10月注意のダニ、実は多い家の中の“危険スポット” 増殖の予防策は? 研究50年の専門家に聞いた

快適な住環境と健康維持にとって、厄介なのがダニの存在だ。家に住み着くダニのフンや死骸(ダニアレルゲン)に触れたり、吸い込んだりすることで引き起こされる「ダニアレルギー」は要注意。エステー株式会社が発行するダニに関するガイドブックによると、ダニの数は8月、アレルゲン量は10月がピークになるという。ダニを50年にわたって研究している医学博士の高岡正敏氏に、「実は」ダニの多い家の中の危険スポットや増殖の予防策、新型コロナウイルス禍で見つめ直すべきポイントについて教えてもらった。

秋は家の中のダニ対策にとって大きなポイントになるという【写真提供:エステー株式会社】
秋は家の中のダニ対策にとって大きなポイントになるという【写真提供:エステー株式会社】

「ダニは洗剤に入れても、洗濯しても、死にません」 住居内のダニ調査を続ける医学博士・高岡正敏氏 

 快適な住環境と健康維持にとって、厄介なのがダニの存在だ。家に住み着くダニのフンや死骸(ダニアレルゲン)に触れたり、吸い込んだりすることで引き起こされる「ダニアレルギー」は要注意。エステー株式会社が発行するダニに関するガイドブックによると、ダニの数は8月、アレルゲン量は10月がピークになるという。ダニを50年にわたって研究している医学博士の高岡正敏氏に、「実は」ダニの多い家の中の危険スポットや増殖の予防策、新型コロナウイルス禍で見つめ直すべきポイントについて教えてもらった。(取材・文=吉原知也)

「挙げればキリがないのが正直なところですが、住環境の整備、生活様式の改善が大きなポイントになります。それに、予防策の前提となるのが、『ダニを殺すことより、増殖抑制』という考え方です。ダニは洗剤に入れても、洗濯しても、死にません。いかに増やさないか、ということに思考を切り替えることが重要です」。長年、寄生虫やダニの研究者として活動し、現在はダニアレルギー患者宅を訪問して環境改善の助言を行う事業を展開しながら、住居内のダニに関する調査結果をまとめて体系化に取り組む高岡氏はこう語る。

 ダニの種類は約5万種。日本の家に住み着き、アレルギーなど人に害を及ぼすダニは「チリダニ」とされ、主に「ヤケヒョウヒダニ」「コナヒョウヒダニ」の2種類が対策にあたり重要という。高温多湿、人の皮脂や食べかすを餌として好むダニ。高岡氏は「一般論として、家の中のダニは夏をピークに冬の数倍、多い家庭では数十倍にも増殖して、死んでいき、フンや死骸が壊れて小さな粒子になります。これらを吸い込むとぜんそくやアレルギー性鼻炎、皮膚内に入るとアトピー性皮膚炎などの健康被害の原因になります。アレルゲンのピークは10月と言われています。また、秋のシーズンは押し入れにしまってある布団を、秋用、冬用に取り替えていきます。暗闇で湿気の多い押し入れで汚染された寝具を使い始めることでリスクが高まる要因とも言えます」とのことだ。

 具体的な注意スポットは、本当に数え切れないほどだ。布団やベッドなどの寝具、カーペット、増殖しやすい布製ソファ、特にゴミが落ちやすい玄関マット等々…。畳にじゅうたんまたはじゅうたんを二重に敷く「重ね敷き」はNGだ。さらに、ダニがあまり住み着かないとされるフローリングでも「板と板の2ミリ隙間。小さなダニからすれば、人間の家と同じ環境になります。この隙間もしっかり掃除しないとダメなんです」。

 中でも、「盲点」なのが衣類だ。「きれいに洗濯しても、ダニが繁殖した衣装ケースで他の衣類と一緒にしまうと、ひと晩で汚染されてしまいます。服1枚に多くて数百匹、秋冬に使うブルゾンの襟元のファー部分から数千匹が見つかったこともあります。下着にも増殖します。とにかく抑制が一番大事です。保管場所は、密閉性のある空間で乾燥させるために除湿剤を置きましょう。衣類の分類が重要で、よく使うもの、たまに使うもの、あまり使わないものなど細かく分けること。ほとんど着ない服は思い切って捨てる選択もありますよ」と話す。

