【週末は女子プロレス♯80】うつ病公表から1年、44歳高橋奈七永がスターダムで奮闘し続ける理由「勇気与えられたら」

1996年に全日本女子プロレスでデビューした高橋奈七永(当時のリングネームは高橋奈苗)。全女崩壊後はプロレスリングSUN、フリーを経てスターダムの旗揚げに参画した。現在はフリーとして今年7月に古巣のスターダムへ帰還。優宇とのコンビでゴッデス・オブ・スターダムタッグリーグ戦を制覇し、12・29両国国技館で中野たむ&なつぽい組のタッグ王座に挑戦する。まずは12・24後楽園で前哨戦をおこなうが、これが“メルティア”中野&なつぽいとの初遭遇。芸能活動との二刀流をもくろむ王者組は現在のスターダムを象徴する存在と言っていいだろう。15年5月の退団以降、スターダムの景色はガラリと変わった。

12・29両国国技館で中野たむ&なつぽい組のタッグ王座に挑戦

 1996年に全日本女子プロレスでデビューした高橋奈七永(当時のリングネームは高橋奈苗)。全女崩壊後はプロレスリングSUN、フリーを経てスターダムの旗揚げに参画した。現在はフリーとして今年7月に古巣のスターダムへ帰還。優宇とのコンビでゴッデス・オブ・スターダムタッグリーグ戦を制覇し、12・29両国国技館で中野たむ&なつぽい組のタッグ王座に挑戦する。まずは12・24後楽園で前哨戦をおこなうが、これが“メルティア”中野&なつぽいとの初遭遇。芸能活動との二刀流をもくろむ王者組は現在のスターダムを象徴する存在と言っていいだろう。15年5月の退団以降、スターダムの景色はガラリと変わった。

「自分的には戻る感覚はまったくなかったです。当時とは立場も違うし、新しいところに出る感じでしたね。実際、運営もブシロードになって規模が大きくなっていて、選手の人数もすごく増えてる。なので、最初はすごく緊張しました。でも、葉月、コグマとか、懐かしい顔もちらほらあったりして。それに、ロッシー小川の団体という肝の部分も変わらない。KAIRIの指名で出たんですけど、そこも七海里で懐かしかったり。懐かしさと新しい刺激で、すごく不思議な感じがしましたね」

 古巣に上がるきっかけは3月の両国だった。赤いベルト、ワールド・オブ・スターダム王座戦の立会人として試合を見届けたのだ。しかし、ここに奈七永の葛藤があった。まだまだ見守る立場ではない。現役でいる限り、リングで闘うべきだと。

「最初は断ったんですよ。立会人なんて引退した人みたいだからって。それでも『(初代王者は)スターダムのレジェンドだから』と説得されました。でもやっぱり、選手としてこの場に立てなきゃ高橋奈七永はダメだなって思ったんですよ。恥ずかしいなと思いました。そこからもっと自分を高めようと思ったし、それが朱里の赤いベルトに挑戦、スターダムに参戦する理由にもなりましたね」

 朱里とのタイトルマッチを経て、タッグリーグ戦にもエントリー。さまざまな選手と対戦し、ほとんどが初遭遇だった。実際にリングに上がり手を合わせたことで、奈七永はスターダムの選手たちに何を感じたのだろうか。

「葉月とコグマは一度やめていろいろあったなかで戻ってきましたよね。その2人とまたこうしてリングで会えるのもうれしかったし、コグマの感性、葉月の勢いは相変わらずすごかったです。新しいところでは、壮麗亜美。まだまだ持て余してる感じがしたけど、身体も大きいし、いいもの持ってるなと。それに、琉悪夏。私の冷蔵庫爆弾(ダイビングボディープレス)をパクッて冷凍庫爆弾を使ってる。最後の公式戦であたって、リーグ戦のベストバウトじゃないかっていろんな人から言われました。私はいままでの琉悪夏を知らないからなんとも言えないけど、もしそうなのなら私のパッションが注入されたも同然なのかなと思いますね。弟子入りしてもいいんだよ(笑)。あと、舞華ね。リーグ戦で屈辱的フォール取られてるから、やり返さないと」

 26年に渡る歴戦のダメージで肉体はボロボロだ。とくに手術した両脚の痛みは日常生活にも影響を及ぼすほど。それでも奈七永はリングで闘えることに喜びを感じている。振り返ればちょうど1年前、彼女はうつ病を公表。社長を務めていたSEAdLINNNG(シードリング)を年内で退団した。自身が旗揚げした団体だけに、苦渋以上の決断だった。

「ホントだ、もう一年たったんだ(驚)」

 眠れない日々が続き、病院で診断を受けたところ、うつ病だとわかった。発覚したのは17年のこと。それからずっと、いや、それ以前から彼女は一人で抱え込んでいた。プロレスラーは心身ともに強くあるべきとの思いがある。高橋奈七永は女子プロレスの強さを体現するレスラーだ。しかも社長だけに、なおさら弱いところは見せられない。

