小柳ゆき、不惑の40歳は人生で1番楽しい瞬間「若い頃のジレンマがなくなった」

歌手の小柳ゆきが、19年ぶりとなるカバーアルバム「RARE TASTY」を完成させた。ディーヴァとして完成された小柳の表現力や“すご歌テクニック”がぜいたくなくらい堪能できる全7曲。YouTubeで注目を浴びた「廻廻奇譚」のカバー演奏をはじめ、アニメ好きの彼女ならではのユニークな一面も楽しめる。不惑の40歳を迎えて「今が一番楽しいと思える瞬間」と語った小柳の現在にフォーカスを当てた。

不惑の歳を迎え、ますます歌に磨きがかかった小柳ゆき【写真:舛元清香】
不惑の歳を迎え、ますます歌に磨きがかかった小柳ゆき【写真:舛元清香】

極上の生演奏が楽しめる19年ぶりのカバーアルバム

 歌手の小柳ゆきが、19年ぶりとなるカバーアルバム「RARE TASTY」を完成させた。ディーヴァとして完成された小柳の表現力や“すご歌テクニック”がぜいたくなくらい堪能できる全7曲。YouTubeで注目を浴びた「廻廻奇譚」のカバー演奏をはじめ、アニメ好きの彼女ならではのユニークな一面も楽しめる。不惑の40歳を迎えて「今が一番楽しいと思える瞬間」と語った小柳の現在にフォーカスを当てた。(取材・文=福嶋剛)

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――昨年行われたアニバーサリーツアー「LOST ANNIVERSARY TOUR~SPHERE 球宇宙 2021~」は最初から最後まで小柳さんのパワフルで美しい歌声に圧倒されたライブでした。

「ありがとうございます。私自身も感無量のツアーでした。“LOST ANNIVERSARY”というタイトルの通り、コロナ禍で1年遅らせての20周年となり、事務所を独立して初めてのツアーだったので、たくさんの方々の熱意に助けられてなんとか開催できました。最終日もすごくコンディションが良かったですし、いろいろなことが味方してくれて無事に完走できました。本当に大きな力を与えてもらったライブでした」

――ステージで歌う小柳さんの楽しそうな表情がとても印象的でした。

「歌が好きだというのはずっと変わらなくて、でも最近ようやく素直に思ったままの表現ができるようになってきた気がします。今まではもう少し高みを目指してそこに向かって葛藤したり悩んだりすることも多かったのですが、視界がだいぶクリアになったというか、昔ほど悩むこともなくなってきました。ようやくですね」

――そこにいたるきっかけが何かあったのでしょうか?

「大きなきっかけというより自然にそうなってきたんだと思います。私は目標の山が見えたらその頂上に向かって登っていき、山を超えたらまた次の目標となる山が見えてくるみたいな繰り返しをずっとやってきて、それは今でも変わらないです。今は1つ山を超えた時期ですね」

――ではそろそろ次の山が見えてくるタイミングですね

「もう見えてます(笑)。今回作ったカバーアルバムも山を登りながら作っていったら結果的に頂上に達したという感覚なんです」

――先ほど「自然にそうなった」とおっしゃいましたが、それは年齢的な部分も影響はありますか? 年齢の話は大変失礼ですが今年40歳を迎えました。

「そうですね。体調の変化はもちろんあるのですが、それ以上に年齢を重ねたことで気付きや感じ方みたいな部分が今まで以上に増えてきた気がしています。素直な表現ができるようになってきたこともその1つだと思います。今まで見えなくて拾えなかったものを今はしっかり自分の目で見て拾えていますし、ほかの人と比べたら遅い方かもしれませんが、やっとそれができるようになってきたという実感があります。だから今は楽しいっていうところが一番にありますね」

――まさに「不惑」ですね。良い意味で開き直ったところもありますか?

「アハハハ(笑)。たしかに! 開き直っているかもしれないです。開き直った部分とそうじゃない部分のバランスはすごくいい感じで取れています。今まで持っていたジレンマみたいな、雲っていたところもだいぶ晴れてきた気がします」

――そんな現在のモードで完成させた19年ぶりのカバーアルバムです。作ろうと思ったきっかけは?

「YouTubeです。コロナ禍で自粛が始まったばかりの頃にバンドメンバーとリモートで演奏した『be alive』をYouTubeにアップしたら、視聴者の方に楽しんでいただけたようで、何かもう1つできないかなと思ったときに、大好きなアニメ呪術廻戦のテーマ曲『廻廻奇譚』をピアノとペースと歌だけの3人編成で挑戦してみようと思いました。すると3ピースの演奏がものすごく楽しくて、動画もビックリするぐらい多くの人に見ていただいたので、このまま3人編成でカバーアルバムを作ろうと決めました」

オリジナルにリスペクトを込めて大胆アレンジでカバー【写真:舛元清香】
オリジナルにリスペクトを込めて大胆アレンジでカバー【写真:舛元清香】

小学生の頃、本気で漫画家を目指していた!?

――小柳さんにとって3ピースの魅力とは?

