夏のボーナスは364万円 2児のママ、なぜ実現? 復職後の時短勤務で感じた“壁”を打破

2児を育てるママで、メリハリを付ける仕事に取り組んだ結果、月約100時間の労働時間で夏のボーナス「364万円」を実現させた女性社員がいる。人材紹介会社「株式会社ディーセントワーク」(東京)の鈴木美貴子さん(41)だ。夫婦で協力する子育てのスケジュールに合わせた「時間の使い方」の秘訣(ひけつ)とライフスタイルについて聞いた。

転職エージェントの鈴木美貴子さんは2児のママでもある【写真:株式会社ディーセントワーク提供】
転職エージェントの鈴木美貴子さんは2児のママでもある【写真:株式会社ディーセントワーク提供】

「数字目標なし、ノルマなし」の人材紹介会社 ダラダラやることなく「仕事の時間と育児・家庭の時間を区切って働く」

 2児を育てるママで、メリハリを付ける仕事に取り組んだ結果、月約100時間の労働時間で夏のボーナス「364万円」を実現させた女性社員がいる。人材紹介会社「株式会社ディーセントワーク」(東京)の鈴木美貴子さん(41)だ。夫婦で協力する子育てのスケジュールに合わせた「時間の使い方」の秘訣(ひけつ)とライフスタイルについて聞いた。(取材・文=吉原知也)

 仕事の内容や給与面に悩んでいたり、転職を考えている人の相談を受け、相談者に合う企業への紹介をサポートする「転職エージェント」の仕事。今夏のボーナスは社会人人生で最高額だった。それでも、「この仕事は水物。すべては自分次第なので、依頼をいただいてこそのお仕事ですし、そして自分次第だとも思っています」と、きりっとした表情で語る。

 2015年から働く同社は4社目。もともとIT業界で法人営業や企画職に従事し、人材業界に足を踏み入れて13年目だ。前職からの転職がポイントになった。前職のスタートアップ企業に入ったのはリーマンショックから抜けきるかどうかの時期で、結婚して長男を出産して復職、次第に会社は規模拡大をしていった。だが、復職後に困難が訪れた。「時間は有限である中で、子どもを生むとどうしてもできることが限られてきます。時短勤務だったのですが、フルタイムで働く人と肩を並べるためには、子どもを寝かせた後に深夜まで仕事をやらないといけない状況で、ちょっと限界かなと思ったんです」。報酬面を含めて自分が求めているキャリア、スキルを生かして働きたい将来像を考え、「このままこの会社では歩めないのかなと思ったんです」。50人規模の従業員と役員たちの間に立つポジションだったが、会社を去る決断をした。

 そこで相談したのが、もともと知り合いだったディーセントワークの高橋秀成社長だった。高橋社長は、国際労働機関(ILO)が掲げるスローガン「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の実現を目指し、15年に同社を立ち上げ。「数字目標なし、ノルマなし」をポリシーに、月120時間未満でフレキシブルな働き方、実績に応じた報酬のシステムを同社に取り入れている。

 ちょうど新たな会社を設立したばかりの高橋社長の理念に心を動かされた。「来ればいいじゃん」。こんな誘い文句に、決意が固まった。出産を機に、何のために働くのかという価値観が変わったことも大きかったといい、「以前は会社のために、事業拡大のために働くという考え方があったのですが、それが子どもを生んで家族ができて、ガラッと変わりました。会社のために犠牲にしなければいけないものが大きくなってしまってはダメなのかなと。自分のスキルを特化して伸ばせる環境で勝負したい、と思うようになったんです。ある種の賭けでもありました」。ディーセントワークに入社後は18年に長女を出産。2年間の育休を経て20年4月からフルタイムで復帰している。当初からリモートを業務に取り入れており、体調に合わせて出産の数日前まで仕事をしていたという。

 転職エージェントの仕事は、相談者個人についてとことん知り尽くすことは「大前提」。相談者の人となりや悩み、スキルや希望などを細かく把握することが求められる。それだけに、相談者と話し合う「面談」は重要な業務の1つだ。

