500万円で一戸建てが完成 驚異の技術に世界が注目…日本企業が挑戦する3Dプリンター住宅

3Dプリンターで一軒家を丸ごと出力する「3Dプリンター住宅」の実用化が現実味を帯び始めている。兵庫県のスタートアップ企業セレンディクスでは、3Dプリンターを使った一般向け住宅「フジツボモデル」を開発。2023年春までに、約500万円で1LDK一戸建て住宅の販売を目指すとしている。実現すれば住宅業界に大規模な価格変動が起きることは必至だが、本当にそんなことが可能なのだろうか。セレンディクスの飯田国大COO(最高執行責任者)に3Dプリンター住宅の現状を聞いた。

施工開始から23時間12分で完成させた3Dプリンターハウス「Sphere」【写真:セレンディクス提供】
施工開始から23時間12分で完成させた3Dプリンターハウス「Sphere」【写真:セレンディクス提供】

日本第1号となる3Dプリンターハウスを施工開始から23時間12分で完成

 3Dプリンターで一軒家を丸ごと出力する「3Dプリンター住宅」の実用化が現実味を帯び始めている。兵庫県のスタートアップ企業セレンディクスでは、3Dプリンターを使った一般向け住宅「フジツボモデル」を開発。2023年春までに、約500万円で1LDK一戸建て住宅の販売を目指すとしている。実現すれば住宅業界に大規模な価格変動が起きることは必至だが、本当にそんなことが可能なのだろうか。セレンディクスの飯田国大COO(最高執行責任者)に3Dプリンター住宅の現状を聞いた。

 セレンディクスは“世界最先端の家”創出をコンセプトに、2018年8月に設立。今年3月には、日本第1号となる3Dプリンター住宅の24時間以内の完成を目指し、球体状の3Dプリンターハウス「Sphere(スフィア)」を施工開始から23時間12分で完成させた。このプレスリリースは世界26か国59媒体で掲載されるなど、国際的にも大きな反響を呼んだ。

「Sphere」は広さ10平米の球体状で、電気設備のみで水道などの設備はついていないが、グランピング施設などの目的で、年内に国内で6棟の販売が決定している。さらに、来年春以降の販売開始を目指している「フジツボモデル」は広さ49平米、電気・水道・ガスの他、風呂やトイレも完備するなど、すぐに入居が可能な住居としての販売を予定しているという。

 本格的な住宅が24時間、500万円ほどで建つとは驚きだが、強度や耐水性、断熱性、耐火性、耐震性など、一般に住居として求められる基準は満たしているのだろうか。

「素材は一般的なコンクリートに特殊な硬化剤などを混ぜたもので、二重構造にすることで断熱性を高めています。世界一厳しい日本の耐震基準をクリアしており、強度も問題なく、各種特許も出願しています。球体という形がポイントで、これが自然災害に最も強い形状です。現状、世界中で開発が進んでいる一般的な3Dプリンター住宅は、壁部分のみを3Dプリンターで出力する工法を取っており、工程や建築コストも従来の住宅と大きく変わりませんが、球体であれば家自体がひとつの構造体で、建築納期やコストを大幅にカットできる。専門的な部分なので説明しづらいのですが、屋根のいらない角度のついた球体の壁を出力する技術こそが他にはない弊社の強みです」

2023年春までの販売を目指す一般向け住宅「フジツボモデル」【写真:慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター 益山詠夢提供】
2023年春までの販売を目指す一般向け住宅「フジツボモデル」【写真:慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター 益山詠夢提供】

 なぜ、名だたる世界の建築企業ではなく、兵庫のスタートアップ企業が球体の家を開発することができたのか。飯田COOは、このプロジェクトに参加する世界140社の協力が大きいと語る。

「我々は一般的な住宅メーカーというより、デジタルデータの会社。我々が持っているコンセプトと施工技術のデータに、世界中の協賛企業から施工材料やさまざまな技術を提供してもらい、それらが結集して初めて球体の家が完成するんです。世界140社、総売り上げ高15兆円の企業群からなるプロジェクトなので、1つの特許で成り立っているわけではない。さまざまな民間企業からの技術協力なく、NASAだけで宇宙にいけないのと同じです」

 500万円で一軒家が建つ時代が到来すれば、現行の建築・住宅業界も影響を受けることは必至だが、意外にも業界団体の不和や圧力などはないという。背景にあるのが、深刻な日本の住宅ローン事情だ。

「住宅ローンの平均完済年齢が73歳、4割の人が一生家を持てないともいわれる時代です。『一生賃貸でいい』という選択も、60歳以上からは更新を渋られるケースも多く、住む場所を失った高齢者から安い家を求める問い合わせも年々増えています。今の住宅ローンの仕組みでは、いずれローンを払い切れなくなる人が増えることは業界関係者も分かっている。3Dプリンター住宅の技術開発の流れは止まらず、いわゆるゲームチェンジが起きつつあります。一方で、高いお金を払っても今までのような家に住みたいという需要も変わらずある。ハレーションは起きないと思います」

 今後は2025年の大阪・関西万博で世界へ向けてアピールし、「車を買うように家を買い、すべての人から住宅ローンから自由にすることが目標」と飯田COO。果たして本当にあと数年で住宅業界をめぐる事情は一変するのか。3Dプリンター住宅の今後を見守りたいところだ。

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