男性社員の「取るだけ育休」なくすには? ベビー用品メーカーが20年続ける画期的な取り組み

10月1日から男性の育休を取りやすくする「産後パパ育休」(出生時育児休業)が始まった。子どもが1歳になるまでに、通常の育休と合わせて最大4回に分けて取れるなど、男性の育児参加を推進している。一方で、課題はその実効性だ。夫に休みを取ってもらったものの、ママたちからは「いないほうがよかった」「ゲームしてばかり」の声も。男性の「取るだけ育休」を避けるためにはどうすればいいのか。最先端の企業を取材した。

子どもが生まれて幸せいっぱいのはずだが…(写真はイメージ)【写真:写真AC】
子どもが生まれて幸せいっぱいのはずだが…(写真はイメージ)【写真:写真AC】

育休レポート提出 効果発揮する「奥様からのご意見・ご感想」欄

 10月1日から男性の育休を取りやすくする「産後パパ育休」(出生時育児休業)が始まった。子どもが1歳になるまでに、通常の育休と合わせて最大4回に分けて取れるなど、男性の育児参加を推進している。一方で、課題はその実効性だ。夫に休みを取ってもらったものの、ママたちからは「いないほうがよかった」「ゲームしてばかり」の声も。男性の「取るだけ育休」を避けるためにはどうすればいいのか。最先端の企業を取材した。

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 ベビー用品を扱うコンビ株式会社の山内貴之さんは、妻が里帰り出産から戻ったタイミングで、9日間の育休を取り、復職した。

 復職時に提出したのは、A4用紙3枚の紙。そこには、育児に携わった実際の感想がびっしりと書かれていた。

 同社は約300人の社員のうち6割が男性。性別にかかわらず、育休取得率は20年連続で100%を達成している。そして、ただ休みを取るだけではない理由が、男性社員向けの有給休暇制度「ハローベビーホリデー」の中で設けているレポート制度だ。

 ユニークなのが、レポートの最後にある「奥様からのご意見・ご感想」の欄。強制ではないものの、配偶者に任意の協力を求め、実際にレポート通りの育児をしていたか、妻の目からの分析や感謝の言葉を書くことができる。

 これまでに寄せられたのは、夫の育児に対する妻のリアルな声。

「主人は休暇中、積極的に子どもたちと触れ合ってくれました」「私には“家事や育児をしなくていい日”を作ってくれました」「食事の準備、洗濯、子どものお世話、長男の保育園のお迎え、お風呂…全部主人が一人でやってくれました」「精神的にリフレッシュできる時間をもらえました」

 同社広報の川崎愛さんは「男性社員は絶対にウソは書けない」と話す。

 さらに、レポートは社内で回覧。人事部や担当役員だけでなく、副社長や社長が目を通す仕組みになっている。

 普段働いていても、社長までが個人のレポートに目を通す機会はめったにない。社内全体で男性育児への意識を高め、本業にも生かしていこうという意図が透けて見える。

 山内さんは「回覧先が社長まであるので、書いている本人にとっても意味があるフローだなと思いました」と前置きしつつ、レポートを巡って夫婦間で育児について語り合えたことが大きかったと明かす。

「出産時にも休みを取りましたし、実際に夫婦2人でともに時間を過ごしていますけど、育休に対して家族で話す機会はなかったので、奥さんに書いてもらったレポートを見て、あ、こういうふうに感じているんだって知る機会になりましたね。『好きなように書いて』と話をしたんですけど、この欄に書ききれない行間に込めた思いは、書いている途中に直接話をしてくれたので、そういうことをレビューする機会が夫婦の中であったのはすごくよかったです。ひざを突き合わせて、育児休業を取ったことに対してどうだった? ということはなかなか普段の家族間では聞かないじゃないですか」とメリットを語った。

コンビ株式会社の育休男性社員が提出するレポート(一部)【写真:ENCOUNT編集部】
コンビ株式会社の育休男性社員が提出するレポート(一部)【写真:ENCOUNT編集部】

育休を取得した男性が家庭で「ただの足手まとい」にならないために

 現在は育休取得率100%の同社だが、ここまで来るには試行錯誤もあった。

 男性社員の有給休暇制度「ハローベビーホリデー」を導入したのは、2002年。まだ世の中的にも浸透していなかった男性の育休制度に実効性を持たせるため、「部下が休みを取らないと上司の査定にかかわる」との共通認識があった時期もあった。今では十分に普及したため査定との関連は撤廃されている。

 男性の育休取得あたり、一般的に会社側がなかなか進められない理由の一つに挙げるのが、「代わりの社員がいない」ことだ。

 この点について、同社では妻の妊娠、だいたいの出産の目安などの報告が受け入れやすい環境作りを整えている。気遣いも無用で、育休期間に男性社員の不在を見据え、フォロー体制を考えている。

「グループのメンバーがいたら、メンバー内でどう補っていくか、育休を取得するかなり前の段階から調整し始めています。一斉に協力体制に入る。逆に取引先からも『コンビさんってマストで育休を取らなきゃいけない期間あるでしょ』と言われることもあります」(川崎さん)

 出産後は、産後うつになりやすいなど、女性の心身にとって負担の大きい時期。夫が寄り添い、食事や洗濯など身の回りのできることを手伝うことは心強いサポートとなる。一方で、休みを取っても、何もしないのであれば本末転倒だ。SNS上では「夫は戦力にならない」「ただの足手まとい」など、ママからの厳しい声も目立つ。日ごろから家事や料理をしたことがなければ、妻の負担が増えるだけというケースも想定でき、前持って役割決めなどの準備をしておくことが必要だ。

 新設された男性版産休の「産後パパ育休」は子どもの生後8週間以内に、4週間の育休を取れる。通常の育休も2回に分けて取得が可能になり、働き方に応じて柔軟に利用できるのが特徴だ。

 男性育休を形骸化させないために、どうすればいいのか。

 ベビー用品メーカーとして独自の育児支援制度も多数持つ同社だが、レポート制度はそれを差し引いても、どの会社でも取り入れることができるもの。男性の積極的な育児参加、企業による理解は時代の流れでもあるだけに、参考になる点もありそうだ。

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