新幹線乗り入れも路面電車乗り換え時間は倍に 新しい長崎駅にひそむ課題と街の事情
9月23日に西九州新幹線の武雄温泉~長崎間が開業し、博多~長崎間が最短1時間20分で移動できるようになった。従来の長崎本線経由に比べて約30分短縮となったが、新幹線乗り入れに備えた長崎駅の高架化工事で、市内の路面電車やバスとの乗り換えルートが「改悪」されるデメリットも発生している。背景には、長崎市内の道路事情も影響しているようだ。
西九州新幹線の武雄温泉~長崎間が開業
9月23日に西九州新幹線の武雄温泉~長崎間が開業し、博多~長崎間が最短1時間20分で移動できるようになった。従来の長崎本線経由に比べて約30分短縮となったが、新幹線乗り入れに備えた長崎駅の高架化工事で、市内の路面電車やバスとの乗り換えルートが「改悪」されるデメリットも発生している。背景には、長崎市内の道路事情も影響しているようだ。(取材・文=大宮高史)
JR長崎駅には新幹線と在来線の長崎本線、諫早から直通する大村線の列車が発着し、市内交通は路面電車の長崎電気軌道とバスが発着する。新幹線乗り入れを前に、長崎市内の浦上~長崎間の高架化事業が行われていた。
従来、長崎駅の在来線ホームは車両基地とともに地上にあった。工事の過程でまず既存ホームを駅西側に移転し、在来線を新ホームで高架化。隣に新幹線ホームを建設し、駅全体を高架化するプロセスで高架化がなされた。在来線ホームは2020年春に高架化され、このほど新幹線が開業したが、工事の過程で駅全体が西側に約150メートル移転した形になった。ゆえに従来のままの路面電車・バスとの乗り換えに要する距離が大幅に伸びており、長崎電気軌道によれば地上駅時代に比べると「およそ2倍の乗り換え時間になっています」という。
JRホームと路面電車やバス停の間を移動するには、旧ホーム跡地に設置された東西間通路を歩いていく必要がある。新幹線開業と前後して、長崎駅の利用者の間で改めてこの問題がクローズアップされることに。長崎電気軌道でも9月13日に、長崎駅と長崎駅前電停の利便性についてツイッターで説明文を投稿、新しい長崎駅への電停移設が困難な理由を説明している。
同社によると、長崎駅前を経由する電車乗客の8割が通過利用、つまり長崎駅前で下車しない乗客で、電停を新幹線駅側に移設すると所要時間が伸びるため利便性が低下する。また電停が走る国道202号線は交通量が多く、電車線路を駅側に引き込むと車線とクロスしてしまい、渋滞が悪化する可能性がある。長崎駅前の南側で電車の系統が二方向に分岐しているために、現状でも電車の信号制御が複雑になっていることも電停移設が困難な理由に挙げている。
駅の高架化着手に先立ち自治体や事業者で電停の移設も検討されたが、これらの理由で断念されたと長崎電気軌道は取材に答えた。
今後、再開発が進むにつれJR駅と市内交通の乗換ルートは整備されていく。駅と国道202号線の間では東口駅前交通広場が9月23日から供用を開始し、タクシー・観光バス・長崎駅前発着の路線バス(10月1日から)が乗り入れる。ただし電車電停と長崎駅前を経由する路線バスは、従来通り国道202号線上で発着する。「駅と電停の移動ルートでは、エレベーター・エスカレーターの整備で上下の移動を改善していきます。検討段階ではありますが、小型モビリティやカートの導入で駅利用者の平面上の移動も改善できればと考えています」と再開発を所管する長崎市まちづくり部長崎駅周辺整備室は話している。
観光都市でもある長崎市だが、市内を走るバスと路面電車の乗客流動は必ずしも長崎駅を核としない。「長崎は南側に旧市街があり、北に新しい市街が広がっています。南北を移動する市民の需要が多く、バス路線でも長崎駅を通過する利用が多くあります。他の都市のようにJR駅側に電停を引き込むことも検討しましたが、このような交通事情を踏まえ、現状のままとなりました」と長崎駅周辺整備室は取材に答えた。観光客の流動は新設の東口広場にも誘導しつつ、地元市民の利用状況にも配慮したのが現状の長崎駅周辺の交通事情となっている。