「今はとんでもない値段がつく」 GT-Rなど高騰する中古車市場、廃車・解体業者が明かす実情

新型コロナウイルス禍や世界情勢などにより、自動車の新車納期遅れ、中古車市場の高騰が表面化している。長く乗った車の最終地点である「廃車・解体」の現場はどう影響を受けているのか。ネット取り引きの拡大もあり、大きな変化が訪れているという。東京都北区にある老舗「赤羽カースチール株式会社」の坂本知之社長(53)に実情を聞いた。

「赤羽カースチール株式会社」は家族経営の老舗だ【写真:ENCOUNT編集部】
「赤羽カースチール株式会社」は家族経営の老舗だ【写真:ENCOUNT編集部】

SNS「口コミ」営業にも重点 中古車市場は「レトロ車が幅を利かせている」

 新型コロナウイルス禍や世界情勢などにより、自動車の新車納期遅れ、中古車市場の高騰が表面化している。長く乗った車の最終地点である「廃車・解体」の現場はどう影響を受けているのか。ネット取り引きの拡大もあり、大きな変化が訪れているという。東京都北区にある老舗「赤羽カースチール株式会社」の坂本知之社長(53)に実情を聞いた。(取材・文=吉原知也)

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 1966年に設立されて以来家族経営を貫き、現在は2人の息子と一緒に一致団結して屋号を守っている。廃車に加え、中古車のパーツ・部品販売、中古車リサイクル業、自動車輸出をマルチに運営。エンタメ作品の撮影協力にも積極的で、映画「グラスホッパー」やスーパー戦隊シリーズ「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」にロケ場所を提供するなどしている。

 廃車になるのは、年数の古い中古車や、事故・故障などで損傷を受けたり動かなくなった事故車・不動車、タクシーやバスなどの事業用車両、長年置かれたまま処分に困っている長期放置車などさまざまだ。3代目の坂本社長は「解体車の数は、昔と比べたら大きく減っているのが現状です」と明かす。約20年前は「1日100台入ったこともあります。全社のディーラーさんから毎日、廃車や不動車の引き取りの連絡が入って、1日中運搬をしていました。ディーラーさん自身が持ってくるような状態でした」。

 減少の要因は複数あるという。まず、大きな流れとして「技術の進歩でエンジンなどが長持ちするようになり、車の使用期間が長くなっています」。坂本社長が若い頃は「3年落ちで解体」はよくあり、他の人に乗られたくないからと持ってくる人も多かったという。「昔は10万キロ近く乗ったら解体に回すみたいな流れがありましたが、今は10万キロでも乗りますよね。解体業者に車が出なくなるという変化がゆっくりと進行していきました」。また、古い車の廃車などの条件を伴ったエコカー補助金制度が実施された際は「ものすごく解体が出たのですが、制度が終了した後は揺り戻しがありました」とのとこだ。

 大きいのは、ネットのカーオークションの台頭だ。「誰でも参加できるネットオークションが主流になっていく中で、昔は解体業者と“お得意さん”としてつながっていたディーラーであっても、オークション中心に車を出すところが増えていきました。解体業者にではなく、オークションの場に車が集まるようになったんです。(2005年に施行された)自動車リサイクル法によって、ちゃんとした適正な業者の選別も行われていきました。それでも、オークションで廃車が『中古』として売りに出されているので、中には怪しい業者が買ってしまうケースもあると思っています」と打ち明ける。

 コロナ禍の影響は「すごく大きい」。自動車の全体の循環として、新車が納車されると下取りに出る車があり、中古車が増えると、より古い車が解体に出される――。こういった構図があるという。「新車がなかなか納まらず、中古車の需要が高まって売れているので、その循環が回らなくなっています。そういった理由もあって廃車に出にくくなっているのだと考えています」

スカイラインGT-RのR32型は「昔は走行距離15万キロのものは40万円ぐらいで仕入れていました」

 また、自動車の人気・はやりが色濃く出るといい、「解体に出る車が小型化しています。今までは4ドアのスポーツタイプもありましたが、今は軽自動車、1000~1500CCの車が多いですよ。セダンはあまり見なくなりました」と語る。

 中古車の買い取り・販売も手掛ける坂本社長は、近年の国産旧車ブームを「レトロ車が幅を利かせている」と表現し、驚いている。「日産スカイラインGT-RのR32型で言えば、昔は走行距離15万キロのものは40万円ぐらいで仕入れていましたが、今はとんでもない値段が付きます。スカイラインのジャパン、『鉄仮面』じゃないR30型などはよく解体していました。あの頃に相当数を潰したから、今少なくなっているのかもしれません」。

 こんなエピソードも教えてくれた。「GT-R R34型の2ドアで、マニュアルでターボ。ちょっと前に、一般のお客さんが持ってきたことがあるんです。その時に『この車は今はそこまで人気はないけど、次の車を買うまでは距離をあまり伸ばさずに乗っておくといいですよ。今廃車にするのはもったいない』と“説得”したんです。3年後ぐらいのある日電話がかかってきて、『あの時、教えていただいてありがとうございます。先日いい金額で売れました』って」。業者であっても一般客であっても、対等に良心的なサービスをモットーにしているという。

 あまりに高い外国車の相談が来た時は、「もっといい値段で買い取ってくれる専門業者がありますよ。そこ教えますよ」と“辞退”することも。ただ、査定の希望者から送ってもらう写真だけでは車の状態が把握しきれないケースもあり、「そこまで悪くなさそうだなと思っていざ持って来たら、タンク全部が腐っていて買い取り値段と割に合わない、なんてこともあります。希望者は少しでも高く買い取ってもらいたいので、他の業者の金額と比べて選ぶ方が多いです。こっちは他の業者に行ってしまわないよう、最初のやりとりで早めに決めてもらいたいので、その辺は難しい部分はあるんですよ」とのことだ。

「薄利多売でやっていきたいのですが、多売ができない。台数が伸びないんです」。それでも、親切丁寧な説明、顧客対応を心がけ、地道に取り組むつもりだ。長男で常務の和也(かずなり)さん(29)を中心にSNSを活用し、個人ユーザーと直接やりとりをして「口コミを大事に」、中古車パーツ販売などを強化している。

 さらに、ただ壊すだけでなく、心を込めたサービスを貫くことを意識しているとのことだ。同社は昔から、従業員が配線や内装を外すところからエンジンを取るところまで手作業の「手ばらし」を続けている。「手でばらす作業を『全部見せてほしい』とリクエストを受けることがあります。過去には、『父の形見のカローラを見送りたい』と、ばらす作業から最後の機械を使ったプレスまで、すべての工程を写真に撮ってずっと見守った方がいました。クラウンに花束を乗せてビールをかけて見送った方もいますし、ばらし作業を見る途中で号泣された方もいます」。

 逆風が吹く中でも、人情を大事にする仕事のスタイルは絶対に変えない。坂本社長は「廃車・解体の場は、人間模様が見れます。自分も大事にしてきた愛車を解体する時は同じことを感じると思うので、お客さんの要望があればしっかり応えていきたいです」と話している。

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