愛車は甦ったマッドマックス 1500万円でかなえた青春の夢 コロナ禍が変えたオーナーの人生
ド迫力の車体は、映画「マッドマックス」(1979年)に登場する車を再現したものだ。埼玉県の川野信明さんの愛車で、2年前に購入した。学生時代に映画館に8日間連続で通いつめ、朝から晩までマッドマックスを見ていたという筋金入りのマニア。新型コロナウイルスの流行を機に、「明日死ぬかもしれないな」と人生を見つめ直し、若き日の夢を実現した。車を譲り受けるときは感動のあまり号泣してしまったという川野さんに、愛車への思いを聞いた。
車体を見て号泣 65歳のオーナー、思い入れたっぷり
ド迫力の車体は、映画「マッドマックス」(1979年)に登場する車を再現したものだ。埼玉県の川野信明さんの愛車で、2年前に購入した。学生時代に映画館に8日間連続で通いつめ、朝から晩までマッドマックスを見ていたという筋金入りのマニア。新型コロナウイルスの流行を機に、「明日死ぬかもしれないな」と人生を見つめ直し、若き日の夢を実現した。車を譲り受けるときは感動のあまり号泣してしまったという川野さんに、愛車への思いを聞いた。(取材・文=水沼一夫)
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マッドマックスはオーストラリアのアクション作品で、俳優メル・ギブソンの出世作として知られる。続編も制作され、今でも根強いファンを持つ人気シリーズだ。
車は主人公が乗る車を再現したもので、「映画の中に登場するブラック・インターセプターという車のレプリカ車です。映画と全く同じ設定でフォード・ファルコンというオーストラリアの車があるんですけども、それをベースに映画と同じふうにデコレーションして作ってあるものです」と説明した。
フロントの出っ張っている部分はスーパーチャージャー(過給機)と呼ばれるもので、見た目のインパクトは大。
「エンジンの出力を上げるために、実際には付けるんですけども、映画のシーンを再現したいだけなので、ここにモーターを仕込んで、別にバッテリーで回しているだけなんですよ。この吸気音を楽しんでいます。ジェット戦闘機なんかでもF15とか、キーンって音がするじゃないすか。あれは自衛隊の人たちもちょっと別物だっていうぐらいすごい戦闘機なんですよ。それと同じ感覚ですね。これが回って、その映画のシーンがよみがえってくるんですよ。だからこれは映画の雰囲気を楽しむだけですね。そのためにつけています」
車を作ったのは初代オーナーで、川野さんは2年前に買い取った。
「これを実際に作った最初のオーナーさんは名古屋のお医者さんなんですよ。今からだいたい7、8年前に作って、私は2年前に買って、2代目のオーナーになったっていうのがいきさつです」
価格は1500万円ほどだった。
「最初に作ったオーナーさんいわく、だいたい3500ぐらいかかっていると。中古車をまずオーストラリアから輸入して、足回りから全部直してスーパーチャージャーを積んで、デコレーションして、リアのスポイラー(エアロパーツ)は鉄なので、それも板金さんに頼んで作ってもらっています」というこだわりの1台だ。
どうしても手に入れたかった理由がある。
「今、65なんですけれども、20歳ぐらいのときにマッドマックスの映画を初めて見て、衝撃を受けてですね、何というかっこいい車だと。それから車とかバイクに興味を持つようになって、いつかオーナーになりたいなと思ったんですけども、そうは言っても簡単に買えるものではないですし、他の車みたいにいつでも(市場に)あるものじゃないので、タイミングですよね。2年前に購入したんですけども、ちょうどコロナがもうまん延してるときで、明日死ぬかもしれないなと。じゃあ自分の好きなことやろうと思ったときに、俺の夢って何だったのかなと思ったときに、マッドマックスを思い出して、この車のオーナーになることだったんです」
インターネットで調べると、映画で見たそのままの車が売りに出されていた。
