新体操オリンピアンが画家活動 20歳で引退後の紆余曲折を告白「いろんな経験をした」

新体操のオリンピアンが画家になっていた。北京五輪に出場したフェアリージャパン1期生の坪井保菜美(つぼい・ほなみ)さん(33)。20歳の大学2年で現役を引退し、ヨガのインストラクター、子どもたちに新体操を教えながら、2015年からは絵画にも取り組んでいた。17日からは、初めての個展「坪井保菜美のHONAMI個展」を東京・表参道アートスペースPaminaで(20日まで)開催。引退後、紆余曲折があった坪井さんの歩みを聞いた。

初の個展を開くなど画家としても精力的に活動している坪井保菜美さん
初の個展を開くなど画家としても精力的に活動している坪井保菜美さん

独学7年で初個展を開催中「頭の中に浮かんだものを表現」

 新体操のオリンピアンが画家になっていた。北京五輪に出場したフェアリージャパン1期生の坪井保菜美(つぼい・ほなみ)さん(33)。20歳の大学2年で現役を引退し、ヨガのインストラクター、子どもたちに新体操を教えながら、2015年からは絵画にも取り組んでいた。17日からは、初めての個展「坪井保菜美のHONAMI個展」を東京・表参道アートスペースPaminaで(20日まで)開催。引退後、紆余曲折があった坪井さんの歩みを聞いた。(取材・文=柳田通斉)

 オリンピアンの坪井さんは、ロープ、フープ、ボール、リボン、クラブを筆に持ち替え、数々の絵画作を生み出していた。

「2015年から少しずつ描き始め、コロナ禍に入った一昨年の春には集中して描きました。『暇』と思った日がありませんでした。今回は40点を展示しています」

 作風は、模様を繰り返し描くゼンタングルによる抽象絵画、人物画、ポップアートなどで、アクリル絵の具、水彩絵の具、ボールペンを使っている。誰に指導を受けることもなく、「頭の中に浮かんだものを表現している」という。

 描き始めた理由は、「人間関係などで悩んでいた」からだった。

「気づいたら、無意識にペンを持っていました。ひたすら模様を描いていたのですが、無心になっていて、気持ちが楽になりました。祖父、祖母も趣味で絵を描いていましたし、弟は芸大で日本画家を学んでいましたが、自分が描いていることに驚きながらも、作品ができるとうれしさを感じるようになりました」

 新体操に懸けた青春時代、引退後のことを聞くと、紆余曲折があったことが分かった。坪井さんは、5歳から新体操を始め、06年、高2で北京五輪の強化指定選手に選ばれた。団体でメダルを目指すため、日本体操協会が編成する日本ナショナル選抜チーム。愛称は、「フェアリージャパン」に決まった。当時、チームの拠点が千葉県内だったため、坪井さんは地元の済美高から千葉大宮高に転校。練習、遠征を繰り返しながら、早大スポーツ科学部のトップアスリート選抜入学試験に合格し、入学した。

「今は楽しく充実した日々を送っています」と笑顔を見せた
「今は楽しく充実した日々を送っています」と笑顔を見せた

20歳で引退「違う世界を知りたい」でヨガ、料理も

「ただ、2年生が終わるまでは全く授業に出られず、取得単位は0でした。『オリンピック出場で単位がもらえないの』と聞かれますが、そんなことはありませんでした」

 チームのメンバーは12~13人で、入れ替わりもありながら合宿生活を送っていた。だが、2種目(5フープ、リボンロープ)による団体競技で、各種目の出場者は5人ずつ。坪井さんは、厳しい競争を勝ち抜き、3度の世界選手権、北京五輪で両種目に出場した。

「本当は大学1年の北京五輪でチームも解散だったのですが、成績が振るわなくて、翌年、三重で開催される世界選手権まで継続になりました」

 リベンジの思いで臨んだ09年世界選手権では、リボンロープで4位。チーム結成3年半で、集大成とも言える結果になった。坪井さんも、燃え尽きて現役を引退した。

「大学からは、『個人で競技に出てほしい』と言われましたが、個人となると新たなコーチを付ける必要がありますし、『もう、新体操はいい』『違う世界を知りたい』という思いでした」

 授業の科目は3年生から履修し、コツコツと単位を取り始め、飲食店でのアルバイトも経験した。普通の学生生活は新鮮だった。飲み会にも参加し、楽しさも感じたという。だが、アスリートの血は、すぐにうずいた。

「体重が少し増えて、なまってきたことが嫌になりました。そのタイミングでゼミの先輩がヨガを教えてくださいました。『ああ、ヨガを取り入れた練習もありだったな』『現役の人たちに教えたい』と思い、5年生になってから全米でも使える資格を取りました」

 4年分の単位は3年間で取得し、5年生で卒業。就職はせず、ヨガのインストラクターをしながら、モデルの勉強をしていた。その後、知り合ったプロゴルファーの宮里美香に帯同し、米女子ゴルフツアーを転戦。料理を担当する日々も過ごしていた。

「いろんな経験をしました。引退後は、普通の生活に憧れてOLや主婦になるメンバーが多いです。新体操しかない日々だったので、私もその気持ちは分かります。ただ、フェアリージャパン1期生として経験は貴重ですし、オリンピック出場(オリンピアン)の肩書を生かし、新体操を伝える活動をしたい。それを通し、多くの方達に夢を持ってもらいたいと思うようになりました」

 帰国後は原点回帰。都内で幼なじみと新体操教室を共同経営し、個人でも2つの教室を持つに至った。その合間に絵画に取り組み、タレント活動、講演活動も始めた。画家の活動も少しずつ認知され、16年には才能を競うTBS系「プレバト!!」に出演。その後、ゴルフ場や飲食店の壁に絵を描く仕事にも携わっている。

「いろいろありましたが、今は楽しく充実した日々を送っています。初めての個展では、時間をかけて描いた原画もお売りしています。思い入れはありますが、『欲しい』と思ってくださった方に届くことが、一番いいことだと考えていますので」

 フェアリージャパンでは、本番での1回2分30秒の演技に向けて、長い合宿生活、練習を重ね、審査を受けてきた。気持ちは今も同じ。1つの作品に2年をかけたこともある坪井さんは、初の個展で忌憚(きたん)ない意見、評価を待っている。

□坪井保菜美(つぼい・ほなみ)1989年4月5日、岐阜県生まれ。早大スポーツ科学部卒。5歳から新体操を始め、2008年の北京五輪に日本代表「フェアリージャパン」のメンバーとして出場。翌09年、三重県で開催された世界選手権大会の種目別4位入賞に貢献した。同年、20歳で現役引退。現在は新体操の指導者やヨガのインストラクター、タレントや趣味の絵を生かしてアーティストとしても活動している。愛称は「ほっち」。

【写真】レオタード姿で華麗な演技を披露…新体操現役時代の坪井保菜美さんの姿

次のページへ (2/2) 【写真】壁一面に表現された色彩豊かな迫力のある画…坪井保菜美さんが描いた作品
1 2
あなたの“気になる”を教えてください