本多力、故郷・京都が舞台の映画で声優挑戦 実家は寺、学芸会で膨らんだ役者への憧れ
ドラマや映画などで味のある演技を見せる俳優の本多力(43)が、9月30日公開のアニメ映画「四畳半タイムマシンブルース」で声優に挑戦している。作品はテレビアニメ「四畳半神話大系」と、実写映画化もされた戯曲「サマータイムマシン・ブルース」が融合して生まれたもの。戯曲、実写映画と同じ謎の青年・田村くんを演じた本多に、作品の見所や役者を志したきっかけなどを聞いた。
9月からムロツヨシの事務所に移籍 劇団で鍛えたアドリブ力が魅力
ドラマや映画などで味のある演技を見せる俳優の本多力(43)が、9月30日公開のアニメ映画「四畳半タイムマシンブルース」で声優に挑戦している。作品はテレビアニメ「四畳半神話大系」と、実写映画化もされた戯曲「サマータイムマシン・ブルース」が融合して生まれたもの。戯曲、実写映画と同じ謎の青年・田村くんを演じた本多に、作品の見所や役者を志したきっかけなどを聞いた。(取材・文=西村綾乃)
物語の舞台は京都・左京区にある下宿「下鴨幽水荘」。本多は25年後の未来からタイムマシンに乗って現代にやって来る青年・田村を演じる。
「最初に田村を演じたのは、僕が所属している劇団『ヨーロッパ企画』で『サマータイムマシン・ブルース』を初演した2001年でした。舞台で再演をしたときに、本広(克行)監督が『映画化したい』とおっしゃって、04年に撮影をして、05年に公開されました。9月から同じ事務所になったムロ(ツヨシ)さんと出会ったのもこの作品。つい先日、劇団20周年の時に再演と続編をやって。ずっと演じているわけでないですが、こんなに長く関わることになると思っていなかったので驚いています」
21年の付き合いになる「田村」。同劇団で脚本家を務める上田誠から「一番未来っぽくない」からと配役の理由を告げられたという。
「聞いたときは、『失礼やな』と思いました。舞台や映画では、自分が演じるならこんな表情をしようと考えていましたが、今回初めて(アニメーションの)田村を見たので、最初は『こんな顔してんねや』と感じました。脚本を読んで想像していた表情と(アニメが)違う部分もあって、面白かったですね。声については、22歳くらいからずっと田村を演じているので、普段自分が話しているような感じでアフレコに臨みました」
慣れない現場は「孤独との戦いだった」。
「第一声を出すまで、不安でした。僕がブースに入って話す様子を、外からたくさんの人が見ている……。緊張で、へとへとになりました。普段はドラマなどの撮影中、軽食を取ることはほとんどないのですが、この時は用意していただいたサンドウィッチを2個食べたことを覚えています。かかった時間は6時間ほどでしたが、過酷な現場でした。今回は上田くんも声優として出演をしています。むっちゃ練習したんやろなと思うと面白くて。ほかのメンバーは『固い』とダメ出しをしていましたが、上田くんの初めての演技を楽しんでほしいです」
物語の中で未来から現代にやって来た田村は、本多が生まれ育った京都の街を探索。その中で街の変貌に驚き、また変わらないものに安堵する。
「舞台は場所が特定されず、部室だけ。映画は本広さんの地元・香川県で撮影をしました。だから今回、僕が生まれた京都や、森見(登美彦)さんの作品に登場する左京区の中に田村がいて、『あれ、京都におるんや』と不思議な感じがしました。僕自身は、5年ぐらい前から東京で暮らすようになったので、帰る度に街が変化していることを感じます。(先斗町近くの)高瀬川の側には劇団が公演もしていた(京都初のコンクリート造りの小学校)立誠小学校があるのですが、(リノベーションされ)校舎はホテルになっています。『えっ』と驚く変化も多くて寂しいですね。変わらないものは『空の広さ』。ビルが並ぶ東京では、目にすることが難しい景色です」
京都の中で特に好きな場所は「鴨川」と即答した。「結婚する前に、奥さんと歩いて。夫婦になってからも一緒に歩いて。いまは子どもと3人で歩いている」。なじみがある風景の中に大切な人が増えて行くことが「幸せ」とかみしめる。
10月からはドラマ「ボーイフレンド降臨!」(テレビ朝日系)が始まるなど出演作が目白押しだ。役者に興味を持ったきっかけは。
