“花束投げ捨て騒動”があぶりだした本当の課題 今こそ立ち返るべき昭和格闘技の「姿勢」

世界の格闘技ファンが注目したフロイド・メイウェザー・ジュニアVS朝倉未来戦の直前、事件は起こった。リング上でメイウェザーに花束を渡すはずの人物が、花束をメイウェザーに渡さず、その場に投げ捨てたのだ。世に言う“花束投げ捨て騒動”。これには著名人をはじめ、さまざまな人たちから大ブーイングがまきおこった。現場で見ていた記者は何を思ったのか。今回はこれを考える。

「超RIZIN」で対戦した朝倉未来(左)とフロイド・メイウェザー【写真:山口比佐夫】
「超RIZIN」で対戦した朝倉未来(左)とフロイド・メイウェザー【写真:山口比佐夫】

「誰に売ったのか知らなかった」

 世界の格闘技ファンが注目したフロイド・メイウェザー・ジュニアVS朝倉未来戦の直前、事件は起こった。リング上でメイウェザーに花束を渡すはずの人物が、花束をメイウェザーに渡さず、その場に投げ捨てたのだ。世に言う“花束投げ捨て騒動”。これには著名人をはじめ、さまざまな人たちから大ブーイングがまきおこった。現場で見ていた記者は何を思ったのか。今回はこれを考える。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

「超RIZIN」「RIZIN.38」(9月25日、さいたまスーパーアリーナ)から3日がたった。

 もちろんメイウェザーVS朝倉未来も、堀口恭司VS金太郎も面白かったが、やはり“花束投げ捨て騒動”の衝撃は絶大だった。

 たしかに、まさかあのタイミングでメイウェザーに花束を渡すはずの役割を担った人物が、渡さずに目の前に投げ捨ててリングを去るのだから、まさに「一寸先はハプニング」(byアントニオ猪木)を地でいく光景だったのは間違いない。

「日本の恥」

 SNSではそういった声も見られたが、記者が現場でその瞬間を目撃した際の率直な印象は、見ているこっちが恥ずかしい、だった。

 そんなやり方でしかメイウェザーに一矢報いる方法がないのか。

 まさに花束贈呈の直前にあった、歌手のクリス・ハートによる熱のこもったアメリカ国歌斉唱と比べると、その落差に愕然とした。

 時代は戦後70年以上を経過し令和になったというのに、いまだにB-29に竹槍で向かっていくようなやり方をしているようで、本当に残念な気持ちになった。

「どなたが(花束贈呈の権利を)落札されたのか知らなかった」

 大会終了後、榊原信行CEOが総括でそのような話をしていたが、モラルハザードを起こしてしまう人間を「神聖」と思っているリングに上げてしまった責任は、やはりRIZIN側にある。

 かといって420万円という金額を支払って、花束贈呈の権利を落札した人間からすれば、江川卓の「空白の1日」ではないが、目的を達成するためには手段を選んでなんていられない。いや、こうなった以上、今後は買った人間のモラルを確認しなければいけなくなったことを考えると、そもそも売ってよいものだったのか。まずはそこから考えることが先決になる。

朝倉未来を2Rで倒したメイウェザー【写真:山口比佐夫】
朝倉未来を2Rで倒したメイウェザー【写真:山口比佐夫】

“絶対的な関係”

 興行であり、ビジネスである以上、売上や利益を追求するのは何よりも重要だろうが、そのやり方があからさますぎると、いざ問題が起こった際にはどうしても批判の声は雪だるま式に肥大化する。

 とくに「超RIZIN」「RIZIN.38」は、いつもの大会に比べると、最前列席100万円という金額設定をはじめ、チケット代は跳ね上がり、タイトル名とのギャップに戸惑った声もよく聞かれていた。

 今後は世の中にはお金では買えない領域が存在することを、もう少し効果的に打ち出すことも考えてみてはどうか。改めてそう提案したい。

 今時、生ぬるいかもしれないし、古い考え方かもしれないが、「THE MATCH」(6月19日、東京ドーム)での50億円という売上金額やメイウェザーが「THE MONEY」と呼ばれていることで感覚がまひしてしまったのか。さらにいえば詐欺容疑で逮捕された市議会議員とのつながりを含め、良くも悪くも最近のRIZINは、カネの話が出過ぎてしまうと思うのは記者だけだろうか。

 元々この国の国民性はそういったことは秘匿してきた気質がある。最近は一部でそうでない流れが出てきた傾向にあるのかもしれないが、問題はその出し方や出方になる。是非とも再考してもらい、改めるべき部分は改めることを提案したい。

「改めて品性下劣な男をリングに上げてしまいました事をこの場を借りて心からおわびします。今後この様な愚劣な行為をさせ無い様、徹底する事をお約束します」

 これは大会終了後、榊原CEOのTwitterアカウントに投稿されたものだが、この気構えが本心ならば、次大会(10月23日にマリンメッセ福岡で開催予定の「RIZIN.39」)以降、徐々にではあっても改善されていくだろう。

 その際の参考になるのかは不明だが、ひとつの例を上げる。

 振り返ると、アントニオ猪木の目が光っていた、昭和の新日本プロレスでは、心無い野次やおかしな行動を起こした観客は、即座にとっ捕まえて出禁にするといった、観客と主催者の間における、“絶対的な関係”が存在していたと聞く。もちろん令和と昭和では時代も違えば、現代のようなコンプライアンスのうるさい時代に、果たしてそんなことができるのかはわからない。が、確実にいえることは、一考の余地はある、ということ。

「RIZIN行く場所に騒動あり」

 かつて榊原CEOは「アントニオ猪木の影響を受けてイベントを運営している」と話していたが、これを機会にその部分を再度、見つめ直す良い機会が来た、と考えてみてもらえれば幸いである。

 さて、正論ばかりで申し訳ないが、“花束投げ捨て騒動”が起こった際、もうひとつ思ったことがある。

 それは、相手がメイウェザーで救われたな、ということ。もしあれがメイウェザーでなく、“インドの狂虎”タイガー・ジェット・シンだったら……と思わずにはいられないからだ。

 冗談抜きで、もしあれがメイウェザーではなくシンだったら、当該人物は血だるまにされていた可能性も全否定できない。

 この話を聞いて、「プロレスと一緒にするな」と言われたら、それは完全な知識不足であり認識違いも甚だしい。

 シンはプロ意識の塊のようなファイター。自分が舐められたと思ったら、その瞬間に相手が誰だろうと絶対に黙ってはいない。それがもしコンプライアンス的に問題があったとしても、おそらく彼は実行する。それで裁判沙汰になったとしても、真のファンからは確実に称賛される違いない。

 それくらい、凄味あふれるプロレスラーがシンという男なのだ。いや、凄味だけではない。「匂い」「姿勢」「狂気」……、どれをとってもシンの右に出る者はいなかった。

 もう一度書く。相手がシンでなくて本当によかった。

 しかし一部メディアの報道によれば、当該人物が“花束投げ捨て騒動”を起こした理由は、「メイウェザーは金の話ばかり」「非礼には非礼で返しただけ」とのことらしいが、非礼に対して、何事もなく紳士的な対応をしたメイウェザーの評価が上がってしまったのは皮肉だった。

 ともあれ、RIZINは、良い意味でも悪い意味でも、次から次に話題を提供し続ける、つくづく世にも珍しい格闘技イベントだと思う。

 まさに「RIZIN行く場所に騒動あり」。

 奇しくもそれが証明された「超RIZIN」「RIZIN.38」だった。

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