絶滅寸前レコード盤の復権 デジタル配信全盛なのにアナログ“一発録音”を再開した背景とは

デジタルの制作・配信が全盛の音楽界で、アナログを極めたレコーディング手法が再び動き出した。録音スタジオで演奏される生音を、ありのままにアナログレコードの溝に刻む「ダイレクトカッティング」だ。レコード会社「キングレコード」の倉庫で眠っていた専門の録音機械が28年ぶりに復活。絶滅危機にあったレコードの人気が再燃する中で、“一発勝負”で録音されたこだわりのドーナツ盤が音楽業界を救うことになるか。

1年半をかけて修復に至ったアナログカッティングマシン「VMS70」
1年半をかけて修復に至ったアナログカッティングマシン「VMS70」

世界では「アビー・ロード」だけの“温故知新”のスタジオ設備…28年ぶりに録音機械を蘇らせた業界結集のプロジェクト

 デジタルの制作・配信が全盛の音楽界で、アナログを極めたレコーディング手法が再び動き出した。録音スタジオで演奏される生音を、ありのままにアナログレコードの溝に刻む「ダイレクトカッティング」だ。レコード会社「キングレコード」の倉庫で眠っていた専門の録音機械が28年ぶりに復活。絶滅危機にあったレコードの人気が再燃する中で、“一発勝負”で録音されたこだわりのドーナツ盤が音楽業界を救うことになるか。

 「一周回ってここに帰ってきた。レコード会社は厳しいと言われているが、いや待てよと。これだけの機材があって、優秀なエンジニアもいる。まだ音がある」。「キング関口台スタジオ」の岩渕慎治社長はこう語気を強めた。

 アナログレコード制作において最高音質技術とされるダイレクトカッティング。通常は演奏を収録したアナログテープやデジタルファイルの音源を、原盤となる「ラッカー盤」に刻んでレコード化するが、この手法は、録音スタジオと作業施設「カッティングルーム」を直結させ、途中変換を一切せず、生音をそのままラッカー盤の溝に刻む。いわば、“究極のアナログ録音”だ。

ダイレクトカッティング実演会に参加した(左から)チェロ奏者の辻本玲氏、オンド・マルトノ奏者の大矢素子氏、バイオリン奏者の米元響子氏、ピアノ奏者の上原彩子氏
ダイレクトカッティング実演会に参加した(左から)チェロ奏者の辻本玲氏、オンド・マルトノ奏者の大矢素子氏、バイオリン奏者の米元響子氏、ピアノ奏者の上原彩子氏

 同スタジオでは、一時は稼働を停止させていた専門の録音機械「アナログカッティングマシン」を復旧。今秋から本格的なダイレクトカッティング業務のスタートを予定している。スタジオ併設のダイレクトカッティングは、国内唯一。録音スタジオは40~50人のオーケストラ編成が演奏できるスペースを持つ。大規模セッションが可能なスタジオとしてはほかに、広く世界を見ても、ビートルズで有名な「アビー・ロード・スタジオ」でしかできない設備だという。

 ダイレクトカッティングの最大のポイントは、やり直しがきかないこと。現在はデジタルデータの音源をいくらでも編集できるが、曲間を含めて演奏の編集が一切できない。演奏者、エンジニア、スタッフ全員に集中力が求められ、レコーディングは緊張感あふれる作業となる。それだけに、その瞬間の緊張感だけでなく、醍醐味もぎゅっと詰め込まれる。7月30日にキング関口台スタジオで行われた実演会でレコーディングに取り組んだチェロ奏者の辻本玲氏は、録音したてのラッカー盤を聴いて「雑味というものがある。(通常は)そぎ落とす録音が多いが、いい意味での雑味がたくさん入っていて、いいなと思った」と感想を口にした。

 音楽のデジタル制作とリスナーへのデジタル配信が全盛を誇るいま、あえて時代を逆行するような取り組み。背景には、近年の世界的なレコードの復権がある。米国を筆頭に欧州でもレコードの人気が再興。日本でも音質や魅力の再評価によって盛り上がりをみせている。日本レコード協会によると、2018年のアナログディスクの生産実績は数量ベースで、111万6000(枚・巻)で、2年連続で100万を突破。2013年の26万8000から5年連続で増加している。金額ベースでは2018年は20億円超をマーク。一方で、CDは数量・金額いずれも2012年から減少を続け、2018年は1億3726万8000(枚・巻)、1542億円となっている。

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