出演時間わずか3分で手にした吉本新喜劇“トップ”の座 アキが総選挙1位に輝いたワケ

「吉本新喜劇座員総選挙」で1位に輝いたアキ。2014年に入団してから8年、黄色いスーツの“借金取り”がわずか3分の出番の中で勝ち取った1等賞。当の本人は喜ぶというよりも「ここからがスタート」とさらに闘志を燃やす。そんなアキが思い描く“新喜劇像”を明かした。

「いぃよぉ~」のギャグで笑いを取るアキ【写真:ENCOUNT編集部】
「いぃよぉ~」のギャグで笑いを取るアキ【写真:ENCOUNT編集部】

作りたいものは笑いの中にメッセージ性のある新喜劇

「吉本新喜劇座員総選挙」で1位に輝いたアキ。2014年に入団してから8年、黄色いスーツの“借金取り”がわずか3分の出番の中で勝ち取った1等賞。当の本人は喜ぶというよりも「ここからがスタート」とさらに闘志を燃やす。そんなアキが思い描く“新喜劇像”を明かした。(取材・文=島田将斗)

 舞台に真実はあった――。総選挙で1位になったことを思い浮かべたときにアキの頭に浮かんだ言葉だった。

 10月10日になんばグランド花月(NGK)で行われる「吉本新喜劇まつり2022~選ばれし30名の座員たち~」。30の出演権を懸けた「吉本新喜劇座員総選挙」が6月29日~8月23日に開催された。

 いわばオールスター新喜劇。1位を勝ち取ったのは座長ではない。黄色いスーツ、謝られれると「いぃよぉ~」と許す持ちギャグでおなじみのアキだった。苦節8年。3分しかない少ない出番から勝ち取った大きな1位だ。

 総選挙は順位も決まる。そんな中で「お祭りでええやん。1位になろうがべべになろうが全部笑いでええやん」とずっしりと構えていたのはアキだった。

「総選挙って秋元康さんが考えた盛り上がるいい企画。それを新喜劇に当て込むのはどうなんやっていうのも分かります。それで人生が変わるわけじゃない、ギャラが変わるわけでも首を切られるわけでもない。だから文句はええやんって」

 表面的にはこう話すアキだが、実のところは胸に熱いものを秘めていた。1位を獲った直後によく聞かれたという「自信はありましたか?」。「そんなんありえないですよね」と笑う。

「座長張ってはる人たちは当たり前のように上位に入ってくるんですよ。任されているところが普通の座員と全く違うからそれは当たり前。僕なんかは出ている尺が違うし、ちょい役で黄色で暴れて、お昼の関西の人に流すとかはない」

 感慨深いものがあると目をつむる。「だから“舞台に真実はあった”ということなんですよ。コツコツと一個一個の舞台の2分か3分の出番でどんだけ記憶に残すか命を懸けてきた。悔しいこともあった。でも8年間学べたし、強くもなれた」

8年間の苦労についても語るアキ【写真:ENCOUNT編集部】
8年間の苦労についても語るアキ【写真:ENCOUNT編集部】

「いーよぉー」きっかけで講演も

 11月29日からは7日間、記念座長座長公演が予定されている。アキの作りたい新喜劇、座長像についても口にした。

「座長に本当に正解とか不正解はなくて、色鉛筆やと思っています。いろんな色があって良い。僕は僕の色の新喜劇を作っていく」

 アキの色。それはスーツの黄色のことではない。アキが特に意識しているのは子どもやお笑いの中にあるメッセージ性だ。

「僕の作る新喜劇はあんまり暴力、下ネタはあまりない。言葉遣いは気を付けていますね。よく新喜劇にある人質をとって『逃走用の車用意せんと殺すぞ』というせりふ。“殺すぞ”ってほんまは子どもによくない。『逃走用の車用意せんとどうなっても知らんぞ』とかに変えます。アドリブで後輩が言うたとしても、変えさせます」

 現在の考えに至ったきっかけは小学校の講演会。持ちギャグ「いーよぉー」を通して、けんかやいじめ防止につながっているという声がアキの耳に届いた。等身大のアキの経験を語る講演会はたちまち人気に。現在では、教育委員会と仕事をするようにもなったという。

 YouTubeにゲーム、習いごとに塾。現代の子どもたちは忙しい。テレビを全く見ない家庭もあるほどだ。そんな中でアキの原動力になっているのは「ふんぞり返っている子がちょっと前かがみになっていく」瞬間だ。

「修学旅行とかでNGKに来ている子たちもおる。笑いに興味ない人は根本的に興味ないんです。じゃあ何を感動さすねんって。10年間ずっとそれを考えてやってきた」

 実際に「前かがみになっていく」瞬間を己の目でも見てきた。「『Joy!Joy! エンタメ新喜劇』ってので座長をやらせてもらっているんです。世界レベルのダンサーなどと新喜劇がコラボする公演なのですが、本物が出ると『え?』って前かがみになるんです」とうれしそうに笑う。

 さらに「お笑いを見るか、見いひんのかってそんな時代に一瞬しかないと思うんですよ。だから濃いものを作らなあかん。笑かすのは当たり前で、その中にいじめってこんなもんやでとか、格闘技ってこんなもんやでとか、友達ってこういうことや。そこを僕は大事にしているんですよ」とうなずいた。

 悔しい思いもした新喜劇への熱い気持ちがあふれ出てくる。「吉本が作ってきた歴史のあるブランド。もっと世界にも広がっていかなあかんものだと思います。今の子どもたちにももっと見せていかないといけない。新喜劇って今後、日本の学校教育においてメッセージ性のあるソフトになると思います」と思いを込めた。

 アキ色の新喜劇に話は止まらない。「ストック、武器たくさんありますから」と少年のように笑う。吉本新喜劇が世界に、教科書に。この男なら本当にやってしまいそうだ。

□アキ、1969年8月22日大阪府生まれ。吉本興業に1992年に所属し、ケンと漫才コンビ「水玉れっぷう隊」を結成。14年に吉本新喜劇に入団。趣味は空手、野球、ダンス、格闘技。

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