幻の貴重車を持つ高齢ドライバーの苦悩 「ゴミだから売っちゃえ」の声に「俺にとっては宝」
人生100年時代。日々、安全運転に気をつけながら車を大切に乗っている高齢ドライバーは、“愛車との別れ”という悩ましい問題に直面している。埼玉県の須永邦彦さん(77)の愛車は1966年式のロータス47GT。67年の「ル・マン24時間レース」に出場した超ビンテージカーだ。将来的な免許返納も視野に入れるなか、売るべきか、乗り続けるべきか、頭を巡らせている。
歴史に名を刻む幻の車 「手に入るとは思わなかった」
人生100年時代。日々、安全運転に気をつけながら車を大切に乗っている高齢ドライバーは、“愛車との別れ”という悩ましい問題に直面している。埼玉県の須永邦彦さん(77)の愛車は1966年式のロータス47GT。67年の「ル・マン24時間レース」に出場した超ビンテージカーだ。将来的な免許返納も視野に入れるなか、売るべきか、乗り続けるべきか、頭を巡らせている。
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須永さんによると、ホワイトカラーにグリーンのストライプが入った1台は67年6月の「ル・マン」に出走。途中でリタイアしたものの、知る人ぞ知る歴史的な車だ。同タイプの車は日本で「10台近くかもしれない」という。
購入したのは85年。中古価格は750万ほどだった。67年の新車価格は690万ほどで、すでに価格は上がっていた。
須永さんの仕事は大工だった。バブル前から汗水垂らして働き、憧れの車を買うために貯金した。
「車が欲しいために、一生懸命働いた。むだ遣いせずに、一生懸命ためて買いました。若いときからロータスが好き。池沢さとしの漫画『サーキットの狼』の影響でロータス・ヨーロッパは人気があったので、俺はへそ曲がりだからヨーロッパよりも先にスーパーセブンを買った。それから昭和60年にこの車を買ったんです。それからずっと持っている。だから日本に来てワンオーナー」。ただ古いだけでなく、37年にわたり、大切に乗り続けている愛車だ。
ロータス47GTはロータス・ヨーロッパのレーシングバージョン。ル・マン出場の形跡は屋根の前方にある。「ル・マンを走ったとき、ランプがついていた」。ランプは取り外されているものの、その傷痕がはっきり残っている。「ロータス47は純のレーシングカーだから、手に入るとは思わなかった。書類がなかったせいか、買ってから1年ぐらいかかって、61年に自分の元に来ました」。燃料タンクと給油口は左右にある。「サーキットは右回り、左回りあったじゃない。どっちでも入れられるように」。右ハンドルも特徴的で、「47は右ハンドルしかないと思う。46はフランスで作ってフランスで売ったから左ハンドルが多い」と説明した。
今では、同タイプの車に中古で8000万の値がつけられたこともあるという。車のコンディションにもよるものの、「数千万はすると思う」と見ている。4代目スカイラインGT-R(ケンメリ)と同程度かそれ以上と試算している。
車の終活を意識 「みんな売りに出ているらしいんだよね」
ただ、今のところ手放すつもりはない。
「まだ未練がある。売りたくないんだよね。売ったら買えなくなっちゃう」
80歳まであと3年。車の終活は意識している。
「日本の古い車あるじゃん。セドリックとかクラウンとかグロリアとか、ああいうのはみんな売りに出ているらしいんだよね。困るよね。ずっと乗れるんだったら持っていたいけど、年だからね」
きょうだいや周囲からは売却も勧められている。
「どうしようか考えちゃうんだよ。『目の黒いうちに売っちゃった方がいいよ』と言う人もいれば、妹なんか『ゴミだから売っちゃえ』って言う。『オメーにはゴミかもしれないけど、俺にとっては宝だ』って言うんだけど、まあ、珍しい車。あと何年持てるか、あと何年生きるか。80ぐらいまで乗れればなと思うけど、その前に死んじゃうかもしれない」
他に初期NSXを所有しているが、「ほとんど乗っていない」という。車の運転は「もうこれで終わり」と、ロータス47GTで最後にするつもりだ。
愛車の魅力は「ほかの車に乗ると分かるけど、ロータスはハンドリングがいいのよ。面白いんだよ。ハンドルが思った通りに曲がってくれる。全然違うよ」。GT-Rなどに比べると、ブランド力がないことは分かっている。だが、車への愛着は人一倍だ。
「好きな人じゃなくちゃ分かってくんねえから。日本ではケンメリとか2000GTは知名度あるけど、イギリスの車だから分かる人がいないじゃん。だからやっぱし自己満足だよな」
少なくない時間を一緒に歩んだ人生の相棒。最後のときをどう迎えるかは文字通り、一大決心になりそうだ。