彩羽匠インタビュー 師匠・長与千種に教え込まれた「プロレスラーとは何か?」【前編】
長与千種に叩き込まれた「プロとは何か?」
――プロレスラーとしてデビューして、その後、長与さんの団体に移籍する事になるわけですが。「GAEA GIRLS」で見たような壮絶な光景を覚悟していたのでしょうか。
「もちろんです。自分が以前所属していた団体(スターダム)は練習が厳しかったんですけど、体力だったり筋力は頑張れる時間が限られているので、やれるうちに経験したいと思い鍛えてました」
――Marvelousはまだ旗揚げ前の団体でした。旗揚げ前の団体に飛び込む勇気が凄いと思います。
「あまりそこまで考えてなかったですね。長与さんの指導やプロレス観とか、とにかくそういうものを吸収して長与さんの下でやりたい。Marvelousがどういう団体になるのか全然わからないですけど、学びたい一心で飛び込みました」
――実際に旗揚げ前の団体に入ってみてどうでしたか。
「まず選手がいなかったので、長与さんと寮(兼道場)でふたり暮らしが始まりました。自分はひたすら練習というイメージで入ったんですけど、意外とそうではなく、まず描いているプロレス観を2、3週間くらいかけて徹底的に変えられました」
――どういうところが変わりましたか。
「例えば『リングに立ったらどんな事を思ってる?』と長与さんに聞かれたんです。私は『目の前に相手がいると思って立ってます』と言ったんですけど、長与さんには『それはお前だけに限った話だ』と言われました。要するに会場には四方八方にお客さんがいるので、目の前の対戦相手だけではなく、自分の背後のお客さんにも何をしているのか分かるように『背中で語れ』と言われました。さらに『指、足、頭の至るところ全てに神経を行き届かせなさい』、と。相手は目の前にいるけど意識するのはお客さん。そのお客さんにどう伝える事ができるのか。プロレスはどこからでも見られている事を常に意識しろと凄く言われました」
スタミナ増とパワー増を命じられ、毎日ドカ食いの日々
――実際、理解するのは大変だったのでは?
「そうですね。意味は分かってたんですけど、いざ試合となれば相手との戦いなので、意識する暇も無いんです。技を一生懸命出そうとする、受ける、勝ちたい、そういう気持ちでいっぱいなので、そこまで気が回らず、実践できないという壁にぶつかりました」
――そこはやはり経験を積むしかないですか。
「そうですね。実際まだ突き詰められてもいないし、多分一生の課題だと思います」
――それでも意識はかなり変わったということですよね。
「ハイ、ごっそり変わりましたね」
――長与さんから教えを受ける中で、GAEA JAPANの話を聞いたことはありますか。
「ガッツリ聞いてはないんですけど、自分がスターダムからMarvelousに移籍した当時、まだ身体の線が細かったんです。スターダムでは他の選手よりも身長はあって、筋力もそこそこあったんですけど、逆にMarvelousでは『プロレスラーは大きくないとダメ』と言われて、まずトレーニングは食事から始まりました」
――食事もトレーニングのうちと。
「パスタは1回の食事で6人前。本当にとんでもない量で、食べられないんです。でも食べないといけないし。朝ご飯を何時間もかけて食べ終わると、もう昼食の時間。常にお腹一杯な状態でした。GAEAではひたすら食べても太れなかった選手がいたそうで、それでもご飯大盛りで何杯も食べてたようです。だから『オマエもとりあえず食え。食って食って食いまくらないとスタミナもパワーもつかないよ』と言われてました」
――結果、スタミナもパワーもつき、線が細いイメージは全く無くなりました。
「10キロくらい大きくなりましたね(笑)」
(後編へ続く)
□彩羽匠(いろは・たくみ)1993年1月4日生まれ。福岡県福岡市出身。12年11月16日プロテスト合格。13年4月、リングネーム「彩羽匠」としてスターダム両国国技館大会でデビュー。15年2月22日、長与千種が設立した女子プロレス団体「Marvelous」に移籍し、現在活躍中。