「胸の大きさで優劣」“男目線”の価値観を打破 女性仕掛け人が「貧乳」MV作った理由

「『胸が小さい自分は女性としての価値がない』と思い込まないで」――。いわゆる「貧乳」であることで自分に自信が持てないというコンプレックスを抱えてきた女性たちにエールを送ろうと、「胸が小さい女性たち」37人が出演するミュージックビデオ(MV)が公開となった。グラビア界で活躍する女性らメインキャスト5人に加え、全国の20代~60代の一般女性たちがリモート出演。仕掛け人で、女優やコスプレイヤーとして活動経験のあるルキノさんに、制作の背景や真意を聞いた。

ルキノさんはエールの思いを込めて「HINNEW」をプロデュースした【写真:本人提供】
ルキノさんはエールの思いを込めて「HINNEW」をプロデュースした【写真:本人提供】

「胸が小さい女性」37人が出演 女優・コスプレイヤー・秋葉原メイドカフェで活躍したルキノさんがプロデュース

「『胸が小さい自分は女性としての価値がない』と思い込まないで」――。いわゆる「貧乳」であることで自分に自信が持てないというコンプレックスを抱えてきた女性たちにエールを送ろうと、「胸が小さい女性たち」37人が出演するミュージックビデオ(MV)が公開となった。グラビア界で活躍する女性らメインキャスト5人に加え、全国の20代~60代の一般女性たちがリモート出演。仕掛け人で、女優やコスプレイヤーとして活動経験のあるルキノさんに、制作の背景や真意を聞いた。

 MVのタイトルは「HINNEW」。「貧乳」をアルファベット・ローマ字で表現したものだ。ルキノさんはまず、タイトル付けから、もどかしい実情について明かす。

「私自身、『貧乳』は失礼な言葉だと思っています。生まれつきの体のことなのに、胸が小さいことを貧しいと言われてしまうのは差別に近いとも思っています。『小胸』『シンデレラバスト』という表現もありますが、まだまだ世の中に浸透していません。今回は私たちのメッセージが詰まったMVをより多くの人に知ってもらうために、あえて『貧乳』の言葉を選びました。『貧』という漢字を使いたくなかったので、アルファベット・ローマ字にしました」

 約20年の間、エンターテインメント界に身を置いてきたルキノさんの人生の歩みそのものがMV制作のきっかけだ。バストがAAカップのルキノさんは中学時代からコンプレックスを抱えてきた。「友達の胸はどんどん膨らむのに、私だけ膨らまない。これが最初に感じた悩みでした」。

 女優になるのが夢で、高校時代に映画出演を経験し、22歳から本格的に芸能活動を始め、主演を務めるなど映画出演を重ねた。秋葉原のメイドカフェでメイド活動をしていた時期もあった。33歳の時にコスプレイヤーに転身。現在コスプレ活動は引退し、漫画原作者の夫と2人で自給自足の半農生活を送っている。

 30代のコスプレイヤー時代、コンプレックスだった小さい胸を、ファンに「魅力」として受け入れてもらえた。「コスプレやグラビア界は胸が大きい女性が多いですが、そこではAAカップがレアキャラとして『武器』になったんです。ファンの方から『小さな胸こそ最高です』と褒めていただいて。皆さんが私の胸を受け入れてくださったことで、自分の中の劣等感がなくなっていきました。いつか、同じ悩みを抱える女性たちにも、自分の体や体型を自分らしく前向きに捉えるようになってもらいたい。そう思うようになったんです」。

 エンタメに長く携わってきた人間として、「楽しく、明るく、ポップに伝えたい」と、“表現の場”を作ることを意識。昨年夏にプロジェクトをスタートさせた。

 メインキャストはグラビア界で活躍する来栖うさこ、天津いちはの2人にオファー。昨秋にオーディションを実施し、パンクバンドのボーカルを務めているしばくぞ零ちゃん、社会人の琴リサ、大学生のまいまいを選んだ。この3人の、胸や体型にコンプレックスを持つ女性たちを応援したいという思いに心を打たれたという。全国の女性たちはサイトやSNSで参加を募った。

ミュージックビデオ「HINNEW」はメインキャスト5人が明るくポップなパフォーマンスを見せた【写真:本人提供】
ミュージックビデオ「HINNEW」はメインキャスト5人が明るくポップなパフォーマンスを見せた【写真:本人提供】

「女性が見ても『かわいい』と思える衣装・スタイリング・世界観を心がけました」

 ルキノさんが歌・プロデュースを担当するほか、監督・衣装・美術・楽曲制作・スチールカメラのスタッフは全員女性が担当した。「貧しいなんて言わないで」「揺れない ぶれない 狭い隙間も するり スタイリッシュボディー」「大きいだけが全てじゃない」という歌詞を、まるでアイドルのようなキュートな衣装の5人が明るい表情で歌う。テーマに“かわいい”を据えたのにも深い理由がある。

「まず、『貧乳』は自虐で笑いを取ることに使われがちです。それに、どうしてもAVのジャンルのような男性向けの『貧乳フェチ』として受け取られてしまうことも多い。そういった見られ方にならないよう意識しました」と語る。

 表現方法としては「例えば、ルッキズム(外見至上主義)を批判するにしても、欧米の作品のように強い印象の女性が声を上げるというよりは、日本らしい“カワイイ”を通して伝えられればという思いがありました。今回のMVはアイドルっぽい女の子の雰囲気に仕上げました。女性スタッフの目線で、女性が見ても『かわいい』と思える衣装・スタイリング・世界観を心がけました」。ポップな映像表現が印象的だ。ルキノさんも出演している。

 貧乳のマイナスイメージ払拭(ふっしょく)、さらには、日本社会を覆う価値観の打破への思いもある。

「女性は男性に選んでもらって生きていかなければならなかった。そんな時代が何百年と続いてきたと思います。男性目線で『年齢が若い、容姿が美しい・かわいい、おっぱいが大きい』。この価値観の中で、胸の大きさで優劣が付けられる。こうして、女性は『胸が小さい自分は女性としての価値がない』と思い込まされてきたのではないでしょうか。優劣もなく、1人1人が伸び伸びと自分らしく生きられる。そんな社会になってほしいです」

 もちろん、ルキノさん自身、大きな胸の女性に対してやっかみの思いは全くない。「みんな違ってみんないい、それぞれにいいところがある。こう思っています」。

 そんなルキノさんは「ルキノ名義」での活動を今年11月でいったん休止するという。少しゆっくりする時間を持ちたいというが、今後に向けて、「女性が自分を肯定してありのままに生きられる。こうしたテーマの活動は何らかの表現や方法で続けていきたいです」と話している。

※「HINNEW」の正式名称は「HINNEW ハートマーク2つ」

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