでした。それと、下級生が阪急電車の一番後ろの車両に乗ることは鉄則でした。もし、前の車両に乗って、上級生が後ろの車両に乗ってしまったら、上級生より先に進むことになってしまうからです。『下級生はガラガラでも席に座ってはいけない』とも教えられてきました。私にとっては、幼少の頃から馴染みの電車だったので、不思議な感覚はありました(笑)」

宝塚退団後を語る綺咲愛里【写真:荒川祐史】
宝塚退団後を語る綺咲愛里【写真:荒川祐史】

必死だった宝塚時代、退団後は半年休んで「好きなことを」

――2年間学び、18歳で宝塚歌劇団に入団。意識の変化はありましたか。

「入団して給与をもらったことで、自分のスキルを上げる意識が高まっていきました。そして、周りの影響も受け、負けず嫌いにもなりました」

――6年でトップ娘役に。その頃にはスキルに自信を持てていましたか。

「トップスターさんありきのトップ娘役ですが、責任感と不安を抱きました。芸の道に正解はないですし、終わりもない。だからこそ、やりがいはあるのですが、『昨日より今日』という感じで、1ミリでも良くなるように、探求心と向上心を持ちながら過ごしていました」

――退団後の生活は。

「宝塚歌劇団にいる間は、公演の連続で忙しかったので、半年ほどお休みしながら、好きなことをしていました。海外旅行や国内旅行、念願の運転免許も取りましたね」

――芸能活動への思いは。

「休んでいる間にも、少し雑誌のお仕事をいただきました。人に見られる感覚が懐かしく、『楽しい』と思えました。ファンの方々からは『会える日を楽しみにしています』の声も届き、舞台公演のオファーもいただきました。そして、現在の事務所に入り、初めて東京生活が始まりました」

――ただ、そのタイミングで想定外のことが。

「コロナ禍ですね。決まっていた公演の仕事も中止になり、出鼻をくじかれました。宝塚を辞めてすぐのことだったら、落ち込んでいたと思いますが、半年間で自分を見つめ直せたので、ダメージはありませんでした。『今はやれることをやろう』と切り替え、リモートでの朗読劇だったり、ラジオドラマに出演しました」

――東京での生活は。

「宝塚でも1人暮らしでしたが、実家が近かったですし、寂しさは感じませんでした。ただ、東京―兵庫の距離は大きく、人生で初めてホームシックになりました。宝塚の公演で1年の半分は東京にいて、街には慣れてはいたのですが……」

――「東京ラブストーリー」も、永尾完治の上京物語です。

「確かにそうですね(笑)。ただ、長崎尚子は、東京生まれ、東京育ちの令嬢で優等生です。関西で育った私とは真逆の役どころですが、出会ってきた人をイメージしながら役作りをしました」

ピアノの先生も観劇したと語る綺咲愛里【写真:荒川祐史】
ピアノの先生も観劇したと語る綺咲愛里【写真:荒川祐史】

23日から大阪公演 宝塚に導いたピアノの先生も観劇

――23日からは大阪公演(23~25日、東京・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)です。その後、愛知公演(1月14日、愛知・刈谷市総合文化センターアイリス大ホール)、広島公演(1月21~22日、広島・JMSアステールプラザ大ホール)と続きます。楽しみにしていることは。

「各地でファンの方々と会えることです。事務所に届くお手紙などでパワーをいただいていますし、心が温まっています。宝塚退団後に知ってくださった方も多いので、観劇後にまた感想をいただきたいです」

――地元に近い大阪公演には、宝塚に導いてくれたピアノの先生もいらっしゃいますか。

「はい。すごく楽しみしてくれています。祖母もそうですが、私の姿を舞台で見ることがモチベーションになっているようです。『東京ラブストーリー』がどう映るのかは気になりますが、カーテンコールで席にいる先生、祖母、家族の表情を見ることも楽しみです」

――2023年のスケジュールが決まりつつあると思います。今後の活動ビジョンは。

「いろんなことに挑戦したいです。これまで、作り込んだ世界の外国人女性を演じる機会が多かったのですが、現代の日本人女性を等身大の感覚で演じる面白さも感じました。この経験を舞台だけでなく、映像作品にも生かしていけたらと思っています」

□綺咲愛里(きさき・あいり)1991年(平3)10月30日、兵庫・川西市生まれ。2008年、宝塚北高1年で宝塚音楽学校を受験して一発合格。10年に宝塚歌劇団の一員となり、月組で初舞台。その後、星組に配属され、16年にトップ娘役に就任。19年10月にトップの紅ゆずると同時に退団した。20年から芸能活動を再開。舞台が中心で今年は、「Endless SHOCK-Eternal-」にも出演している。趣味はピアノ、料理、口笛。信念は「有言実行」。家族は両親、弟、宝塚歌劇団花組の娘役・美里玲菜。163センチ、血液型A。

□連続ドラマ「東京ラブストーリー」
フジテレビ系の「月9ドラマ」として1991年1月期に放送された連続ドラマ。柴門ふみ氏が88年から小学館「ビッグコミックスピリッツ」で連載した漫画が原作で、サラリーマンの永尾完治(カンチ)と同僚の赤名リカの関係を中心に、東京に生きる若者たちの姿を描いた作品で、主人公のカンチを織田裕二、ヒロインのリカを鈴木保奈美が演じた。高校時代、カンチと同級生だった三上健一を江口洋介、関口さとみを有森也実が演じた。揺れ動く恋心、気持ちのすれ違いを描いた内容と小田和正による主題歌「ラブストーリーは突然に」がマッチ。その人気は「月曜9時には、渋谷から人がいなくなる」と言われるほどの社会現象になった。そして、最終回の世帯平均視聴率が32.3%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)をマーク。20年には、配信ドラマとして29年ぶりにリメイクされた。なお、ミュージカル「東京ラブストーリー」は、漫画が原作でドラマとは設定の違いがある。

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