料理愛好家の平野レミ、料理家、食育インストラクターの和田明日香が「第9回料理レシピ本大賞in Japan 2022」で初の母娘ダブル受賞を果たした。平野は著書「おいしい子育て」（ポプラ社）でエッセイ賞を獲得。平野の次男・率の妻の和田明日香は自著「10年かかって地味ごはん。」（主婦の友社）が料理部門に入賞した。ENCOUNTが行った上・下に渡るインタビュー。「下」では“やさ”しい気持ちになってほしいとこだわる、野菜を使ったレシピや、失敗談。特別な逸品について聞いた。（取材・構成＝西村綾乃）

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　優れたレシピ本を選考する「料理レシピ本大賞」。平野は、2人の息子（長男でトライセラトップスのボーカル＆ギターの和田唱と、次男の率）の子ども時代のこと、育児や仕事への向き合い方などを、夫の和田誠のイラストとともにまとめた「おいしい子育て」がエッセイ賞に、和田は「見た目は茶色くても、しみじみおいしいレシピ」を詰め込んだ「10年かかって地味ごはん。」が料理部門入賞に輝いた。母娘の受賞は初の快挙だ。

――「野菜は肉の3倍。野菜を食べると“やさ”しい気持ちになれる」からと、お2人の本には、野菜を使ったレシピがたくさん登場します。もし野菜を1つだけ使って、いろいろな料理を作ってと依頼されたら、どの野菜を選びますか。

平野「私はトマト」

和田「この野菜だけ使って20品作ってとか言うことですよね？　私はレンコンかな。食感が色々じゃないですか。シャキシャキもモチモチも。トロトロもフワフワもできるから。煮ても揚げても良いし」

平野「あの人（レンコン）は、人格（食感など）変わるのよね」

――食材には人格があると、レミさんの書籍「家族の味」に書いてありましたね。本の中では食感の変化などを「人格」と表現していて面白かったです。それで、レミさんはトマトで何を作りますか？

平野「最初に『牛トマ』でしょう。後はスープも良いし、炒めたりグラタンみたいなのでも良いし。なんだってできる。そのまま食べたらサラダだし。トマトを入れればなんだっておいしくなる。あの人は素晴らしい人ですね」

和田「トマトの歌もあるぐらいですから」

平野「トマトが大好きだから、歌を作ってあげたの」

和田「ニンニクもあるんですよ」

――レミさんはシャンソン歌手でもあるので、歌だってお手の物ですよね。私は「おいしい子育て」の「失敗もいっぱい」の中にあった「キミダンゴ」のエピソードが好きです。

平野「『お腰につけたキミダンゴ』ね」

和田「え、何それ？」

平野「（画家の）横尾（忠則）さんが和田さんのところに来たときに私がね、甘いもの好きの横尾さんにお団子作っていたの。丸めながら『♪お腰につけた、キミダンゴ』って歌ったらさ、横尾さんが『え、レミちゃんいま何て言ったの？』って。だから『キミダンゴ』よって。そしたら横尾さんが『キミ』じゃなくて『キビ』だよって。私は、桃太郎が鬼退治に行くとき、タマゴの黄身が入った真っ黄色のお団子を持っていたんだって、子どもの時からずっと思っていたんだけど、そうじゃなくて『キビ』だったのよね」

和田「キビを知らなかったの？（笑）」

平野「そうなのよ。この年まで知らなかった。和田さんと横尾さんにゲラゲラ笑われて、とっても勉強になっちゃったのよね」

――横尾さんが笑っている様子などが浮かんで、温かい気持ちになりました。「おいしい子育て」の中でレミさんが明かされていた産後の食事についての話も印象深かったです。

和田「おにぎりですね」

平野「だって、あーちゃんだってそうでしょう？　もう人生やってきてさ、あんな人間という素晴らしい作品を産み出したときの達成感と満足感と充実感と幸せ感ってない。で、そのまま疲れてベッドで寝ちゃって、お腹が減って目が覚めたら枕元におにぎりがあったの。そのおにぎりが人生やってて一番おいしかったかもね。もう思い出して鳥肌立っちゃう」

――明日香さんは、生涯で感動した食べ物はどんなものでしたか？

和田「生涯って言うと難しいですね」

――別の意味で印象深かったものでしたが、明日香さんは「10年かかって地味ごはん。」の中で、レミさんが作った「バナナのカレーはない」について取り上げられていましたね。

和田「バナナブームがあったんですよ、謎の。ご飯を食べる前に、絶対にバナナを食べるっていう。たしかお父さん（誠さん）に食べさせていたんだと思うんですけど」

――明日香さんの本には、レミさんの家に行ったら、すごくおいしそうなカレーが出てきたけれど、一緒に出てきたバナナに、レミさんがカレーをかけたことが衝撃だったと書かれていました。

平野「あらそうだったの」

和田「『絶対平気、絶対平気』って言って。おかあさんが作るものは、大体何を食べてもおいしいんですけど、あれだけはご飯が良かった。バナナが効いていますねとはならなかった……」

平野「食べ物同士の組み合わせなら、大体大丈夫だと思っているんだけどね」

――いやぁ。チョコレートらっきょうは、字づらだけで、ゾクゾクしました（笑）。

平野「よく覚えていますね。らっきょうとチョコレートは合わなかったのよ。合体したらすごくまずかったね」

――明日香さんは「おいしいもの」浮かびましたか？

和田「途中でしたね。難しいなぁ。私の産後は（銘菓）舟和の『いもようかん』でしたけど。おいしかったもの……。あ、子どもが作ってくれたものですね。もう信じられないくらいおいしかったです」

平野「そうね。良いこと言う。あーちゃん、良いお母さんだね」

和田「今年、6年生の娘が自由研究で沖縄料理にトライしていたので、ゴーヤチャンプルーとか、お麩を使ったフーチャンプルーとか。あとは三枚肉のラフテーとか。ちゃんと出汁からとってソーキそばも作ってくれたんですけど。もう天才ですね。うちの子、天才です」

　息ぴったりの2人。今後について、和田は「子育てがひと段落したら、お母さんとYouTubeチャンネルを持つのも良いかも」と展望。平野は「私は（2019年に）未亡人になったので、ひとりでもちゃっちゃと作って食べて、元気でいられる味望人（みぼうじん）レシピを提案して行きたい」と意欲を見せた。

□平野レミ（ひらの・れみ）東京都出身。料理愛好家・シャンソン歌手。家庭料理を作ってきた経験を生かし、“シェフ料理”ではなく、“シュフ料理”をモットーに、テレビ、雑誌などを通じて数々のアイデア料理を発信。特産物を用いた料理で全国の町おこしなどにも参加し好評を得ている。レミパンなどのキッチングッズの開発も行う。

□和田明日香（わだ・あすか）東京都出身。料理愛好家・平野レミの次男と結婚後、修業を重ね、食育インストラクターの資格を取得。各メディアでのオリジナルレシピ紹介、企業へのレシピ提供、全国各地での講演会など、料理家、食育インストラクターとして活動している。2018年に「ベストマザー賞」、21年に「第14回ペアレンティングアワード文化人部門」を受賞。3児の母でもある。