「たとえ、ガソリンがなくなっても」 トヨタ2000GT、67歳オーナーが託す“後継者”の条件

茨城県の石塚貴司さん(67)は、ゴールドカラーのトヨタ2000GT(1970式、後期型)の持ち主だ。生産台数は前期型と合わせて337台と言われる貴重車で、米国のオークションでは1億超えの値段で落札されたこともある、旧車の最高峰だ。悩めるのは後継者問題だが、石塚さんは「欲しい人がいたらもう譲りますよ」と言う。愛車の今後を聞いた。

ゴールドカラーのトヨタ2000GT【写真:ENCOUNT編集部】
ゴールドカラーのトヨタ2000GT【写真:ENCOUNT編集部】

愛車との初対面「え、これですか」 ボロボロの車をレストア

 茨城県の石塚貴司さん(67)は、ゴールドカラーのトヨタ2000GT(1970式、後期型)の持ち主だ。生産台数は前期型と合わせて337台と言われる貴重車で、米国のオークションでは1億超えの値段で落札されたこともある、旧車の最高峰だ。悩めるのは後継者問題だが、石塚さんは「欲しい人がいたらもう譲りますよ」と言う。愛車の今後を聞いた。(取材・文=水沼一夫)

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 トヨタ2000GTは、国産の旧車で今、最も価値があると言われる。

「前期型と後期型をすべて合わせて337台と聞いています。でも、337台のうち何台かプロトタイプ(試作)で、形は似てるんですけど、いろいろ何種類かあったみたい。作ったのが337台で、実際に市販された数というのははっきりよく分からない。よく言われるけど、だいたい300台ぐらいが世の中に出回ったんじゃないのかな。そのうち100台は海外に行っちゃった。国内200台の海外100台かな。左ハンドルの2000GTもあるし、私はまだ見たことないんだけど、オートマチックの2000GTもあるんですよ」と紹介した。

 購入したのは16、17年くらい前という。2000GT中心の専門ショップとして有名な「ビンテージカーヨシノ」(横浜市)のストックヤードにあったものだ。

「一応車検は通りますよという形で、あちこち傷だらけだし、シートもボロボロだし、ダッシュボードも厳しいねという状況で、すべてがちょっと厳しいねという状況でした。最初見たときは、『え、これですか』と言いましたね。逆に『中途半端にきれいなものより、諦めついて思いっきりレストアできるぞ』と言われて、そうですねと(笑い)」

 金額は「内緒ですね」とオブラートに包んだが、状態から格安だったようだ。今ほどではないが、当時から価格は上昇していたという。「あの当時、どんどんどんどん自分が貯めている貯金より値段のほうが上がっちゃうんですよね。いつまでたってもこれ追いつかないなって」と振り返るほど。市場の相場は車の状態にもよるものの、2000~3000万円ほどだったという。

 車はレストアに1年強ほどかかった。運転する準備は万端だった。

 石塚さんは25歳のころから旧車に興味を持ち、所有する車のゴールを2000GTに定めて、複数の車を乗り変えていった。

 運転席が中心より後方にあり、フロント部分が長い独特の車体。ハンドル操作に慣れるため、同タイプの外国車にも乗った。

「見て分かるように鼻(先端部分)が長いでしょう。ステアリングの位置がもう半分から後ろなんですよね。こういう車ってロータスのスーパーセブンとか、そのくらいしかない。私はジャガーのEタイプを2台乗りました。それに乗ってから2000GTを手に入れたので、なんて楽ちんな車なんだろうと(笑い)。皆さん、こんなのよく乗れるねって言われるんだけど、何ともない。ジャガーEタイプのほうがもっと鼻が長いしね。世界で一番長いんじゃないですかね」

ライトも含めて個性的なリア【写真:ENCOUNT編集部】
ライトも含めて個性的なリア【写真:ENCOUNT編集部】

50年たっても輝き放つワケ 「これヤマハの車、4輪のバイクですよね」

 レストアが終わり、実際に乗ってみて、車がさらに好きになったという。

「とにかく小ぶりだけど格好がいい。半世紀以上たっても今でも通用する形。だって誰も格好悪いって言う人いないもん。子どものころ、テレビ番組でヒーローものの漫画や実写版があったけれど、やっぱり車はこういう形をしていたんだよね」。流麗なボディーはもちろん、細部の一つ一つの作り込みにほれ込む。開発はトヨタとヤマハ発動機が共同で行った。「これヤマハの車です。4輪のバイクですよね。バイクは2輪だけど、一番分かりやすいのは4輪のバイクですよ。一番それがどこに出ているかというと、ウインカーですよね。バイクと同じで自分でつけたら戻さなきゃいけないんですね」

