結婚の証しはフェラーリ・ディーノ 花嫁乗せて式場入り 「結婚指輪と新婚旅行の代わりに」

人生最大のイベント結婚式。その誓いの証しに、貴重なフェラーリを――。夢のような演出を現実にしたのが、埼玉県の茂木義信さんだ。30年前の1992年11月26日、結婚式の2日前に1971年式フェラーリ・ディーノ246GT(中期型)を購入し、花嫁と一緒に結婚式場に乗りつけた。「結婚指輪と新婚旅行の代わりにみたいな形でした」という茂木さんに愛車との思い出を聞いた。

真紅のボディーが美しいフェラーリ・ディーノ【写真:ENCOUNT編集部】
真紅のボディーが美しいフェラーリ・ディーノ【写真:ENCOUNT編集部】

ウエディングドレスとスーツをトランクに入れて… エピソードは漫画化も

 人生最大のイベント結婚式。その誓いの証しに、貴重なフェラーリを――。夢のような演出を現実にしたのが、埼玉県の茂木義信さんだ。30年前の1992年11月26日、結婚式の2日前に1971年式フェラーリ・ディーノ246GT(中期型)を購入し、花嫁と一緒に結婚式場に乗りつけた。「結婚指輪と新婚旅行の代わりにみたいな形でした」という茂木さんに愛車との思い出を聞いた。(取材・文=水沼一夫)

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 車を購入し、10年、20年と持つ人はいるが、30年となると珍しい。しかし、茂木さんにとってどうしても手放せない1台がディーノだ。

「実はかみさんと結婚したのが、これを手に入れた2日後。結婚指輪と新婚旅行の代わりにみたいな形でした。まだ入籍前からこの手の車、ロータスヨーロッパとか(フェラーリ)308GTとかカウンタックとか見て回ったりしていたんですよ。なかなかこれというのに出会えずにいたら、レース仲間で自動車屋をやっている人間が大阪におりまして、その彼が『もうしょうがないな。俺の持っているのを譲ってやるよ』ということで、結婚式の2日前に車を取りに行きました」

 仲間の厚意もあり、価格は約1200万円だった。

「308とかヨーロッパは手に届いたんですけど、どうしてもやっぱりかみさんとディーノがいいねと言っていて、ディーノだとちょっと背伸びをしないといけなかったものですから」

 大きな買い物だけに、結婚指輪は渡したものの、新婚旅行は行けずじまい。それでも、結婚式は2人でディーノに乗って会場入りするなど、忘れられない思い出になった。「トランクがでかいんですよ。なのでこれにドレスとスーツと普段着と、あと2次会の引き出物と、全部入っちゃいました」と、誇らしそうに振り返る。

 さらに、うれしいおまけもついた。

「その話が面白いということで、ちょっと話を盛っていますけど、『跳ね馬に乗った花嫁』という漫画になったんです。『桜新町の懲りない面々』というタイトルで、いろいろ車が変わったり人が変わったりしながら、2年間ぐらい雑誌で連載されていた中の7号目に自分らが載りました」

 茂木さんは漫画が掲載された雑誌を大切に保管している。

 夫婦で歩み、人生で最も長く所有した車になった。2ケタナンバーで、旧車イベントでも注目の的だ。

 ディーノは中古市場で高騰している。「よく分からないですけど、2、3倍にはなっているみたいですよね。3000万はするみたいです。今はちょっと買えないですよね」と、高級車にさらにプレミアがついている。

 しかし、ここまで来たら、妻と同様、最後まで添い遂げるつもりだ。

「自分らの夫婦の時間とこれは同じ歴史を刻んでいるということになってしまいましたよね。30年持っていたら、もうたぶん死ぬまで」と笑顔を浮かべた。

 バブルの頃に売られた人気車だけに、国内では現存台数も「結構あると思います」と見ている。

「面白いことにイベントや何かでお話をうかがうと、30年も持っていると長いと思われるじゃないですか。でも、30年クラスの方は結構いらっしゃいます。だから1回はまっちゃったりすると、割と出ないみたいですよね。結構有名な方でも30年、40年持っていらっしゃる方が何人もいらっしゃいます」

 そこまでひきつける魅力は何なのか。

 茂木さんは「下手すると動かなくても何か持っているだけでいいやみたいな、もう眺めてるだけでもいいやぐらいの感じになっちゃいますよね」と実感を込める。真紅の美しいボディーに、洗礼されたデザイン、細部のこだわりは、見る者を飽きさせることがない。

所有して30年を迎えた茂木義信さん【写真:ENCOUNT編集部】
所有して30年を迎えた茂木義信さん【写真:ENCOUNT編集部】

トラブル発生、トンネル内で緊急停車 駆けつけたJAFが驚いた茂木さんの行動

 かつて幼なじみと交わした会話がある。

「実はこういう車の世界に引き込んだ、幼なじみがいたんですよ。そいつは(フィアット)X19なり、アメ車なり、もう次から次に何十台も乗り換えていたんですけど、彼が『この車ってさ、この手の車ってさ、持っているだけで良くない? 工場に入っていようが、何か持っているだけでいいよね』と言ったのがものすごく耳に残っていますね。僕、外車はこれとこれの前に乗ったタルボ・マトラ・ムレーナの2台しか乗っていないんですよ。何台も乗ってきている彼からそういうセリフが出たので、すごく説得力のある言葉だったなと今思いますね」

 幼なじみは茂木さんがディーノを手に入れた同じ日に、偶然フェラーリ328GTSを購入していた。「もう数年前に亡くなっちゃったんですけど、死ぬまでそのフェラーリを持っていました」。不思議な縁を持つ、亡き友が残した言葉の意味をかみしめている。

 50年以上の前の車だが、古さは全く感じさせないという。

「乗り心地は見た目より全然いいですよ。これは逆にこれを譲ってくれたやつの言葉なんですけど、『フェラーリはこういう手の車の中では一番まともだぞ。一番普通に乗れるぞ』と。確かにそう思います。(他の車を)何台か試乗させてもらったり、ポジショニングだけでもやらせてもらったけど、これは本当にまともですよ。エアコンがないので暑いですけど、エアコンとか付いていれば普通に使えますよね」

 まさに極上の1台だ。

 一方で、忘れられないエピソードをもう1つ明かしてくれた。

「トラブルのエピソードなんですけど、購入してしばらくたってかみさんのおなかの中に長男がいたときに熱海の方に遊びに行ったんですよ。その帰りに西湘バイパスのトンネルの中でアクセルワイヤーが切れて、トンネルの中で止まってしまったので、妊婦のかみさんに非常電話まで行ってもらって、JAFを呼んだんですよ」

 JAFが到着しても、トンネルの中では作業できない。そこで茂木さんは……。

「トランクに積んであったトレーナーをアクセルリンケージのところに挟み込んで、2000回転ぐらい回るのを確認して、ギアを入れてトンネルを抜けて、JAFさんをお待ちしました。ジャッキと木切れと針金を分けてもらって、車の下に潜って修理して、それで帰りましたね。そのときに工具や針金をお返ししようとしたら、『いや、僕も長年JAFやっていますけど、この手の車で自分で潜って修理された方、初めて見せてもらいましたので、よろしかったら帰りまた切れたりするとあれなので、持って帰ってください』と言われました」

 愛車のトランクには、JAFからの心遣いが当時のままに積まれている。

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