車のペーパークラフト、作り手は“神の手”持つ元開発者 初見でも「30分で頭の中で設計図」

自動車外装部品の元開発者が、精緻な“クルマのペーパークラフト”を作り続けている。クリエーターの亘理(わたり)知之さんだ。カーメンテナンス雑誌「オートメカニック」(内外出版社)の表紙/付録を担当。名車・旧車のエンジンまで再現する“マニア心をくすぐる”職人魂を貫き、キャラクターからバイクまで、何でも作る達人の半生に迫った。

亘理知之さんはクルマだけでなく、バイクのペーパークラフトにも力を注いでいる【写真:ENCOUNT編集部】
亘理知之さんはクルマだけでなく、バイクのペーパークラフトにも力を注いでいる【写真:ENCOUNT編集部】

“プラモデル並み”オリジナル設計バイクを新開発 雑誌「オートメカニック」の表紙/付録を担当

 自動車外装部品の元開発者が、精緻な“クルマのペーパークラフト”を作り続けている。クリエーターの亘理(わたり)知之さんだ。カーメンテナンス雑誌「オートメカニック」(内外出版社)の表紙/付録を担当。名車・旧車のエンジンまで再現する“マニア心をくすぐる”職人魂を貫き、キャラクターからバイクまで、何でも作る達人の半生に迫った。(取材・文=吉原知也)

 子どもの頃から、クルマ、バイクと機械が大好きで、幼少期に住んでいた横須賀で造船場をよく見に行っていました。帆船やタンカー、潜水艦もあって。モノの仕組み図鑑も好きで読み込んでいました。当時クルマが好きだけどプラモデルは高くて買えない。じゃあ自分でどこまでできるかと段ボールや工作用紙で作り始めたんですよ。それが原点ですね。

 父がエンジニアだったもので、自然と工業系に進み、工業大学で勉強しました。トラック部品メーカーに就職し、その後友人の会社へ転職。そこで商品開発者として企画や製品設計、金型制作、生産、営業までオールラウンダーでやりました。そして、自動車の外装部品のサプライヤーで設計・開発に従事しました。その傍らで、クリエーターの活動も並行しました。自作のペーパークラフトが周囲で評判がよかったので、展示会に出展するようになって、バイヤーや広告代理店の方々とビジネスの人脈を広げることができました。

 脱サラして独立したのは6年前です。家の都合があって辞めたわけですが、当時、仕事の方向性をいろいろ模索していて勤め人としても自分でやってもリスクがあると感じていました。当初は、友人の会社に誘われて仕事を手伝う傍らクリエーター業を兼業して数年間過ごしましたが、いいものを作って、自分で自分の作品を売り込むことを地道にコツコツでやって、現在ではクリエーター業のみで仕事をしています。

 オートメカニックのペーパークラフトの付録は、エンジンまで付いているんですよ。これが、僕のこだわり。ペーパークラフトでエンジンまで作れるものってなかなかない。プラモデルでもあまりエンジンまでは付いていない。これはね、僕自身が欲しかったんです。「エンジンまで作りたい」というファン心理なんです。できれば本当は内装まで全部作りたいのですが、ページ数が許してくれないんです(笑)。5年程前から表紙を担当しているのですが、最初はイラストだけで描かせていただいていて、僕から編集長に「せっかくエンジニア向けの雑誌なんだから、読者が何か実際に作れる素材を付けましょうよ、どうせやるならエンジンも」と売り込んで、ペーパークラフトの付録が付くようになったんです。2018年夏に出した「旧車ペーパーモデル大全集 vol.1」では、人気の旧車10種を扱っていてオススメです。

「夢を凝縮したものが自分の手元にくる大きな喜び」

 コロナ禍前は、編集部の取材にも帯同させてもらって、メーカーや町の整備工場によく取材に行きました。表紙で扱うクルマについて記者さんが話を聞いている横で、僕はバシバシ写真を撮りまくって、他のクルマも見学して。ついには僕自身も熱心にあれこれ聞き回って(笑)。いまは資料の写真とカタログを見て作っています。

 クルマのペーパークラフトは大小合わせて年間100台ぐらい手がけています。設計図の作り方ですか? 大体のクルマは頭の中でできます。頭の中で描いたものをパソコンのイラストレーターで直書きで、ダーッと仕上げます。最初の半年ぐらいは、いろいろな角度からクルマの写真を撮影して、それを丹念に見ながらやっていたのですが、どんどん慣れてきて。初めて見るクルマでも、30分ぐらいあれば、頭の中で設計図が描けます。縦・横・高さの寸法と、ホイールベースの数字さえ教えていただければ。あとは、お客さんのリクエストでグレードや好きなオプション、車体のカラーに合わせて作りますよ。

 クルマのペーパークラフトの魅力。まず、クルマってなかなか買えないものですよね、その夢を凝縮したものが自分の手元にくるというのは、大きな喜びにつながると思うんです。それに、オートメカニックでは、スケール(縮尺)を絶対に合わせるんです。理由は、プラモデルと並べられるようにするため。車のプラモデルでよく使われるスケール1/24を採用しています。エンジンもそれなりに作る。そのこだわりを、喜びとして届けたいです。ペーパークラフトは、自分で簡単にオリジナルを生み出すことができます。作品に別の紙の素材をペタッと貼れて、色もペンで塗りやすい。マイカーの色にもカラーリングできます。自由度がすごくあるのもいいところです。

 今後に力を入れたいのは、バイクです。ライセンスの関係があるので、オリジナルのデザインのもので、より精緻な作品。これを目指しています。エンジン部分もそうですし、タイヤは厚紙を重ねてリアルに再現する。横にプラモデルのバイクを置いても遜色ない、そう思ってもらえるように極めていきたいです。オリジナル設計のバイクで勝負したいです。

□亘理知之(わたり・ともゆき)、1970年、さいたま市出身。工房「W2STUDIO」を経営。クルマ・バイクの他、キャラクターの立体的なペーパークラフトや3Dプリンターを使った文房具、イラストは手書きからCG画まで幅広く制作。ミニカー収集も趣味。

仕事の依頼はw2studio@w2studio.jp

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