ダニ対策は「乾燥」も大事な要素だという【写真提供:エステー株式会社】
ダニ対策は「乾燥」も大事な要素だという【写真提供:エステー株式会社】

「子ども部屋は意外にダニが多いです」 求められる住まいの改善

 意外な場所としては、人が移動することでダニの好むゴミが落ちやすい階段、それに、食卓の椅子のクッション部分だ。「仕事用の椅子もそうですが、クッションがセットで接着されているタイプがありますよね。意外に掃除で抜けている場所ではないでしょうか。勉強部屋や書斎の椅子の下に敷いてある、寒さ対策のマットも見逃しがちです」。それに、子育て世代にはチャイルドシートやベビーカー、それに抱っこひもは要注意で、「1万匹が見つかったケースもあります」。また、自動車の車内が温床になることも。「屋外で、屋根なしまたは屋根有りの駐車場の場合は車内がかなりの高温になるのでリスクは少ないですが、車庫に置いてある車のシートの隙間やマットは気を付けてください」とのことだ。

 さらに、「少子高齢化」という独自視点で注意点を挙げる。「子ども部屋は意外にダニが多いです。ある程度成長すると親が掃除に入る機会が減るのに、子どもは散らかしたままにしがちです。調査で、子ども部屋は北側の一角に多い傾向が分かりました。家の北側は南側に比べると湿気が多いことが関連していると考えています」。それに、高齢者の部屋については「高齢者は暖かくするために服を重ね着して、床にもマットなどを重ね敷きする方が多いです。加齢によって皮膚のタンパク質がはがれて落ちやすくなり、あまり動かないで寝ていると、どうしても湿気が溜まってダニが増えやすくなります」と説明する。

 ダニの増殖を抑制するための対策としては、洗濯をして、日光を当てて干して、掃除機をかける。この3つの原則に加え、保管場所の管理が求められる。「布団の天日干しをした後に掃除機をかけること。これでダニを完全に除去することはできませんが、繰り返すことで、布団全体の湿度を下げて増殖の抑止効果が出て、アレルゲンを除去しやすくなる相乗効果が得られます。経済的な負担との兼ね合いにはなりますが、高密度繊維の布団は抑止効果が高いです。乾燥機の積極的な使用、コインランドリーの活用、ダニ専用のスプレー類も有効です」と教えてくれた。

 長引くコロナ禍で、人とダニの関係はどう影響され、変化しているのか。答えは「悪循環」という。「ステイホームで人が家にいる時間が増えました。家で仕事をする人も増え、『家族密度』が高まる傾向にあります。人がいるところは湿気が高くなり、ダニの好むゴミを落とすことで、どうしても繁殖してしまいます」。高岡氏はそのうえで、今のタイミングでの対策実施を呼びかけており、「家にいて家の状況をより体感して考えられる今だからこそ、住空間の見直しを図るタイミングなのではないでしょうか。ダニ対策は換気・通気が大事。家具の配置、衣類や寝具の保管場所、重ね敷きをしている場所を見直すことです。それに、大掃除は年末に1度という方が多いかもしれませんが、ダニ対策としては繁殖が始まる梅雨前の時期、そしてアレルゲンがピークになる10月がチャンスです。住まいの改善に目を向けてみてはどうでしょうか」としている。

ダニの専門家・高岡正敏氏【撮影:八木実枝子】
ダニの専門家・高岡正敏氏【撮影:八木実枝子】

□高岡正敏(たかおか・まさとし)医学博士、獣医師。日本獣医畜産大を卒業し、東大医科学研究所寄生虫研究部でダニの研究を始める。1980年、埼玉県衛生研究所環境衛生部技術吏員に就任。2008年に同所を定年退職。これまで行ってきたダニに対する調査結果をまとめ、アレルギー疾患に対する治療法と予防法を確立するため、「株式会社ペストマネジメントラボ」を設立。主な著書に「ダニ病学」(東海大学出版会)、「ダニとアレルギーの話」(あさ出版)など。

※高岡正敏氏の「高」の正式表記ははしごだか

ムシューダダニよけ
https://mushuda.st-c.co.jp/special/daniyoke/

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