「結構、掲載されていたからもう売り先決まったんだろうなと思って、連絡したんですよ。そしたら、いやまだ決まってませんと。ただ、見たいという方は何人かいらっしゃるのでという。これは見に行かなきゃいけないと思い、ちょうど県外移動がOKになっていたので、もう1台ジムニーの軽に乗っているんですけど、それで中央高速ぶっ飛ばして行ったら、『本当に来たんですか。埼玉から』と言われて。『来ました。車を見せてください』と言って車を見せてもらったら、もうその時、実は号泣しちゃったんですよ、俺」
「何としてでもお金、工面しますから」 運命的だったタイミング
マッドマックスは何回見たか分からない。「第1作のときはB級映画だったんですよ。それが実際日本で公開になったとき大反響になって、私も同じ口ですね。当時の映画館は入れ替え制じゃないので、1日ずっと見ていられるんですよ。丸1日いると、1日8回ぐらいやっているんですよね。それを8日間ぐらい通い詰めて、学生だったので暇なのもあったんですけど、セリフまで全部頭入って、もうとにかく魅了されて……」
印象的なシーンも脳裏に刻まれている。「奥さんと子どもは暴走族に殺されるんですよ。その復讐のために、言ってみれば警察の車両を無断で持ち出して暴走族に復讐をするという物語。そのときに、この車が持ち出されていくんですけど、それが印象が強くて。一気にファンになりました」
現実に存在する車かどうかは考えたことがなかった。
「実際にオーストラリアの映画で作っているんだから日本だって作れないわけはない、絶対同じような考えの人はいるはずだ」
その車が40年の歳月を経て、目の前にあった。
川野さんはあふれる映画、そして車への思いをオーナーに語った。
「どれだけこれが欲しかったかというのをオーナーさんに猛アピールして、とにかく何としてでもお金、工面しますからもうインターネットから削除してくれとお願いしました。そしたらじゃああなただったらお受けしましょうとOKをもらって、インターネットから削除してもらって購入したんです」
プライベートでFXをやっており、たまたま上り調子だったのも幸運だった。「もちろん定期をばらしたりとかいろんなところからかき集めてお支払いしたんですけど」と、金銭面もなんとか工面することができたという。
コロナ禍に背中を押される形になった川野さんは、改めて人の運命というのを考えている。
「人生観がコロナによって変わったというのが一番大きかったですね。たまたまコロナで人生観が変わった。ネットでたまたま現車が売りに出ていた。たまたまFXがうまくいっていた。明日どうなるか分からないんだったら自分の一番の夢を今のうちにかなえたい。運命的でした」
愛車が変えた人生 SNSで積極的に情報発信→広がる仲間の輪
憧れの車に乗り、人生はさらに変わったという。
「人生がまったく変わりましたね。今、『道の駅ごか』というところに、1週間に1回乗りに行っているんですよ。私が普通の車に乗って行ったら、誰も声かけないですよ。これに乗っていくと、とにかく写真を撮らせてくれ、懐かしいと。マッドマックスを見ていたんだって、会話が弾むんですよ。それがもう一つの老後の生きがいになっています。普通に車に乗って行ったんじゃ、誰もこんなじじいに声なんかかけないじゃないすか(笑い)」
見知らぬ他人だったのが、車を通じて接点が生まれ、思い出を語り合う。それは、車のルーツが劇中車だからこそ、かもしれない。
「さっきまで他人だったのが、もう仲良しになっちゃうんですよ。普通の旧車じゃないプラスアルファがこれにはあるので、それは魅力ですよね」
川野さんはSNSも開設し、積極的に情報を発信している。インスタグラムからTikTokまで使いこなし、映画や車のファンと情報を共有。カーライフを楽しんでいる。
「マッドマックスのファンはいまだに多くて、動画を上げていると、現車を見てみたいという人が多いんですよ。もう年金生活に入った後期高齢者なんですけど、こういうのを好きな人たちと集まってワイワイ談義したり、というのも楽しみの一つですよ」
深すぎる愛がたっぷり詰まった愛車。
「あと5年、6年乗れればいいかなという感じなので、その後の世代に引き継いで、できれば乗ってほしいなという思いがあります」と話している。