 ゴールドカラーはオリジナルではない。本物に似せたものだ。「中学生のときに、晴海の東京モーターショーで見た色に一番近い色を探して調合してもらったんです」。数十年も前の記憶だが、鮮烈に残っている。「いや、こんな格好いい車なかったもん。うわ、いつかこれは絶対乗りたいと思いました」。青春時代の夢を大人になってかなえた。

 愛車を乗り続け、67歳になっている。今後、車をどうする予定なのだろうか。

 石塚さんは「欲しい人がいたらもう譲りますよ。ただし、個人売買でしか譲りません。なんでかというと、好きな人に(渡したい)。転売目的って分かったら絶対売らない」と力を込めた。

 米国のオークションで1億を超えて落札された影響で、その他のオークションでも価格が先走りしていると指摘する。欲しい人がいても車好きかどうかは分からない。その価値を「日本の自動車文化の産業遺産」と表現する2000GTを少しでも長く、後世に受け継いでほしい願いがある。

「自分だけの楽しみじゃなくて、いずれ誰かに手渡しするときもきれいな状態であってほしいから、常に傷ができたらすぐに直しています。絶対、次の人に回していかなきゃいけない車。たとえ、ガソリンがなくなってもね」

 愛情を持って大切にしてくれる人が現れたら、快く託すつもりだ。

「そういう人がいたらもういつでもいいですよね。世間相場がどうのこうのじゃなくても、お互い納得した値段だったら。新車価格で1000万、2000万だって言われても、事故でつぶしたらはっきり言って最終的に鉄くず値でしかなくなっちゃう。鉄くずになっちゃうんだったら、やっぱりその価値をちゃんと残していかないといけない」

50年前のデザインとは思えない【写真:ENCOUNT編集部】
50年前のデザインとは思えない【写真:ENCOUNT編集部】

「買っても買わなくても後悔するよ」 言葉の深い意味とは?

 オーナーになって、初めて意味を理解できた言葉がある。

「これを買ってレストアしているときに、ある人にちょっと相談しました。2000GTが大好きな人で、おそらく日本で一番最初に2000GTのホームページを立ち上げた人。いろんなことを聞きました。この車で一応発注しようと思うんですけどと言ったら、『一つだけ教えとくね』と言われて、『この車は乗っても乗らなくても買っても買わなくても後悔するよ』と言われたんです。『後悔する車だから』と。それからしばらくしてから分かりました」

「買っても後悔」とはどのような意味だろうか。

 石塚さんは車の維持を挙げ、オークション値の高騰により、修理のためのパーツ類の価格まで上昇していると嘆く。

「結局その元値が過大評価されちゃったから、パーツまで便乗しちゃうわけ。トヨタの正規の値段でちゃんと入るのはエンジンのオイルエレメントとブレーキパッドだけ。あとはもう見つけるか新品持っている人、中古で持っている人に当たるか、どっちにしてもやっぱりそれだけの時間と費用と、かかるからね」

 運よく部品を発見しても、常識はずれな値段がつけられていることも。「ネットオークションを見ても、『エッ、なんでこんな値段する?』みたいな。ふざけんじゃないよ、みたいな。たぶんパーツだけ何か部品を持っている人が、どうせ金持ちか何かが買うんだろうから、この値段でいいや、で出しちゃうんだろうね。オークションの影響はでかいよ」。

 これまでのレストア代は優に1000万を超えている。16年前の言葉を思い出し、「面倒くさいなってだけですけど、でも、納得できた」と、かみしめている。

 職業は建設業で、他にガソリンスタンドも経営している。

「ガソリンスタンドは今はもうからない。みんな辞めちゃっている。でも、その地域にないと、みんな困っちゃう。ガソリンだけじゃなくて、冬だったら灯油を使う人もいる。そういう人のためには俺は辞めずにやろうと思う」と語る一方で、電気自動車(EV)の波が押し寄せる中、ガソリン車の未来を案じている。

「最終的に、ガソリン車がなくなるような時代が、そう遠くない将来と言われている。そのとき、うちのスタンドのタンクにガソリンだけ全部ぶちこんで、自家用にしてしまえばいい。俺が生きていればね。もともとそのためじゃないけど、残しておく理由はそれ。それしかない」と前を見つめた。

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