「父も母も実家が寺をしている家で、男ばかり3人兄弟の末っ子として生まれました。一人っ子として育てられた母は学生時代に、役者に憧れた時期があったのですが、(唐十郎の)状況劇場や、寺山修司さんの天井桟敷などアングラ演劇が流行していた時代。祖父は『絶対にダメだ』と許さなかったそうです。舞台に立つことはかなわなかったけれど、僕の手がかからなくなってからは、『加藤健一事務所』、『東京乾電池』、『遊◎機械/全自動シアター(2003年に解散)』などの作品を観に連れて行ってくれました。8歳頃、学芸会で『じごくのそうべえ』をやったときには、主役のそうべえをやったことがありました。『良かったよ』ってむちゃくちゃ褒められて。演劇への思いがふくらんでいきました」
マッシュルームの髪型がトレードマークだが、高校時代はサッカー部に所属。センターフォワードを務めていた時期はツーブロックだったこともあったと明かす。
「『演劇をしたいけど、どうしたら良いか分からない』と思っていたとき、うちの寺であった法要に合わせて、新屋英子さん(2016年に死去)がライフワークとして続けられていた一人芝居『蓮如上人』をやってくださったんです。準備のため兄の大学の友達つてに、大学の演劇サークルの人が手伝いに来てくれたのですが、そこで『大学には演劇ができる場所がある』と知り立命館大学に進みました。入学後、同志社大学にあった演劇サークルに入ったら、そのサークルの隣に、上田くんの劇団があった。上田くんとは、同じ歳ということもあって、すぐに親しくなって。飲み会に顔を出していたとき、『出られなくなった人がいるんだけど、どう?』と言われたのが、ヨーロッパ企画の第2回公演(『翼よごらんあれが恋の灯だ』)でした」
以降、主要メンバーとして公演に出演してきたが、9月1日付けで、劇団ヨーロッパ企画の事務所「オポス」からムロの事務所「ash&A(アッシュアンドエー)」に移籍した。
「『闇金ウシジマくん(Season3)』(2016年放送)で演じたコセちん(小瀬章)をきっかけに、飲み屋さんとかで『出てるよね』と声を掛けられるようになりました。親が喜んでくれたのは『真田丸』。すぐ殺されてしまう役でしたが『大河か!』と驚いていました。僕は挑戦し続ける、というよりは現状維持の人間。京都から東京に出て来ることも、妻に背中を押されたことがきっかけでした。あんまり自分から何かしようとしていなかったのですが、映画『サマータイムマシン・ブルース』で出会ってからずっと親しくしているムロさんの姿を見ていて、もっといろいろな仕事をしてみたいと思うようになりました。環境を変えたのは大きな決断でした。沖田修一さん、岨手由貴子さん、石井裕也さんの作品が好きなので、監督方の作品に出たいというのがいまの目標です。どのような現場なのか、その世界にお邪魔してみたい」
新しい環境に進むことを選んだが、気負わずに。「最近歳なのか、失敗しても良いかなと思えるようになった」と笑う。
「撮影の前に考えていたことが、うまくやれたから『よし!』というのではなくて、やれたけど滑っても良いやって。『魔法のリノベ』でも第6話回の台本に、『ファイトソング』と書いてあったのを見た間宮(祥太朗)くんが、『上田さんは、(TBS系で放送された主演作のタイトル)ドラマのこと書いてくれているのかな』と話していたところから、監督と現場でアドリブを考え、波瑠さんと一緒に僕も乗っかったことがありました。『一発屋!』とか『ムササビ』など、ドラマに関連するアドリブを入れて行って。そこで起きたことに反応していくことが楽しいと思えるようになったので、力まずにやって行きたいです」
目まぐるしい日々の癒しは、2020年に生まれたばかりの長女との時間と目を細めた。
「ベビーカメラを寝室に置いているのですが、娘が寝てるところを見ながらお酒を飲む時間が幸せです。愛情をたっぷり注いでいる。ベストパパだと自負しています」
□本多力(ほんだ・ちから)1979年6月12日、京都府生まれ。1999年5月に、上田誠が代表を務める劇団「ヨーロッパ企画」に参加。代表作はドラマ「ガリレオ」、同「闇金ウシジマくん Part3」、映画「交渉人真下正義」、NHK大河ドラマ「真田丸」など多数。10月15日から放送されるドラマ「ボーイフレンド降臨!」(テレビ朝日系、午後11時~)への出演も決まっている。168センチ。