「これ凄くね?」ネット騒然の1人乗りホバークラフト、発明家を直撃「必要なのは根気と体力」

ツイッター上に突如現れた“1人乗りホバークラフト”が大反響を呼んでいる。前後2ずつ計4個のエアクッション(スカート)が膨らみ、エンジンのごう音を響かせ、宙に浮きながら滑らかに前進。その正体は、ものづくりが大好きな発明家による趣味のオリジナル作品で、2011年から開発を続けてきた最新「八号機」というのだ。夢が詰まった“大人の工作”。「超小型ホバークラフト研究室」の伊東嗣泰(ひでやす)さんに取材を試みた。

超小型ホバークラフト「八号機」の実際の浮上シーン【提供写真:伊東嗣泰さん】
超小型ホバークラフト「八号機」の実際の浮上シーン【提供写真:伊東嗣泰さん】

まるで「エヴァ」の名称 四号機はスケートボードと合体、五号機は「人間カーリング」

 ツイッター上に突如現れた“1人乗りホバークラフト”が大反響を呼んでいる。前後2ずつ計4個のエアクッション(スカート)が膨らみ、エンジンのごう音を響かせ、宙に浮きながら滑らかに前進。その正体は、ものづくりが大好きな発明家による趣味のオリジナル作品で、2011年から開発を続けてきた最新「八号機」というのだ。夢が詰まった“大人の工作”。「超小型ホバークラフト研究室」の伊東嗣泰(ひでやす)さんに取材を試みた。

 9月初旬に東京ビッグサイトで開催された「Maker Faire Tokyo 2022」。屋外で伊東さんが実際にまたがって乗車し浮遊する動画のツイッター投稿がバズリにバズった。ネット上には、「これ凄くね?」「未来感じる」「ドローンに乗って飛んでるみたい!」「コレ、ほしい」などの驚きの声が寄せられている。

「ツイッターの反響は今までせいぜい数十人から100人程度でしたので、びっくりしました。実演デモを3回しましたが、実際にご覧いただいた見学者の人数も、合わせて20人程度だったと思います。報告がてらツイートしたものなので、こんなに反響が大きくなるとは想像すらしませんでした」と伊東さん。反響の大きさについて、「透明なスカート(八号機は塩化ビニールシート製)はこのホバークラフトシリーズの当初から採用していて、浮遊感があるのではないかと考えました。それが東京ビッグサイトの屋外の高層ビル群の背景にあいまって、近未来感が動画に出たのではないかと思います」と分析してみせた。

 八号機はスカート部分を除いて、全長2.6メートル、全幅2メートル、全高65センチ。重さは31キロ。計6基の電動ダクッテドファンが浮上・推進の原動力で、エアクッションの円形プレートは1個直径90センチ、スカート部分は約40センチ膨らむという。八号機のスカート構造は特許出願済みとのことだ。

 インパクト抜群で技術力が詰まった発明だが、大音量が“玉にキズ”。「確かにモーターやファンの作動音が大きく、周囲約1メートルは100デシベルを超えます。乗機する時は防音のイヤーマフをつけています。走行する場所も限られます。ホバークラフトと言うと不整地や水上をもろともせず走り回る、といったイメージがあります。しかし、実際はせいぜいアスファルトやコンクリートの平らな場所だけですし、ほんの少しの傾斜でもずり落ちてしまいます。あと電動の場合、バッテリーの持ちは5~10分程度となります。皆さんが気にしているスカートの耐久性ですが、ほとんど消耗しません。アクシデントで引っ掛けてしまったり、踏んだまま膨らませて破ったり、といった損傷がほとんどです」と教えてくれた。

 そもそも伊東さんは、公立大学法人長岡造形大の嘱託職員。プロトタイピングルームの教務補助として勤めており、試作品を作るためのデジタル工房で3Dプリンターやスキャナー、レーザーカッターなどの設備について、学生に操作指導したり依頼品を製作したりするのが仕事だ。幼少期から機械いじり・ものづくりが大好き。学生時代の1982年に日本初の電動同軸反転ラジコンヘリコプターが雑誌に掲載された。仲間とエコランカーを製作して省燃費レースに参加し、鈴鹿サーキットで走らせたのがいい思い出という。前職では、工作機械メーカーと作業工具メーカーで設計や生産技術に従事。生粋の“技術屋”だ。

