青木真也、数字に支配される格闘技界に喝「信念を曲げてまで売れるものを作る気はない」

19日にアジア最大の総合格闘技「ONEチャンピオンシップ」が開催する「ONE 163」(ABEMAでPPV配信)。多くの日本人選手が出場するなか、第2代、第6代ONE世界ライト級王者・青木真也(Evolve MMA)は“強豪”ザイード・イザガクマエフ(ロシア・ダゲスタン)と対戦する。計量前日の17日、現地でENCOUNTの取材に応じ、数字に支配されている格闘技界へ一石を投じた。

取材に応じた青木真也【写真:ENCOUNT編集部】
取材に応じた青木真也【写真:ENCOUNT編集部】

ザイード・イザガクマエフ戦のテーマは「生きてく」

 19日にアジア最大の総合格闘技「ONEチャンピオンシップ」が開催する「ONE 163」(ABEMAでPPV配信)。多くの日本人選手が出場するなか、第2代、第6代ONE世界ライト級王者・青木真也(Evolve MMA)は“強豪”ザイード・イザガクマエフ(ロシア・ダゲスタン)と対戦する。計量前日の17日、現地でENCOUNTの取材に応じ、数字に支配されている格闘技界へ一石を投じた。(取材・文=島田将斗)

 今年1月から「ONE」に参戦したイザガクマエフはMMA戦績19勝2敗という強豪だ。同団体参戦後は2連勝。MMAで57戦している“レジェンド”である青木にケージの中から対戦を要求し、このカードは実現した。

 キャリアの差は大きいが、イザガクマエフは高いフィニッシュ率を誇る危険な相手。なぜこのオファーを受けたのか。格闘技一筋の青木らしい答えがかえってきた。

「やらないという選択肢もあると思うんですけれど、やらないと先に進まないですからね。先送りしているだけになっちゃうので。老いていってやれなくなるのか。また老いなければまたやらなくちゃいけなくなるじゃないですか。やれるんだったらはやくやった方がいいですよね」

 話題は2日後に迫った自身の試合だけでなく、バズることに重きを置く格闘技界の新たな潮流にも及んだ。

 試合直前、ABEMAのインタビューで青木が語った「みんな今言うでしょ。再生回数とか数字って。馬鹿野郎って何言ってんだって。主導権取られてんだよ。客に」という言葉は強いインパクトを残したが、真意について改めて尋ねると「自分が何を創って何を伝えるのかをしっかり持たないと。そこを変えてまで売れるものを創ったりとか自分の思想・信念・主義・主張を曲げてまで売れるものもうかるものを作る気は俺はないっすよ」とぶれずに言葉をつないだ。

 格闘技界だけではない。すさまじい勢いで情報が消費される社会、メディアに対しても言及した。PV(ページビュー)数を稼いで、広告収入を得る。ネットが主流になった現代メディアの基本的な収益モデルだ。自身もSNSやnoteを使って情報を発信する青木は「みんなが悩んでいますよ」と理解を示した。そのうえで、こう言葉をつないだ。

「自分が本当に良い記事を書いてPV数を稼ぐのって結構難しくなってくるじゃん? だからコタツ記事が増えていくと。過激なこともどんどんやっていく。でも僕はそこを否定はしていないんですよ。なんで否定していないかというとその広告モデルがある以上なくならないから」

 だからこそ、青木は自分を貫くことを選んだ。

「俺は今、そこに向けて作っていても仕方ないなって思うんですよ。もう1つの軸として客に対して自分のフィールドで客と商売するっていうのをやっていけば、自分が創りたいもの、作り手が作りたいものができるなって思ってたんです」

 ただ自分の好きなことだけをやっていれば良いというわけでもないと強調する。

「最低限の産業化というか商売が成り立つ形にはしたうえでそれを作り上げるのが腕でしょ、それがプロでしょってことなんですよ。それができなくてただ好きなことやっているだけの人はアマでしょって」

“コタツ記事”が増える現実に理解

 メディアが発信する、取材せずに書く、いわゆる“コタツ記事”は増加の一途をたどっている。思い悩むことなく自分の本当にやりたいことを続けるためにはどうすればいいのか。

「これはPV数を稼ぐもの。こっちは譲れねぇの2軸で良いと思うんですよね」としながら、画家を例にだして説明した。「『私はこんなに一生懸命作ったのに、これが私のコアとなる表現活動の絵なのに、個展をやると他の表に出るものばっかり売れる。だったらこれ最初から描かなくて良かったのかなって』。いやいやお前は何言ってんのって。それには作り手としての思いが詰まってて、それがあるから売れる絵も描けるんだと。結局売れないかもしれないけれど、自分の芯の部分の表現を捨てたんだったら、もう客にもその瞬間売れたとしても最終的に飽きられちゃうよって話をしたんです」。

「僕もそうだ」と笑う。「そりゃ売れるものも作りますよ、僕だって。でも、俺が“コレ”を伝えるというものは絶対に譲らないです」。そう語る青木の目には濁りはなかった。

 19日、厳しい戦いとも言われているイザガクマエフ戦。どんな“青木劇場”を創るつもりなのか。5秒ほど遠くを見つめ、言葉をしぼり出した。

「『生きてく』ってことかな。どんな結果であれ、つながっていくから。“生きてく”以上終わりじゃない

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