「ベースとピアノと歌という3人それぞれの生の演奏の面白さですね。1音たりとも聴き逃さないようなスリリングな緊張感もあるんです。意外とバンド編成よりもアレンジの幅も広がりますし。でもアレンジ作業はかなり頭を悩ませました。しっかり作り上げている原曲の勢いや空気感を失わないようにしながら、今の私が表現できるちょうど良い温度感みたいなものを探って、さらに音を削ぎ落しながら、3人が100%以上の力を発揮できなきゃいけないとか。……今回のレコーディングの大変さがちょっとでも伝わったかなぁ?(笑)」

――もちろんです(笑)。そして今回はすべて小柳さんの選曲だとお聞きしました。大好きなアニメのテーマソングが選曲されていますが、小柳さんは小さい頃から漫画やアニメがお好きだったとお聞きしました。

「はい。もちろん大好きでした。実は小学生の頃は漫画家になりたくて本格的なペンを買ってもらって物語を書いていたんです」

――それは初耳です。どんな漫画を描いていたんですか?

「それを話すのはちょっと恥ずかしですね(笑)。……ええと、ファンタジーっぽいものを描いていた気がします。何作か描いていたんですが、記憶に残っているものは、雪の女王みたいな(笑)。雪の女王が町の人たちと交流しながら冒険が始まるみたいな。そんな感じで3つ位いろんな物語を描いてました(笑)」

――小柳さんのウィキペディアが更新されそうなお話です(笑)。ところでアニソンのカバーは、ディーヴァ系のカバーとは歌い方で違いがありそうですが?

「まったく別の頭を使うような感覚でした。実は今回の選曲は、あえて表現するにはとても難しい曲ばかりを選んで挑戦してみたんです。さっきお話した高い山(=目標)を登るというのはこのことです。一筋縄では歌わせてくれない曲だからこそやりがいがあったんです。今回選曲した楽曲はディーヴァ系の曲とは真逆のキャラクターを演じることができ別の表現を織り込むことができるので楽しいんです。今回は歌声の強弱といった発声も大事ですが、それ以上に言葉の発音に気を付けながら歌いました。実はキャラクターになりきって歌うには発音が大切なんですよね」

――斬新なジャズアレンジに仕上がった1曲目の「Cry Baby」や小柳さんのエモーショナルな歌声が聴ける「unravel」など、それぞれに聴きどころが多い中で浅川マキさんと谷山浩子さんという2人の偉大なアーティストの作品をカバーしようと思ったきっかけは?

「『朝日楼 -朝日のあたる家-』は、もともとちあきなおみさんの歌が好きで、いつか歌いたいと思っていました。そのあと、浅川マキさんのオリジナルの曲に出会って、ものすごい衝撃を受けました。まるで語り部のように聴こえる歌い方で、浅川さんの表現は彼女にしかできないものなので、私なりの表現方法を探りながら3人編成でこの世界観を作ってみたいなって思いました。

 谷山さんの『まっくら森の歌』は子どもの頃に『NHKみんなの歌』で初めて聴いた曲で、歌詞と曲の世界観が子どもながらにずっと頭の中に残っていて、いつかこんなこわい童話のような歌を歌いたいと思っていたんですが、前作『SPHERE ~球宇宙~』に収録した『サイドウェイ-並行世界-』という曲は『まっくら森の歌』がモチーフに作った曲なんです。今回、谷山さんにカバーのご報告をしたとき、お返事と共に「心地よく深い闇でした。何度も聴きました」と、とってもすてきなメッセージをいただいて大変感激しました」

9月より全国5か所でライブを開催【写真:舛元清香】
9月より全国5か所でライブを開催【写真:舛元清香】

新旧カバー曲を織り交ぜたゴージャスな全国ツアーを9月に開催

――そして今回のアルバムデザインもとても華やかな雰囲気があります。

「今回は生演奏の味わいを楽しんでもらいたいアルバムなので、ちょっとクラシカルな雰囲気を感じてもらいたくて、アルバムタイトルの『RARE TASTY』の通り、生の風味を美味しく召し上がっていただけるようにジャケットを開くとレストラン風のデザインが施されているんです。ぜひCDを手に取ってご確認していただけるとうれしいです」

――まるで高級レストランのようなすてきなデザインです。そしてこのアルバムを引っ提げて全国5か所で開催する「Live Tour 2022『RARE TASTY』」が9月からはじまります。

「前回と同じフルバンドのツアーになります。カバーアルバムのテイストを残しつつ、さらにダイナミックなステージをお届けしたいと考えています。実はデビュー当時にリリースしたカバーアルバムの楽曲はこれまでライブで歌う機会が少なかったので今回のツアーで新旧織り交ぜながら披露したいと思っています。もちろん、オリジナルの楽曲も歌います。きっと楽しいライブになると思いますので、ぜひ見に来てください!」

□小柳ゆき 1982年1月26日、埼玉県出身。現役高校生のシンガーとして「あなたのキスを数えましょう~You were mine~」で99年にデビュー。NHK紅白歌合戦に過去3度の出場を果たす。「2002 FIFAワールドカップ 決勝戦前夜祭イベント」で世界的アーティスト「BOYZ II MEN」と共演。類いまれな歌唱力を活かしたオリジナル作品、圧倒的な存在感によって独自の世界を作り続けている。2022年8月、19年ぶりとなるカバーアルバム「RARE TASTY」リリース。9月6日より全国5か所で「Live Tour 2022『RARE TASTY』」を開催。

次のページへ (2/2) 【写真】アルバム用の衣装で登場した小柳ゆきのインタビューカット
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