歴代の超小型ホバークラフト試作品詰の数々。情熱と夢がめ込まれている【提供写真:伊東嗣泰さん】
歴代の超小型ホバークラフト試作品詰の数々。情熱と夢がめ込まれている【提供写真:伊東嗣泰さん】

「かれこれ50年以上、ものづくりの情熱は消えないですね」

 たまたまホームセンターの処分品のエンジンブロアーを9800円で手に入れたことがきっかけ。「最初は、『この部品で小さいホバークラフトが作れるんじゃね?』程度の軽い気持ちでしたが、作って動かしてみると、普通の乗り物にはない動きに興味が湧いたことと、ほんの少し宙に浮いている(地面から1ミリ程度)ことから、飛行機を作ることに憧れていた少年時代からのロマンでしょうか。またホバークラフトを製作するノウハウがだんだん蓄積されると、今度はこのコンセプトの機体を作りたいという気持ちが湧いて、結局八号機まで作ってしまったのです」。

 まるで「新世紀エヴァンゲリオン」の名称のようだが、テストで板状の零号機から始まり、初号機で自走用エンジンを備えた最初の超小型ホバークラフトが誕生。四号機はスケートボードと合体。五号機は「人間カーリング」の別名が付くなど、資金を投じて試作を重ねてきた。「安い機体では1~2万円ですが、この八号機はバッテリーだけでも5万円かかりました。総額20万円くらいではないかと思います。作ることに特に困難は感じていません。完全に個人の趣味ですし、自分が製作できる範囲で設計しています。最初の思い付きを具体的に形にする時に悩みますが、それさえも楽しいのが趣味のいいところです。ただ、製作する設備や道具は大したものがなくて、アルミ板やパイプは金ノコで切断したりしますので、根気と体力が必要です」という。

 今現在、日本ではものづくりの危機が叫ばれている。幼少期から地道に追求してきた伊東さんからのメッセージは。

「子どものころからものづくりが好きで、かれこれ50年以上が過ぎました。それでも飽きずにワクワクします。頭の中にあるコンセプトを具現化するのです。『ホンモノ』が目の前にあって、触れたり動かせたりするのですから、面白くないわけがありません。

 その中で従来型のものづくりは難しい局面にあると思います。まずクリエーティブな流れが『モノ』から『バーチャル』に移っていっていること。すべてを否定するものではありませんし、それによる便利さは社会全体も享受しています。しかし便利=楽しいとは限りません。もう1つは、ものづくりは資源を消費し環境に影響を与えることです。それはたとえ個人の製作者でも考えていかなければならないことだと思います」

 熱い思いはさらに続き、「それでも、ものづくりの情熱は消えないですね。というのも私が子どものころは『模型とラジオ』といった工作雑誌が発行されていたり、ラジオや鉄道模型の部品が売っているお店があちこちにありました。そういった環境の中でいつか自分も雑誌に取り上げてもらえるようなものが作れればいいなと思っていました。確かに世の中は変わりましたが、今もきっとどこかで、『自分も将来こんなものを作ってみたい』と思っている人がいると思います。そんな人へのメッセージとしてものづくりを続けていくことが使命と考えています。大人になった自分が子どもの頃の自分に贈るギフトのように、つながっていければいいなと思っています」

“孤高の小型ホバークラフト職人”として歩みを進めてきた。研究仲間についてどう思うのか。今後について、「気楽に1人で進めてきた趣味なので、今のところ他の人と一緒に作ることは考えていません。ただ自分で作ってみたいという人に、教えたりアドバイスすることはウエルカムです。ゆくゆくはそんな人たちとミニレースでもできると面白いかもしれません」と前を見据えている。

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