スカイラインGT-R、消火器を噴射されながらも盗難を阻止 愛車守った女性オーナーの“奥の手”

愛車を盗難される事件が連日SNS上に投稿されている。犯罪者が目をつけているのはレクサスなどの高級車やスカイラインGT-R、80スープラなど価値の高い旧車たち。盗難の方法は巧妙で、一度盗まれると戻ってくる確率はかなり低い。そんな中、8月下旬に、GT-Rを狙われ、車内に消火器をまかれながらも車を持っていかれなかった女性が横浜市にいる。若いときはドリフトに熱中していたという彼女はなぜ、窃盗を免れたのか。そこには目からウロコの盗難対策があった。

ハンドルロックを外そうとした犯人に無惨に破壊されたハンドル【写真:晴さん提供】
ハンドルロックを外そうとした犯人に無惨に破壊されたハンドル【写真:晴さん提供】

見た瞬間「あ、やられた」 無惨に破壊されたハンドル

 愛車を盗難される事件が連日SNS上に投稿されている。犯罪者が目をつけているのはレクサスなどの高級車やスカイラインGT-R、80スープラなど価値の高い旧車たち。盗難の方法は巧妙で、一度盗まれると戻ってくる確率はかなり低い。そんな中、8月下旬に、GT-Rを狙われ、車内に消火器をまかれながらも車を持っていかれなかった女性が横浜市にいる。若いときはドリフトに熱中していたという彼女はなぜ、窃盗を免れたのか。そこには目からウロコの盗難対策があった。

 盗難未遂被害を語ってくれたのは横浜市に住む晴さん(@hcr32_hal)だ。愛車の1991年式のスカイラインGT-RBNR32が変わりはてた姿になったのは8月23日だった。

「発見したときにドアが半ドアになっていて、『あれ、私閉め忘れたかな』と不思議に思ってドアを開けたら、もう車内が粉まみれ。一瞬でやられたっていう気持ちになりました」

 ハンドル部分がスポークごと無惨にもぎ取られ、刃物で刻んだ傷があった。キーシリンダーの周辺も破壊されていた。そして、車内にまき散らされた大量の白い粉。盗難することができなかった犯人が、証拠隠滅のため、車内で消火器を噴射していた。

「盗難未遂とか、車上荒らしに遭ったときに、指紋を消すとか、証拠隠滅みたいな理由で、消火器をまかれるという話はネットとかで見ていたので、見た瞬間、あ、やられたとすぐ察しました。運転席のドアから助手席に向かってまかれたような感じですね。助手席側がいっぱい粉だらけだったので」

 晴さんがガンメタリックの愛車を購入したのは、13年前になる。もともとドリフトが趣味でサーキット走行に熱中していた。

「妊娠したときに一度そういうサーキット系に行くのは止めたんですけども、また走りたくなって、それまではGT-Rの一つ下のグレードのR32のタイプMという車に乗っていました。それでずっとサーキットを走っていたんですけど、2000CCなんですね。パワーのある2600CCのGT-Rのほうが走りやすそうだなと思い、それで購入したという感じですね」。やがて2人の子どもに恵まれても、ファミリーカーという選択肢はなかった。2ドアの狭い後部座席にチャイルドシートを2つ設置すると、さらにぎゅうぎゅうになった。GT-Rの走りにほれ込み、一途に乗り続けてきた愛車だった。夏休み、子どもを乗せて九州まで走り、帰って来たタイミングで狙われた。

 神奈川では車の盗難被害が多発している。「8月で3件同じ32型が盗まれている。藤沢と海老名、あと瀬谷も同じ型。たぶん同じ犯人のグループかな。とても偶然とは思えない」。他に横浜と川崎で80スープラが3台盗まれた。いずれも戻ってきていない。

 そんな中で、晴さんのGT-Rは、なんとか難を免れた。警察に被害届を提出すると、別の意味で驚かれたという。「逆に刑事さんからも『どういうことをしたのか教えてほしい』と言われて。やっぱり、ほとんどが持っていかれちゃうらしいんですよね」

「そもそも残っていることが珍しい」と言われるほど、盗難成功率の高い犯罪。なぜ、犯人は諦めたのか。

ガンメタリックカラーのスカイラインGT-RBNR32【写真:晴さん提供】
ガンメタリックカラーのスカイラインGT-RBNR32【写真:晴さん提供】

盗難を防いだ“奥の手”動かないGT-Rに諦めた犯人

 ドライブレコーダーの情報によると、犯人がGT-Rのもとに現れたのは、午前5時ごろだった。「ドライブレコーダーに振動が伝わると電源が入る仕組みになっていまして、それをたどると、朝5時ごろに鍵を開けて侵入した。鍵穴も壊されていないし、窓ガラスも割れていなかったんですね。昔の2ドアの車なので窓の隙間から、いわゆるピッキングじゃないですけど、細い金属を入れてロックを外す。そういうアナログなやり方でやられたぽいですね」。