 鈴木さんにとって、結果を出すためのカギを握るのが、「時間のコントロール」。小学3年生の長男と幼稚園に通う長女のタイムスケジュール中心に仕事を合わせている。それに加えて「頼ること」もポイントに挙げており、夫婦の育児分担が支えになっている。長女の送迎は主に夫が担当し、夫の送迎の間に朝の片付けや夜ご飯など子どもたちが帰宅した後の準備は鈴木さんが担当。「もともと転職希望者は、皆さん日中に働いていらっしゃるので、夜に面談を入れることは基本です。最近はコロナ禍でリモートワークが浸透してきて昼に入ることも増えてきました。このやりくりについては、私の場合は子育ての状況や子どもの習い事のスケジュールに応じて柔軟に対応しています」。

「ママさんによくよく聞くと、旦那さんのケアがなく、1人で育児をしているケースがあります」

 例えば、火・木は長男のサッカークラブが午後6時半ぐらいまである。迎えに行ってご飯を食べて片付けて、その後、午後8時から面談を設定する。水曜のプールは長男は1人で通えるため午後6時半に帰ってくる。それまでに面談を入れるといった具合だ。「面談の後に、内容を整理して次につなげるためのToDoリストを作る業務もあります。その日の夜のうちにやらないといけないのか、次の日の朝に回せるのか、そういった判断も大事です。例えば小学校の朝の旗当番が回ってきて保護者が付き添うので、そんな日は夜のうちに終わらせるなど日々調整しています」とのことだ。それに、場所を選ばないオンラインの強みを最大限に生かし、サッカークラブの練習や試合の現地でパソコンを開いたり、冬は長男のスキー合宿の宿泊先のホテルで作業をしたり、求職者の依頼に対して隙間時間も可能なタイミングを見つけて面談を行っている。ダラダラやることなく、仕事の時間と育児・家庭の時間を区切って働く。これが鈴木さん流の成功の秘訣だ。

 また、仕事と育児の頭の切り替えについては子どもへの接し方に気を配っているといい、「あまりないですが仕事で詰まることがあった時は、子どもへの言い方や伝え方においては引きずらないようにしています」。仕事のストレスを感じないという面では、ノルマを個人に求めない同社の独自システムによるところが大きいという。

 働くママでよりいい環境で成果を挙げたいと思っている人に向けて、どんなことが大事になってくるのか。鈴木さんは、転職エージェントらしいアドバイスを送る。「2つの観点があると思っています。外に向けて変えなければいけないこと、中に向けて変わらないといけないことです。『外に向けて』の面では、会社内の制度やしがらみのせいで給料が上がらない、働き方の時間のコントロールが効かない、そうであれば、働く場所自体を変えることも選択肢です」。それに、家庭内の状況を見つめ直すこともポイントだといい、「例えば、午後4時半に帰りたいけどその時間までに仕事が終わらずになかなか帰れないという悩みがある場合、そのママさんによくよく聞くと、旦那さんのケアがなく、1人で育児をしているケースがあります。子どもが寝る時間から逆算して考えるとこの時間にご飯を作らなきゃいけなくて…と悩んでいます。でも、旦那さんの協力があれば、帰宅時間について仕事を終わらせることができる時間に変更できるかもしれない。ちょっと厳しい話かもしれませんが、その場合は『それは中に求めることかもしれません』といった話をさせてもらいます」。

 より働きやすい社会の実現に向けて、「時間のコントロールと協力という面で、私の場合はラッキーなことに、夫の理解があり、夫の会社も弊社と同様にフレキシブルかつ多様的な働き方が可能な会社であるので、そこは大きいと思っています。ダブルインカムであってもなかなか生計を立てづらい世の中で、自分だけが家事をする、自分だけが育児をしなきゃいけない、ということではなく、2人で協力して取り組むことが大事なのではないでしょうか。フレキシブルに働ける会社が増えて、家庭の理解が高まっていけばと思っています」と、自身の経験を交えたメッセージを教えてくれた。

 1つの成功が長続きするとは限らない厳しい業界。結果を出すプロとしての今後の生き方は。「この仕事に満足というものはありません。自分が紹介して入社した方について、『これでよかったのかな』と日々思っています。1年たって『転職してよかったです』『この会社に入れてよかったです』と連絡をくださってその時に初めて実感する、そういった感覚です。相談者は人によっていろいろなパターンがあるので、気を抜かずに自分自身もスキルを向上させて、情報をキャッチアップし続ける。コツコツ着実にやっていく。それしかないです」と力を込めた。

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