火に油注いだ園児バス置き去り死事件の会見 「なぜ?」の疑問に識者が指摘した問題点
静岡・牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で、3歳の女児が通園バスに取り残され、熱中症で亡くなった事件で、園による記者会見も対応のまずさが目立った。危機管理の専門家は、「典型的な危機対応の悪例」と話す。
「すごく上から目線に思えてイライラ」と視聴者怒り
静岡・牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で、3歳の女児が通園バスに取り残され、熱中症で亡くなった事件で、園による記者会見も対応のまずさが目立った。危機管理の専門家は、「典型的な危機対応の悪例」と話す。
会見は7日に行われ、増田立義園長と副園長らが出席した。園側は謝罪した一方で、園長が亡くなった女児の名前を何度も間違えるなどずさんな対応を露呈した。誠実さが伝わるとは言えず、会見の最後には薄ら笑いも。質問した記者を「お宅が」と呼ぶ場面もあった。SNS上では、「園長の言葉なのかと耳を疑う」「会見を見てこんなに気分が悪くなったのは初めて」「質問した相手に『お宅』って。 おかしいよ」「すごく上から目線に思えてイライラ」と怒りの声が上がった。
なぜ、重大な不祥事の直後の謝罪の場で、あのような態度になったのか。
数々の企業・団体の不祥事の解決に携わった経験を持つ広報・危機管理コンサルタントの山見博康氏は「一番大事なのは自分がなぜ記者会見をやるのか考えるということ。その覚悟がないからああいう会見になる。まず自分の社会的責任、使命を自覚すること。名前を間違えるのは論外ですけど、自覚があったら笑えないですよ。毅然とした態度にならざるを得ないんですよ」と園長の自覚の欠如が原因と指摘した。
こうした不祥事が起きたとき、運営側が直ちにやるべきことは3つあるという。
1)早く顧客や関係者に知らせる
2)社会的責任を自発的に表明する
3)会社組織の姿勢を積極的に示す
今回のケースでは会見や保護者説明会が行われたのは2日後で、遅すぎると批判された。山見氏は「一番心配しているのは園児のお母さん、お父さん。まず起きたらすぐ連絡して、言ってあげないと不安でしょう。同じような年ごろの子を持つ全国の親もみんな心配している。いち早く知らせる義務がある。これを果たしていない。直ちに説明会や会見を開くべきであった」と話した。
さらに会見では、気になった園長の言葉遣いがあった。
「『原因の究明に努める』と言っていましたけど、原因の究明なんて分かっている。ありきたりの言葉を使っただけ。大企業でもこれが決まり文句になっている。1か月も2か月も先なのかということになる。例えば、『マニュアルを直ちに見直して職員を集めて徹底します』でもいいんですよ。いくらでもすぐにやれることがある。それを言わないで……。今回は典型的な危機対応の悪例ですよ」と語気を強めた。
当日バスを運転していた増田園長は置き去りの原因について「運転をするのは不慣れだった」などと説明。一方で、女児がシステム上の登園扱いになり、目視による確認や保護者への連絡を怠ったクラスの担任や副担任の責任も問われている。
山見氏は、これらの園全体の過失について、「経営者の姿勢が全体にまん延する。園長がそういう自覚であるのであれば、下で働いている職員も危機感がないんですよ。これまでもなんらかの形で問題が起きているはずなんですよね。問題が起きているのに反省していない。誰かが『ちょっとおかしいね。6人いないね、5人だね』と言えば解決した問題。これは組織的には同罪」と断じた。
同様の例として挙げたのが知床の遊覧船沈没事故だ。無線用アンテナが壊れていたのに修理せず、故障個所を放置した結果、事故の対応が遅れた。山見氏は、特に人を預かるところの経営については、「防災訓練のように問題が起こることを想定しておかないといけない。予測と対策というのが一番大事なわけですよ。それをマニュアルに落として徹底すること。もう一つは、マニュアルを書いただけで見ていないということが多い。更新していくことが必要」とポイントを挙げ、「危機は人災であるということ」と続けた。
尊い幼い命が大人の不注意によって奪われたあまりにも痛ましい事件。誠意ある園の対応が求められている。