 状況証拠から、ドアを開けた犯人は、まずハンドルロックを外そうとしたという。

「刑事さんに『こんな状態を見るの初めてだ』と言われたんですけど、ハンドルが根こそぎ取られている状態。ハンドルがなくなったら動かせなくなるから普通そういうやり方はしないんだけど、ハンドルロックを外そうとしたときにアルミの部分が折れちゃった」

 これが失敗すると、次に向かったのは、ハンドルの下にあるキーを差す部分だった。「昔の車なので直結を試みた形跡があった。キーを介さなくてもエンジンがかかるように配線をつないじゃう。昔はよく原付がそうやって盗まれていました」。プラスチック部品が割れ、配線がぶらんと垂れ下がっていた。

 しかし、ここでも犯人は失敗する。その理由は、晴さんのもう一つの“奥の手”の盗難対策にあった。

「ハンドルロック以外に、いつも車を降りるときに、エンジンに燃料がいかないような細工をしていたので、それでエンジンがかからなくて諦めたという感じです」

 仮に直結ができていたとしても、GT-Rは動かなかった。いわゆる燃料カット(フューエルカット)という方法で、詳しい解除方法は本人しか知らない。「隠しスイッチというか、言わないとどうやってやるか分からないような仕組みになっていました。たぶん何をやってもエンジンがかからないってなったと思うんですよね」。

 晴さんは日頃から車を乗り降りするたびに、ハンドルロックと燃料カットの2つの盗難対策を行っていた。「私は日常で買い物するときもそうだったので、『面倒くさい車だな』とよく周りに言われていたんですけど、毎日のように乗って毎日のようにそんなことをやっていたので、なんとも思っていなくて」。少しの手間を習慣に変えてしまったことが、愛車の危機を救ったというわけだ。

 中古市場でGT-Rの価格が高騰し、米国でも人気が高いR32型は「程度がよくない車でも最低で700万くらいと言われてます。極上車はもう1000万以上」という高値がつけられている。

「空き巣とかもそうですけど、時間がかかることを泥棒は嫌がるって言いますよね。なので、まず見た目の抑止力でハンドルロックをかけて、それはたぶん突破されるのはもう想定内だったので、次はエンジンがかからないようにして時間稼ぎをして諦めさせようっていう作戦であったんですよね」

大変な消火器噴射の後始末 全損扱い、修復不可能な車に…

 犯人は30分ほど粘った末に去っていた。しかし、消火器の粉は広範囲に飛び散り、修理のめどは立っていない。

「消火器の粉がかなり細かい粒子らしくて、エンジンが吸い込んじゃうとエンジン自体がもうダメになっちゃう可能性があるから絶対エンジンかけちゃダメだよって周りから言われまして。そうなると出張サービスで来てくれるクリーニング業者を探さなくちゃいけないんですけど、消火器の粉に対応した出張業者さんがなかなか見つからない。今、各方面で聞いてもらっています」。任意保険を調べると全損扱い。修復不可能と判定されているだけに、ここから再生しようとするだけでも、かなりのレアケースとなる。

 通勤の足がなくなり、現在はバイクで生活している。「買い物のまとめ買いができず、不便」と、愛車の復活が待ち遠しい。

 憎いのは犯人だ。晴さんだけでなく、2人の子どもも強いショックを受けている。「まだ子どもなのでこういう状態はなかなか目にしないですかね。普通はYouTubeとかああいう世界でしか見ないような光景を目の当たりにしてちょっとショックだったみたいです」。

 被害届を提出し、警察の捜査を待っている。盗難品とされる消火器には自治体の名前が記されており、場所は特定されている。「刑事さんが言うには、窃盗はよそでもあちこちでやるからそのうち証拠品や指紋、遺留品とかで芋づる式に捕まることが多い。忘れたころにいきなり連絡が来たりとかそういうパターンもあるそうです。そういう意味では早く捕まえてほしい」。

 愛車は「本当に乗れなくなるまで乗るかな」という人生の相棒。晴さんに心からの笑顔が戻るのはいつなのか。

次のページへ (2/2) 【写真】消火器を噴射されたGT-Rの悲惨な車内
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