「うつ病って脳の病気なんです。症状は人によりますけど、私の場合、眠れなくて、好きなことに対する興味もなくなってしまうというか、プロレスを考えるのもイヤになってしまうときもありました。また、寝込むと起きれなくなってしまい、ずっとベットで寝ているしかできなくて、月の半分動ければいい方。死んでるように生きてるみたいだなあと思ってました。なんとか外に出ると元気そうに見えるから、気づかれないんですよね。人に伝わらないのがこの病気の問題点。うつで苦しんでる人は思ったよりたくさんいるんだよと、世の中に少しでもわかってもらえたらと思って公表したんです」

現在は「ほぼ寛解」、「この病気との付き合い方がわかってきたのも大きいです」

 では、何が原因でうつを患ってしまうのか。奈七永は言う。

「頑張りすぎちゃうとか、オンオフ付けるのが苦手だったり、我慢して抱え込んでしまう人がなりやすい傾向にありますね。私の場合、性格的な問題だと思うんですけど、より厳しい方を選ぶ傾向にあるんです。やるなら厳しいところがいいと思って全女に入りました。いま思えば、その選び方からしてどうかと思うんですけど(笑)。でも、その厳しさからいまの私がいるのも事実なので。頑張るのはいいことだけど、頑張りすぎるのもよくない。息を抜いてリフレッシュする時間も大切にしてあげなきゃいけないし、我慢しすぎるのもよくないと思います」

 また、環境を変えた方がいいとのアドバイスも医師から受けた。自分で考えて住居も変えてみた。引退の選択肢もあっただろう。そして、4年以上悩んだ末の環境変化が退団だった。

「病気を隠しているという罪悪感もありました。ウソつきながらリングに上がってるみたいで……。自分が社長の団体をやめざるを得ない。それを理解してもらえて(シードリングには)本当に感謝しています。公表したことで少し気持ちがラクになったし、私が言ったことによって勇気をもらったという人もいたりして、それは意味があってよかったなと思います」

 現在も通院は続けている。さいわい、医師からは「ほぼ寛解」と言われている。「寛解」とは、症状が一時的、あるいは継続的に軽減している状態のこと。完治はなく、再発の可能性もないわけではないものの、確実に回復に向かっている状態にあるということだ。

「薬を減らしている段階で、この病気との付き合い方がわかってきたのも大きいです」

 空白期間を経て今年4月にGLEATで復帰した。5月には春輝つくしの引退でアイスリボン横浜武道館のメインに登場。フリーランスサミット「ノマズ」、堀田祐美子のT-HEARTSに参戦し、現在の主戦場は古巣のスターダムだ。これもまたポジティブな環境の変化だろう。そして、今月23日には44歳の誕生日を迎える。

「ハイ、44歳になります! まあ、年齢はただの数字ですよ。エイジ・イズ・ジャスト・ア・ナンバー。高橋奈七永が生きていることによって、証明していきたいと思います!」

 44歳になる奈七永が一番のターゲットにしているのが、スターダムのタッグ王座だ。

「病気で悩んでる人とかたくさんいると思うんです。私がベルトを巻くことによって、そういう人たちに少しでも勇気を与えられたらなって思います。病気ですべてが終わりではない。逃げることが悪とされる風潮があるけれど、逃げてもいい。またやり直せるんです。おかしいなと思ったら病院へ行ってみたり、頼れる人に相談して欲しい。周りにいる人は、わからなくても寄り添ってあげて欲しい。そういうメッセージを伝えていきたいです。自分の場合、試合するだけでもすげえ!って思っちゃいますけど、やっぱり結果がついてきてこそ。タッグのベルトを取って、もっといろんなものを覚醒させますよ!」

 タイトルマッチで対戦するメルティアには、全女時代にリリースしたキッスの世界「バクバクKiss」で挑発された。キッスの世界とは、2005年に高橋奈苗、納見佳容、脇澤美穂、中西百重で結成された、つんくプロデュースの音楽ユニット。かつて全女では、レスラーがレコード、CDをリリースしリングで歌うのが人気の証でもあった。キッスの世界は、そんな華やかな時代を彩った最後のグループと言っていいだろう。

「突然持ち出されてビックリしましたよ。あの子たち、ホントに試合するのって思うくらいかわいくてキラキラしてるんですけど、私たちが争ってるのは歌ではなくプロレス。といっても歌でも私が全然リードしちゃってますけどね(笑)。だって、つんくさんプロデュースでオリコンにチャートインしたり『笑っていいとも!』に出たり、いろいろ経験してますから(笑)。まあ、それはそれでいいとして、もしあの子たちがもっとメディアに出ていったりとか日本武道館もやれるんだったらやってほしいくらいです。それくらいプロレスが人気になったらもっとみんなが幸せになりますからね。やれるもんならやってほしい。なんだったら、私たちが負けたら武道館ライブ実現の暁にはキッスの世界が前座で出てもいいですよ。モモ(中西百重)とノーミ君(納見佳容)と脇澤に土下座して頼んで、キッスの世界が前座をつとめさせてもらいますよ(笑)」

 世代を超えたライバルの出現によって、よりいっそうパッションに火が点いた奈七永。「プロレスほど心が震えるものはない」からこそ、これからもパッション全開でリングに上がる。「私、プロレスの神様っていると思ってて、ボロボロと言えばボロボロですけど、それでも自分は守ってもらってる気がしてるんです。なので、全女時代、それ以降に養った奈七永イズムってものを真向勝負でぶつけて、この世界に還元していきたい。まだまだ若いもんには負けたくないですよ!」。

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